国連WFPの概要
[日本語版更新:2023年12月1日]
国連WFPについて
国連WFPは、120以上の国と地域に拠点を持ち、2022年は1億6000万人以上の人びとを支援しました。紛争、干ばつ、洪水、地震、ハリケーン、不作、さらには新型コロナウイルスをはじめとする世界的大流行など、緊急時には真っ先に現場に駆けつけ、食料やその他の支援を行います。同時に、持続可能な開発にも焦点を当て、長期的な食料の確保/入手を管理するための支援とスキルを各国政府に提供しています。
資金調達
2022年の調達資金:141億米ドル(過去最高)。必要とされる資金: 214億米ドル
国連WFPは、深刻な飢餓が記録的な水準に達している今、支援活動の縮小を余儀なくされる、致命的かつ歴史的な資金危機の最中にあります。このタイミングでの支援削減は、何百万もの人びとに計り知れない影響を及ぼし、国連WFPの飢餓と栄養不良と闘う活動を危うくします。今年、食料支援、現金支援、栄養援助プログラムなどの国連WFPの活動の約半分が資金削減のため、すでに縮小しているか、近く内に縮小する予定です。
基本データ
- 国連WFPの資金はすべて自発的な寄付によって賄われており、2022年には、過去最高の140億米ドルが集まりました。
- 国連WFPが支援した人々のうち50%は女性や女の子です。
- 穀物や豆、油などの食料が1000kgあれば、1日当たり約1660人を支援することが出来ます。これは、1日に必要なビタミンとミネラル、そして必要最低限の摂取カロリーである2100キロカロリーを満たしています。
- 国連WFPには23,000人以上のスタッフが勤務しており、そのうち87%以上が現場で働いています。
世界の飢餓
世界人口の10%以上にあたる、最大で7億8300万人もの人びとが毎晩空腹のまま眠りについています。2023年、国連WFPが活動を行う79カ国(データの入手が可能な国)において、3億3300万人が高いレベルの食料不安に直面すると推定しています。この数は、2022年初期(新型コロナウイルスの流行以前)と比較すると2億人も増加しています。54以上の国で4700万人の人びとが食料不安の「緊急」段階にあります。緊急の行動を取らなければ、「災害」レベルの食料不安、または飢きんに近い状態に陥る危険性があります。さらに、4500万人以上の5歳未満の子どもたちが急性栄養不良に苦しんでいます。
紛争や経済への打撃、異常気象、肥料価格の高騰などの要因が組み合わさり、飢餓に苦しむ人びとの数は徐々に増加しています。新型コロナウイルスによる経済失速や、ウクライナ戦争により、物価は上昇し、世界中で多くの人々が食料を得ることが難しくなっています。同時に、肥料価格の高騰が、トウモロコシ、米、大豆、小麦の生産量の低下を招いています。
こうした価格の高騰は、国連WFPの活動にも影響を与えています。2019年から2022年にかけ、国連WFPが支払う食料の調達価格は39%上昇し、最も必要としている人びとを支援する能力を妨げています。
飢餓の状態にある人びとの数が最も多いのはアジアで4億1800万人ですが、割合で見るとアフリカが最も多く、21%となっています。これは、最新の「世界の食料安全保障と栄養の現状」レポートによると、アジアやラテンアメリカ・カリブ海諸国の2倍以上の割合です。(併せてご覧ください:世界的な食料危機)
緊急支援の必要性
最新の「ハンガーホットスポット―FAO‐WFPの急性食料不安に対する早期警告」 では、18の飢餓ホットスポットにおいて今すぐに食料支援がなければ、2023年11月から2024年4月にかけて数百万人が食料不安の悪化に直面するとの早期警告を発しています。
人道支援は、最も警戒レベルの高いホットスポットにおいて、飢餓と餓死を防ぐ上で極めて重要です。しかし同報告書では、人道的アクセスが地域の不安定性、官僚的な障害や移動制限によっていかに制約されているかを強調しています。
ブルキナファソ、マリ、南スーダン、スーダンおよびパレスチナは最も警戒レベルの高い国として分類されており、今後6カ月にかけて食料安全保障の深刻な悪化と飢餓の可能性が懸念されています。2023年5月版の報告書以降、パレスチナに加え、チャド、ジブチ、ニジェール、およびジンバブエが飢餓ホットスポットの国・地域リストに追加されました。その要因には、紛争、食料価格の高騰や気候の影響などが含まれます。
国連WFPのコア・テーマ
緊急対応*と備え
国連WFPは、紛争、気候変動、パンデミック、その他の災害による緊急事態において最前線で活動する機関です。
また、国連WFPは物流クラスターと緊急通信クラスターの主導機関として、幅広い人道コミュニティを代表して大規模な緊急事態への対応を調整しています。
さらに、緊急事態への備えにも力を入れており、パートナーと協力して早期に警告を発信し、迫り来る災害の影響を軽減するためにコミュニティを支援しています。
- 国連WFPは1日に最大で6500台のトラック、20隻の船、140機の飛行機を動かし、食料やその他の支援を届けています。
(*以下の「近年の緊急事態」の項も参照してください。)
気候変動への対応
干ばつや洪水などの気候による影響は、農作物を枯らし、市場を混乱させ、道路や橋を破壊します。
国連WFPは各国政府や人道支援団体と協力して、増え続ける災害に最前線で対応しています。同時に、人道支援を必要とする人びとの数を減らすための措置を講じています。
国連WFPは、「予測型現金支援」を展開し、弱い立場に置かれた家庭に現金を提供することで、気候災害に先立ち、食料の購入や家の補強など、困難に立ち向かう回復力を高めるための対策を講じる手助けをします。この手法は、2023年11月にソマリアで発生した大洪水の前に活用されました。
- 2022年は、1500万人が国連WFPの気候リスク管理ソリューションを受け、14カ国の人びとを対象に異常気象による農作物などの損失に対する保険を手配しました。
母子栄養支援
持続可能な開発をするには、栄養不良が根絶され、将来の世代が活躍できるコミュニティの存在が必要不可欠です。
国連WFPは近年、緊急支援をはじめ、ビタミンやミネラルの欠乏、体重過多や肥満を含むあらゆる形態の栄養不良に対処することに焦点を当てています。
妊娠から2歳の誕生日までの1000日間を対象としたプログラムを通じて、栄養不良の初期の段階から取り組みを行っています。幼い子ども、妊娠中・授乳中の女性、HIV感染者を対象に、健康的な食事を提供しています。
- 2022年は2800万人(主に子どもや妊娠中・授乳中の女性、女の子)が栄養失調の治療や予防のための国連WFPの支援プログラムを利用しました。このプログラムでは200万トンの栄養強化食品が提供され、2021年に比べて39%増加しました。
学校給食支援
国連WFPは、学校給食を実施している最大の人道支援組織です。
学校給食は、子どもたちの栄養状態や健康状態を改善するとともに、子どもたちの人生を変える可能性のある教育を受ける機会を増やします。
さらに、学校給食は地元の食材を使って作られるため、何百万人もの小規模農家から食料を調達し、彼らの収入を増やし、地域経済を活性化しています。
国連WFPとユニセフは、何百万人もの弱い立場にある子どもたちのために、力を合わせ新たなプロジェクトを開始しています。
このプロジェクトでは、学校給食、栄養、虫下し、水・衛生などを取り入れた、学童の栄養と健康のための統合的なアプローチを採用する政府の支援に焦点を当てます。
- 2022年は59か国以上において、2000万人の子どもたちに学校給食、持ち帰り用の食料や軽食を直接提供しています。そのうち、49%が女の子でした。
小規模農家支援
世界の食料のほとんどを生産する小規模農家は、飢餓ゼロの世界を実現するために不可欠な存在です。
国連WFPの農家支援は、ビジネススキルのトレーニングから市場への道を開くところまで、持続可能な食料システムを構築するためのさまざまな活動を行っています。
- 国連WFPとパートナーは2021年、44カ国947,000人以上の小規模農家を支援しました。
- 国連WFPは2021年に27カ国の小規模農家から117,000トン(5,190万米ドル相当)の食料を調達し、彼らの生活に貢献しました。
自立支援
国連WFPの「労働の対価としての食料支援」プログラムは、長期的な食料の確保/入手の見通しを改善するとともに、平和にむけた環境を整えるのに役立ちます。
このプログラムでは、人びとが食料や現金を受け取り、当面の食料需要を満たすことで、気候変動への耐性を高めたり、市場へのアクセスを向上させたりするためのコミュニティの資産や生計手段を獲得するまでの時間を確保します。
- 2022年の「労働の対価としての食料支援」プログラムを通じて、990万人に食料支援を行いました。
現金支援
国連WFPは、人道支援団体の中で最大の現金支援組織です。
現金は、支援する人と受け取る人両者にとってより良い価値を提供します。支援を受け取る人にとっては食料の選択肢と食生活の多様性が増し、さらに地元の小規模企業の生産、小売、金融部門を活性化させます。
- 2022年には、30米億ドル以上が、現金あるいはバウチャーの形で、72か国以上の人びとに送金されました。
能力開発(キャパシティ・ビルディング)
国連WFPは、国別戦略計画を通じて、国の政策やプログラムを維持するために極めて重要な役割を担う、官・民・市民社会のさまざまな関係者に、国連WFPのスキルや知識を伝えています。
国連WFPは、災害リスクを管理し、食料の確保/入手を向上させるため、政府や他のパートナーの能力を高めるとともに、気候やその他の脅威に対する早期警報・準備システムにも投資しています。
- 国連WFPは、エチオピアの政府職員を対象に、洪水リスクゾーンのマッピングや災害後の作物の被害状況の把握などにドローンを活用するためのトレーニングを行っており、国連WFPの支援がなくてもドローンを活用できるよう職員の能力開発をサポートしています。
- バングラデシュでは、NGO「身体的弱者のための社会的支援とリハビリテーション」のスタッフに、コミュニティベースの栄養プロジェクトを実施するためのトレーニングを行いました。
ノーベル平和賞
2020年10月に国連WFPがノーベル平和賞を受賞したことは、飢餓をなくすためには平和が重要な役割を果たしていること、そして食料こそが平和を実現するツールであるという国連WFPの主張が評価されたものです。
紛争と不安は、飢餓の主要な要因です。国連WFPが支援している人びとの多くは、紛争を逃れ、土地や家、仕事を放棄せざるを得ない状況にあります。
今回の受賞により、国連WFPは世界の8億人以上の飢餓人口に対してより強い励ましの声を届け、彼らが必要としている食料支援を行う機会を増やすことができます。
デジタルイノベーション
新しいテクノロジーとイノベーションは、2030年までに飢餓ゼロを達成するという国連WFPの活動の推進力となっています。
ミュンヘンを拠点とする国連WFPのイノベーション・アクセラレーターは、新しいアイデアを発掘し、プロジェクトを試験的に実施し、インパクトのあるイノベーションを拡大しています。国連WFPは、世界中の 125 を超えるプロジェクトをサポートし、現地の支援活動を通じて、22 のイノベーションが拡大しました。2022年には、88カ国で、3700万人がこうしたイノベーションによる支援を受けました。
- ヨルダン、バングラデシュでは、世界でも最大規模のブロックチェーン技術が導入されており、100万人もの人々が支援を受けました。
- H2Growは、砂漠や難民キャンプ、インフォーマルな都市居住区においても、安価で、新鮮な野菜の栽培や動物の飼料の生産を可能にする、水耕栽培のイノベーションです。21カ国で展開されています。
- EMPACTは、デジタル技術の開発や、テクノロジー分野でのキャリア構築を潜在的に促進することで、避難民や食料不安を抱える若い世代を支援しています。2021年には、2万1000以上の人々がトレーニングを受けました。
イノベーション・アクセラレーターは、国連WFPの国事務所、地域事務所と協力して、地域のイノベーションハブとなるユニットや、そのネットワークを世界中で構築しています。
近年の緊急事態
アフガニスタン:タリバンがアフガニスタンの政権を掌握してから、信じられないような規模の人道的危機が、さらに複雑で深刻になっています。失業、現金の不足、物価の高騰により、アフガニスタンでは新たな飢餓層が生まれています。1530万人の国民が、十分な食料を得ることができていません。
アフガニスタンへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
コンゴ民主共和国:コンゴ民主共和国(DRC)は世界で最も深刻な食料危機に直面している国のひとつです。総合的食料安全保障レベル分類(IPC)によると、イトゥリ州の東部、北キヴ州、南キヴ州3州では670万人が、全国で推定2580万人が人道的危機レベルまたは急性の食料不安に直面しています。
コンゴ民主共和国への緊急支援についてはこちらもご覧ください。
エチオピア:11月中旬の活動再開以来、国連WFPのトラックは何千トンもの食料をティグライ地方に運び入れ、支援を最も必要としている人びとに届けることができるようになりました。国連WFPは同地域で210万人に食料支援を行っています。
エチオピアへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
ハイチ:ハイチの人道危機が憂慮すべきスピードで深刻化する中、2023年8月以降だけでも、数万人の人びとが首都のポルトープランスから避難しています。ハイチ全土で20万人以上が避難生活を余儀なくされ、食料やその他の必要物資が不足し、緊急支援が必要とされています。
ハイチへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
ミャンマー:近年の歴史上最悪の人道危機に直面しているミャンマーでは食料不安が急激に高まっており、人口の5人に1人である1070万人が影響を受けています。政治危機、紛争、経済不況、既存の貧困、および気候に関連するショックは、すべて緊急事態を引き起こしている要因です。
ミャンマーへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
ナイジェリア:ナイジェリア北東部のボルノ、ヨベ、アダマワの3州では、ボコ・ハラムによる暴力が何百万人もの人々の命と生活を脅かしています。合計440万人が深刻な飢餓に直面しており、32万人の子どもたちが急性栄養不良に陥っています。
ナイジェリアへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
サヘル:サヘルにおける紛争は生活と生計を根底から覆し、多くの人びとが絶望の淵から逃れるため、避難を余儀なくされています。気候危機の影響、食料・燃料価格の上昇をもたらす世界経済の逆風、農業生産の減少、コミュニティ間の緊張が、サヘル中心部における飢餓の主な要因です。
サヘル中心部への緊急支援についてはこちらもご覧ください。
ソマリア:過去数十年で最悪とも言われる洪水によって、50万人近くが家を追われています。洪水の被害は、2020年から2023年にかけてソマリアを飢饉寸前まで追い込んだ史上最長の干ばつに続き、生計を再建しようとする家族の努力を打ち砕いてしまいました。
ソマリアへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
南スーダン:南スーダンでは、前例のない洪水危機が国土の大部分を飲み込む一方で、他の地域では壊滅的な干ばつに見舞われています。人口の3分の2にあたる国民の770万人が急性食料不安に直面しており、同国の飢餓の状況は内戦時の数値を上回り、史上最も深刻化しています。
南スーダンへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
パレスチナ:ガザ地区における紛争が急激にエスカレートし、住民全体が絶望的で破滅的な状況に陥っています。ほぼ全人口である約220万人が食料支援を必要としています。何十万人もの人びとが過密状態の避難所や病院に追い込まれ、食料や水は底をついています。
パレスチナへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
スーダン:スーダンでは現在も続く戦闘により、今後数カ月でさらに最大250万人が飢餓に陥ると予想されています。今回の紛争が勃発する前から、人口の約3分の1にあたる過去最多の人びとが飢餓に直面していました。
スーダンへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
シリア:シリアは世界で6番目に食料不安の人口が多い国です。国連WFPの推計によると、人口の半分以上にあたる1210万人が食料難に陥っています。さらに290万人が食料不安に陥る恐れがあり、わずか1年で52%も増加しました。人びとの栄養状態は悪化しており、発育阻害や栄養不良の割合が国の一部で増加しています。
シリアへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
ウクライナ:ウクライナでは、戦火の中、多くの人が避難を余儀なくされ、インフラの破壊やサプライチェーンの寸断によって国の経済に大きな影響が出ています。国連WFPの推計によると、3世帯に1世帯が十分な食料を確保できておらず、東部と南部の一部地域ではその数は2世帯に1世帯まで増加しています。
ウクライナへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
イエメン:イエメンにおける緊急対応は2023年、最も脆弱な1500万人に緊急食料支援を提供することを目標に掲げており、国連WFPにとって世界最大規模の活動です。
イエメンへの緊急支援についてはこちらもご覧ください。
国連人道支援航空サービス(UNHAS)
国連WFPアビエーションは、国連が定めた唯一の航空輸送サービスである国連人道支援航空サービス(UNHAS)を運営しています。
このサービスは、人道支援・開発コミュニティを、必要としている人びとに結びつけ、地球上で最も離れた危険な場所にも到達します。
また、治安の悪化や道路などのインフラの損傷により他の輸送手段が使えない場合や、他の民間航空会社が運航できないような場所でも、途切れることなく物資を届けることができます。
UNHASは、2022年に危機や緊急事態に直面している22カ国において、74機の航空機を運航し、320の定期的な目的地にサービスを提供しました。
同サービスは、医療避難サービスの提供、医療貨物やスタッフの輸送など、新型コロナウイルスへの世界的な対応をサポートしました。