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「食べ物以外に、使っちゃいませんか?」

経緯
, WFP日本_レポート

現金支給の疑問に答える【日本人職員に聞く】

国連WFPは、食糧の現物支援だけでなく、食料を買うための現金などの支給もしています。「食べ物以外にお金を使ってしまうのでは?」誰もがそんな疑問を抱くことでしょう。スーダンで現金支給の導入に取り組む日本人職員、松元正寛(まつもと・まさひろ)が、仕組みを説明します。

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電子バウチャーを見せる女性(スーダン) Photo: WFP/Gabriela Vivacqua

国連WFPの現金支給は、2005年のスリランカの大津波の時に試験的に導入されました。食糧を配給する代わりに現金などを配り、地元商店で食品を選んでもらうシステムです。銀行口座へ送金するほか、紙の食糧引換券、写真や指紋認証を組み込んだ食糧引換券(電子バウチャー)、携帯端末を通じて送金することもあります。 2016年には活動資金58億米ドルのうち約9億ドルが現金や食糧引換券で配られ、支援を受けた人は1400万人に上ります。

松元さんに聞く

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松元正寛さん Photo: M.Kuroyanagi

-現金支給のメリットは?

私の家は食事のしつけがとても厳しく、残すと家の外に出されました。それでも私はレバーが、姉はしいたけが食べられません。私や姉と同じように、難民や被災者の人々にだって、苦手な食材はあるでしょう。 現金支給なら、各家庭が必要とする食材を必要な時、必要な分だけ入手できます。受け身にならず、自分で食べるものを決めることは、自立の第一歩です。食事作りを担うことが多い女性に支給すれば、女性の地位向上も期待できます

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様々な支給方法がある。Photo: WFP/Georgina Goodwin(左)、 WFP/Karel Prinsloo(右)

国連WFPの食糧支援は従来、国外で買い付けた食糧を船で運ぶのが主流で、品目も穀物、豆類、油、砂糖、塩に限られました。しかし地元で取れたものを地元の店で買えば、地域の経済活性化につながります。野菜や果物、魚や香辛料など食材の選択肢も広がり、独自の食文化を守ることにもなります。 コンゴ民主共和国では導入に先駆けて、試験的に国連WFPが人工的な市場を作り、引換券で好きなものを買ってもらいました。人々は10くらいの店の中から、質の良い豆、新鮮な植物油を売っている店を見抜き、行列を作っていました。目利きの力も、現金や引換券でこそ発揮できます

-食べ物以外のものに使ってしまいませんか?

被災者がどれだけ食料を必要としているか、事前に調査することがとても重要です。本当に食べ物に困っていれば、どんな形の支援であれ食料に使われるからです。現金配布の直後にも、支給した人たちの食料不足が解消したか、栄養状態が改善したかを計測します。これらのデータを分析し、現物、食糧引換券、現金のどれが一番効果的かを判断します。

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国連WFPの支給する現金や、食糧引換券を使える商店(スーダン) Photo: WFP/Gabriela Vivacqua

-デメリットはありますか。

地域によっては男性の力が強すぎ、お金を勝手に使ってしまうなど、現物が一番適している事があります。国内避難民や難民は、現金を受け取るための銀行口座を開きたくとも正式な身分証明書がなかったり、契約書を読めなかったりすることもあります。 私の勤務するスーダンの場合、東部のレッドシー州ポートスーダンでは男性しか市場に行けません。これには驚きました。地域の文化や習慣を尊重し、住民の声をよく聴いた上で、違いに応じて最も適した方法を選ばなければなりません。 事務的には、使用済みの紙の食糧引換券置き場に困っています。記録のため6年間残す決まりで、簡単に捨てられないのです。また、支援する国や人によっては、現金より現物支給を好む場合もあります。

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Photo: M.Kuroyanagi

-苦労した経験はありますか。

南ダルフール州で、避難民に初めて現金支給の紹介をした時「私たちが強盗に殺されたら、あなたは責任を取れるのか」と怒鳴られました。 何カ月も彼らと相談した上で、キャンプ内の地元商店に小型の認証機器を置き、銀行の代わりに現金を支給してもらう方法を考案しました。これは女性たちの強い要望に応えた仕組みで、銀行でお金を下ろした帰りに狙われる危険がなくなりました。 導入して半年後には怒鳴った人が「本当にありがとう。現金のおかげで野菜を買えるようになったし、市場も活性化した」と笑顔で言ってくれました。すごく嬉しい経験でした。

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