ウクライナ戦争:人道的悲劇はいかにして世界的な飢餓の危機を深めたか
2022年2月24日、ウクライナ南部の自宅にいたアリョーナさんは、上空で鳴り響く軍用機の音で目覚めました。
「私たちは素朴で穏やかな生活を送っていましたが、突然戦争が始まったのです」と、3児の母親である32歳のアリョーナさんは振り返ります。「とても怖かったです」。
それから一年、ウクライナ戦争は国内外の生活を一変させ、国連WFPの人道支援活動にも極めて大きな試練を突きつけました。
ウクライナでは500万人以上が国内避難民となり、800万人近くがヨーロッパで急増する難民の一部となっています。これは第二次世界大戦以来、最も急速に人口移動を余儀なくされているケースのひとつであり、多くの人がアリョーナさんのように何度も家を追われてきました。
現在、ウクライナではおよそ3世帯に1世帯にあたる、1,100万人が食料不安に陥っています。人口の3分の1は職を失いました。多くの人びとが、電力の無い状況で厳しい冬を過ごしています。
地雷や戦争の残骸により耕すには危険な農地もあり、世界最大の穀倉地帯の一つであるウクライナの生産力が大きく妨げられています。
戦争の影響は広範囲にわたり、壊滅的な被害をもたらしました。世界的な価格高騰を招き、レバノン、スーダン、ベネズエラのような遠く離れた国でも飢餓が深刻化し、ソマリアやイエメンなど内戦を抱える最も不安定な国々において、飢餓の大惨事まであと一歩というところまで追い込んでいます。
重要な黒海穀物イニシアティブの期限が来月に迫り、戦争の影響はさらに深刻化する恐れがあります。
国連WFP事務局長のデイビッド・ビーズリーは「世界のすべてのリーダーへ、私たちは黒海穀物イニシアティブを延長しなければなりません」と述べ、国連WFPなどの積み荷がウクライナ産の穀物を弱い立場の国々に輸送することを認めた2022年の合意について言及しました。
「何としても延長しなければなりません」とビーズリー事務局長は言います。「ウクライナだけで世界の4億人に食料を供給しているのです」。
対応力の強化
この1年間、国連WFPの運営費は大幅に増加したにも関わらず、未だかつてない危機への対応力が飛躍的に強化した年でもありました。アリョーナさんの恐ろしい目覚めから数日後、国連WFPはウクライナで食料支援を行うために緊急支援を開始し、国連を代表して物流も主導しました。
現在、国連WFPはウクライナで毎月約300万人の国内避難民や被災者を支援しており、前線の全域に食料を配布しています。スーパーマーケットや銀行が機能している地域では、現金支援も行っています。地域経済を支えるとともに、安全と判断された場合に店舗を再開できるよう働きかけています。
昨年3月以降、国連WFPの支援活動と穀物輸出によって、ウクライナ経済に7億米ドル以上を注入しています。国連WFPの食料はほぼすべて現地で調達しており、現地のパートナーと直接連携しています。
たとえば、国連WFPが前線に暮らす何千もの家族に届ける焼きたてのパンは、ウクライナ南部の都市ミコライウにある女性主導のビジネスなど、地元のベーカリーで仕入れています。
「電気、ガス、水道を破壊され、何も残されていない村にいる人びとに届けています」と、ベーカリーのオーナー、アリョーナ・ラコバさんは言います。「わたしたちのパンが、こうした人びとにとってどれほど価値のあるものかを実感しています」。
国境を越えたモルドバでは、国連WFPは毎月、食料・現金支援を何千ものウクライナ難民とホストファミリーに届けています。モルドバ中央部の都市クリウレニにあるような特別な難民宿泊施設に住むウクライナ人に、温かい食事も支援しています。
「私はいつも、故郷を想起させるような料理を考えています」と、シェフのタチアナさんは言います。彼女自身も以前モルドバの紛争で家を追われた経験があります。「私はウクライナ難民たちにここで幸せになってほしいのです」。
黒海の突破口
ウクライナの戦争は、より広範な食料・エネルギー危機も激化させました。特に昨年初めには黒海の港が封鎖され、数百万トンのウクライナ産の穀物が輸出できず、その影響は極めて深刻でした。その中には、アフリカなどの弱い立場にある人びとが切実に必要とする国連WFPの食料支援も含まれていました。
昨年7月には、黒海穀物イニシアティブによって、食料輸出のための海上回廊が開かれるという突破口が開きました。 その後まもなく、国連WFPの最初の輸送船が向かいました。何百万人もの人びとが壊滅的な飢餓に苦しむ干ばつのアフリカの角に向けて、約2万3,000トンの小麦が出荷されたのです。それ以来、国連WFPのチャーター船16隻がこのイニシアティブのもと航行しています。
イエメンのような国では一部地域で緊急の飢餓レベルにあり、昨年10月に到着した国連WFPの小麦は、同国北西部のハッジャ州に住むマリアム・オスマンさん一家のような家庭に届いています。
「もし食料支援が届いていなかったら、私たちは飢えで死んでいたかもしれません」、未亡人で3児の母であるマリアムさんは、豆類や油も含まれる国連WFPの支援についてこう話します。
国連WFPは、ウクライナの次の栽培期を見据えて、国連食糧農業機関(FAO)、ウクライナ政府、その他のパートナーとともに、農地の地雷や爆発物の残骸の除去に取り組んでいます。
「今最大の課題は、地雷があるかどうか分からない畑に立ち入れないことです」とウクライナ南部の農家、クレパチ・アレクサンダー・ミコラヨビッチさんは話します。それでも、クレパチさんは穀物の豊作に期待を寄せています。
国連WFPウクライナ国事務所のマリアンヌ・ウォード副代表は、「農業コミュニティを早く立ち上げることができれば、経済や食の多様性により早く貢献できます」と話します。
アリョーナさんのようなウクライナの人びとの多くは、パスタなどの主食や肉の缶詰、ひまわり油などが入った国連WFPの食料支援セットに頼っているのが現状です。
アリョーナさんの子どもたちは学校に復学しましたが、電気や水道は不安定で、一家の将来は不透明なままです。
「戦争が早く終わって、元の生活に戻ることを願っています」と彼女は言います。
国連WFPのウクライナにおける食料および現金支援は、USAID、オーストラリア、カナダ、チェコ共和国、デンマーク、欧州連合、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、日本、クウェート、ルクセンブルグ、ミクロネシア連邦、ノルウェー、韓国、スロバキア、スロベニア、スイス、東ティモール、国連中央緊急対応基金(UN CERF)、アラブ首長国連邦、英国、そして民間企業と個人の皆様からの惜しみないご支援により支えられています。(アルファベット順)