ウクライナ戦争:「市場がないのにどうやって収穫を売ればいい?」
農家のアンドリイが育てた菜の花は、鮮やかに、黄色くてっぺんが色づき、そよ風に優しく揺れています。花から花へとハチが飛び交っています。まるで絵葉書のように、ウクライナのヴィーンヌィツャの景色はとても美しいのに、アンドリイはとても満ち足りた気持ちではいられません。ずっと落ち着かず、その顔には不安の色が浮かんでいます。
1年前、彼は大量のトウモロコシを265米ドル(8000ウクライナフリヴニャ)で売りました。もしアンドレイが今年買い手を見つけられたとして、良くてもその半分の値しかつかないでしょう。彼は小麦の収穫についても同様に心配しています。パンになることなく、サイロに眠ることになってしまうかもしれません。
「市場がないのに、どうやって収穫を売ればいい?」アンドリイは自分身に問いかけます。
世界中で記録的な数の人びとが、明日何を食べればいいのかわからない一方で、アンドリイのようなウクライナの農家による収穫は、食料を最も必要としている場所へと出荷できないままになっています。
国連WFPは、オデーサを含む黒海に面する港を、即時再開するよう求めています。そうすればウクライナからの重要な食料を、アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、シリア、イエメンといった国々の、食料不安に直面する人びとに届けられるのです。これらの国々では何百万もの人びとが飢きんの瀬戸際に立たされています。
昨年は4億人を賄うだけの穀物を産出したウクライナの農家にとって、そしてアンドリイにとって、戦争と港の封鎖によって引き起こされている様々な問題は、とても乗り越えられないもののように思われます。
彼の収穫が安値で売れても、高いコストで貯蔵庫にとどまっても、あるいは最悪のシナリオとして、攻撃で駄目になってしまっても、いずれの場合もアンドリイ、地域経済、彼の10人の従業員、そして待っているであろう消費者にとっては打撃となるでしょう。
「私たちは幸せに暮らしていましたが、もはやそうではありません」と彼は言います。「今は不安があります。生涯をかけて取り組んできたものが明日には失われてしまうかもしれないと、常に心配しています。」
彼の地域は今のところ紛争を免れていますが、不透明な先行きが国中を覆っています。すでに600万人が紛争のために国を去り、また800万人が国内で避難を強いられているのです。
国連WFPはウクライナの人びとを様々な方法で支援しています。国連WFPとウクライナ政府が協働して、国内で避難を強いられている人びとやその他支援を必要とする人びとを特定したことを受け、現金給付を受けた世帯の数は、1週間のうちに5万6000世帯から55万世帯へと急増しました。合計6800万米ドルが、ウクライナの全24州およそ87万7000人に届けられました。
国連WFPはまた、月々の配給と緊急の食料配給という形で、食料支援を実施しています。これまでのところ、ウクライナ全体で合計430万人に支援が届きました。国連WFPは地域で仕入れた小麦を国内の製パン所に供給しており、そこで生産された約200万斤のパンを、これまでに200万を超える人びとに配布してきました。
ウクライナではパンの配給が日々続いており、200万斤を上回るパン(935トン相当)が8つの都市で配られています。国連WFPのウクライナでの支援活動は、市場を支えること、そして生産から加工、貯蔵、輸送から消費までの食料システムを、強靭なものにすることを目指しています。
しかしながら、ウクライナにおける紛争の影響は外へと広がっており、飢餓の波が世界中に広がっています。もしウクライナでの紛争が収束に向かわなければ、国連WFPが活動する81の国々で、深刻な飢餓の人口が4700万人増加すると見込まれています。
数えきれないほど多くのウクライナの農家が、輸出が困難な状況に直面しており、アンドリイはそのうちの1人です。収穫を輸出することができないケースが積み重なれば、世界規模での悪影響が、とりわけ中東や北アフリカ地域にもたらされるでしょう。この地域の国々は、食料とエネルギーを輸入に大きく依存しており食料価格の高騰に脆弱で、ウクライナ危機から連鎖的に、深刻な影響を受けると予想されています。
この地域では、国連WFPによる現金給付が、人道的支援を提供する上で効率的な方法だということが証明されています。ニーズに応じて、どこで、どのようにお金を使うかを人びとが決めることができるので、緊急事態支援ならびに発展支援というどちらの状況においても、食料への出費にとどまらない様々な目的に役立てることができます。このような状況は実際中東に広がっており、国連WFPは2022年にすでに3億6200万米ドルを、不安定な立場にある人びとに送金しました。
一方で、アンドリイが心配になる理由はもうひとつあります——気候変動です。
彼が生まれてこのかた、気候変動の影響とは、生産高の減少を意味していました。さらに悪い状況になることを彼は恐れています。
「気候変動は大きなことです。そして現実に起こっていることです」と彼は言います。
彼はずっと農家として人生を歩んできました。その間に、降雨が不安定になってきたこと、冬の降雪が少なくなったこと、そして季節の規則性が緩やかに変化していることに気づきました。
農家の働き手とその家族は、作物からの収益を第一の生計手段として頼みにしているため、地域コミュニティは大きな打撃を受けているようです。不作の時期がやって来ることを想定し、アンドリイは小口融資を提供することでコミュニティを助けてきました。またこれによって、人びとがヨーロッパでの仕事を探しに出るのを、思いとどまらせようとしています。
さらに苦悩が増すことに、ウクライナにおける肥料の価格はここ数か月で3倍になりました。ガス価格は毎日上昇しています。ガソリンの供給が制限され、輸送にはとてつもないコストと手間がかかるようになっています。
「働き手に給料を払えない可能性があります。私にできることは、叶わない希望を頼みにすることだけです」と彼は語ります。
食料へのアクセスという問題は、アンドリイのようなウクライナの農家にとっては、悪い冗談のように聞こえます。彼らには食料があって、送り出す準備ができているわけですから、シリアやエジプトといった国の人びとはもっと高いコストを払っているのに、食べられる量が少ないという事実は、なかなか理解し難いことです。彼は自国が受けている支援に感謝していますが、高いコスト、紛争、そして気候変動の影響が、つかの間のものであるという希望にすがるほかないのです。
この記事は2022年5月22日に更新されました。