国連が飢餓と餓死を戦争兵器として使用することを禁じた日
国連WFPの緊急事態部門の責任者であるマーゴット・ファン・デル・フェルデン担当官は、戦争環境での活動方法について多くのことを心得ています。サヘルから南スーダン、シリア、イエメン、そしてアフガニスタンに至るまで、国連WFPが戦時下の市民に食料を届ける際に、創造的かつ戦略的に重要な作戦決定を行います。
「それがすべての紛争における最大の課題です」と、ローマのオフィスで事務処理に追われる彼女は語ります。「だからこそ、4年前に採択された決議2417号は画期的な出来事でした。国連の高い権威が初めて飢餓と紛争の関連性を認め、飢餓が戦争の武器として使われたときに、世界が人道的な活動するためのより広い枠組みを与えたのです」。
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それはもちろん、ほんの数カ月前までは、ファン・デル・フェルデン担当官のアジェンダに含まれていなかった緊急事態、すなわちウクライナでの問題です。
紛争と治安悪化は飢餓のおもな原因であり、ウクライナではそれらが組み合わさって、人道的危機が世界で最も急速に拡大しています。「これは非常に複雑で、多くの影響を及ぼしています」と、過去20年間、紛争の現場で働いてきたこの人道主義者は説明します。この問題は、ウクライナの東部で食料が手に入らないということだけにとどまりません。
「ウクライナ紛争は、世界の食料・エネルギー市場に激震を与え、食料・燃料価格の高騰を招き、世界中で数百万人を飢餓の危機にさらしています」とファン・デル・フェルデン担当官は述べています。このままでは、2022年には最大で3億2,300万人が深刻な飢餓に直面する可能性があると警告しています。
この数字は、50年以上にわたって紛争や自然災害の最前線で活動し、緊急時には人命を救うだけでなく、生活基盤の整備支援プロジェクトなどを通じて紛争に巻き込まれた数百万人に希望を与えてきた国連WFPにとっても驚異的な数字です。
2020年、国連WFPは「飢餓と闘う努力、紛争地域の平和のための条件改善への貢献、戦争兵器としての飢餓の使用を防ぐ努力を推進したこと」を理由にノーベル平和賞を受賞した、とファン・デル・フェルデン担当官は述べます。
しかし、彼女の言葉を借りれば、数十年前とは全く異なるルールが存在する状況下では、どんな努力も十分とは言えません。「世界はもはや、ほとんどすべての国がジュネーブ条約に署名し、各国が「ルールに従って」行動していた頃とは違うのです。今は、人道的な国際取り決めを守らない国がたくさんあるのです」と彼女は語ります。
先週、国連安全保障理事会の世界の食料安全保障に関する2つのセッションで、「戦争兵器としての食料」という言葉が繰り返されました。「[決議]2417号は、シナリオ全体を変える特効薬ではないかもしれませんが、証拠が安全保障理事会にもたらされたのです」と彼女は言います。「レッドラインを超えたことに当事者のほとんどが同意している以上、緩和策を講じたり、解決策を推し進めたりするためには、証拠が不可欠なのです。」
国連WFPが2016年に決議の成立に向けて働きかけを始めたときのことを、彼女は振り返ります。「私たちは、オランダやスイス、米国、Action Against Hungerとともに、飢餓と政情不安の関連性をより考慮するよう、安保理に対して働きかけていました。」と彼女は言います。
「国連WFP が提示した証拠は、機運を盛り上げる上で極めて重要なものでした。2年の歳月と、他の人道支援パートナーやストックホルム国際平和研究所などの平和擁護団体による多大な努力が必要となりました。」
「その採択以来、私たちは定期的に、イエメンやスーダンのようなケースで、その証拠を補強するよう求められてきました。証拠は政策関与や人道的外交の推進に役立つため、私たちの役割はますます重要視されています。」
ウクライナ戦争が始まる前の1月、国連WFPとその姉妹機関である国連食糧農業機関が作成した最新の飢餓のホットスポット報告書では、飢餓を防ぐために人道支援が不可欠なエチオピア、ナイジェリア、南スーダン、イエメンに関して厳しい見通しが描かれています。
これらの国々はすべて、国連WFPが警告する「炎の輪」の一部であり、ここでは紛争と気候変動がコロナウイルスの大流行と交錯し、価格が高騰し、最も基本的な食料に手が届かなくなるという壊滅的な状況が拡大しています。このような状況の鎮静化は非常に重要です。
「国連WFPはまた、新たなリスクを特定し、危機の影響を軽減するための具体的な予測行動につなげるために不可欠な早期警戒ツールへの投資を増やすよう提唱しています」とファン・デル・フェルデン担当官は述べます。
しかし、議論から行動に移し、人々の生活に真のインパクトを与えるためには、どうすればよいのでしょうか。「私たちはすでにさまざまな紛争地域で影響を見ていますが、それでも十分ではないことは誰もが分かっています」とファン・デル・フェルデン担当官は言います。
「ウクライナでは、これまでに390万人に支援を届けましたが、東部ではまだ多くの人々が捕らわれています。だからこそ、人道支援コミュニティは、外交による解決を後押しするとともに、これらの人びとを放置するわけにはいかないのです。」
「国連WFPは、飢餓と紛争の関連性を示すより雄弁な証拠を継続的に探す必要があり、その点で、より良いツールとより多くのデータで、困っているすべての人々への自由なアクセスを主張し続けながら、毎年より重要な役割を果たしています。」
「政治的、治安的状況にかかわらず、人道的な空間とそれを必要とする人々へのアクセスを確保するために、人道的原則と国際人道法は常に尊重されなければなりません。(決議)2417号はこれに取り組むためのより良い枠組みを与えてくれるものであり、だからこそ不可欠なツールなのです。」
2018年の採択以降、特定のケースにおける飢餓問題の利用を調査するための委員会が新たに相次いで設置されました。また、国連人権理事会や食料の権利に関する特別報告者による紛争と飢餓問題への関与が高まり、国際刑事裁判所の規約が改正され、非国際紛争における飢餓問題の使用が同裁判所の管轄権に含まれるように拡大されました。
ファン・デル・フェルデン担当官は、拒否権によって決議2417号の背後にある意図が常に台無しにされる可能性があることを認めています。「それでも、紛争に巻き込まれた人たちを最終的に救うための解決策を見つけるために、私たちの手にあるすべてのツールを集め、努力を続けなければなりません。ニーズはあるのだから、あきらめるわけにはいかないのです」と言います。「私たちは、人道的原則を主張し続けます。人道に対する責任があるのです。」
本記事を執筆するにあたり、歴史的な視点を提供してくださった国連WFPのシニア戦略パートナーシップオフィサーであるシャノン・ハワード氏に感謝します。