【日本人職員に聞く】どんなことがあっても食料支援を途切らせない(後編)
2023年4月に紛争が勃発したスーダン。昨年8月には、死に至るほどの重度な飢餓がさらに深刻化し、「飢きん」が確認されました。日本から遠く離れたこの地で、日々命を支える支援を続ける人びとは、どのような思いを抱えているのでしょうか。WFPスーダン事務所でシッピング・オフィサーを務める山﨑和彦さんに、その思いを伺いました。
あなたは何を持ち、なにを残していきますか?
紛争の勃発は、いつか起きるかもしれないと想像していたものの、それは2023年4月15日に何の前触れもなくやってきました。誰にとってもまさに「青天の霹靂」でした。首都ハルツームなど、各地は直ちに激烈な戦場と化し、大多数の一般市民が瞬時にして想像を絶する災禍の中に巻き込まれてしまいました。もともと苦しい生活や自然環境の中、やっとの思いで暮らしていた人びとは、唐突に新たな苦難に直面せざるを得なくなってしまったのです。
「苦難」と一言で片づけてしまいますが、日本から遠い外国で起きていることをその人の身になって理解するというのはなかなか容易なことではないと思います。
でも、例えば次のような問いかけをご自身にしてみてはどうでしょうか?ある突発的事態があなたの身のまわりに起こって、緊急避難のため「15kg以内の荷物ひとつのみを持って、バスの集合場所にX時までに集まれ。目的地までの距離800キロ超。所要時間は不明、途中に検問箇所複数あり…」という連絡を受けたとします。あなたは何を持ち、なにを残して(やむを得ず別れて)いきますか?それとも身の危険を覚悟の上で、その場に残ることを選びますか?その判断は簡単ではないはずです。苦渋の決断を強いられます。家族に病気の人がいたら?年老いた親は?もしペットがいたら?でもこうした状況は、今回例えば首都ハルツームからポートスーダンにバスや車で続々と逃れてきた、ごく普通の生活者に実際に起こったことなのです。避難に36時間かかった人もいます。私はポートスーダンで、こうした人びとを目の当たりにしてきました。赤ちゃんを抱いた人、子ども連れはもちろん、中にはペットを連れた外国人も。長時間、長距離、途中何が起こるかわからない恐怖と向き合いながら、どの人も一様に長時間の緊張に疲れ果て、しかしポートスーダンに無事到着できたことで、安堵の表情を浮かべていました。私も日本人の避難者の方から、そっちでお米は手に入るか?何を持っていったらいいのか?と電話をもらいました。しかもその後、国外退避を望む人は、紅海の対岸、サウジアラビアのジッダを目指して国際フェリーでの避難をさらに続けます。私は実際に港でその光景を見ましたが、人が溢れかえり危険な状況で、普段は車を搭載するデッキに数えきれない人びとが先を争って乗り込みます。旅券が不備なのか、乗船を拒否される人もいます。親とはぐれたのでしょう、小さな女の子が一人で船員に付き添われて乗っていました。その後無事に家族と会えたでしょうか…
ただでさえ厳しい環境の中でもこれまでなんとか頑張って生き抜いてきたスーダンの人びとに、またもや突然襲い掛かった今回の悲劇。世界の注目がウクライナや、パレスチナに集まる中で、スーダンの状況はどうしてもその陰に隠れてしまいがちです。しかし、この状況が長引けば飢餓状態にある人びとの数はさらに増え、より深刻な事態へと向かうでしょう。今スーダンで起きていることを決して忘れてはならないと思うのです。
そして、事の背景はともあれ、紛争によって、この国の人びとの未来が損なわれることになってはならないと強く思います。特にこの国の将来を背負う子どもたち、若者が教育や就業の機会を失ったり、あきらめたりすることは起きて欲しくないと思います。紛争が長引くほど、それによるダメージは深くなる一方でしょう。先行きは決して予断を許しませんが、紛争解決の時が必ず訪れると信じ、やがて人びとが再び立ち上がる日のために、WFPとしても紛争が終結するまで、どんなことがあっても食料支援を途切らせることなく続けていかなければならない。それを我々の使命と考えて日々格闘しています。
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「ウクライナで困っている人びとのためになるのなら!」
食料支援といってもWFP単独でなにもかも成し遂げることは絶対に不可能で、関係政府機関をはじめ、様々なパートナーとの協同があってこそ成り立つものです。
紛争前の2022年3月に遡りますが、緊急でウクライナへ栄養強化ビスケット250トン(25,000箱)をポートスーダンの倉庫から空輸するというミッションが飛び込んできました。
WFPポートスーダン事務所は港のオペレーションに関しては経験豊かですが、空港のハンドリングは未経験の分野でした。幸い私はマレーシアの国連人道支援物資備蓄庫(UNHRD)で空輸による緊急支援の経験がありましたので、さっそくマレーシアのかつての同僚に航空輸送に必要な書式などを送ってもらい、ローマ本部の航空部門とも連携しながら準備にあたることになりました。貨物機はローマ本部によってチャーターされ、計250トンを50トンずつ5回に分けてピストン輸送することになりました。
当初、航空当局は滑走路上の問題から受け入れに難色を示したり、また機体にビスケットを載せる段階で、サイズが机上の計算と合わず、真夜中に大慌てで積み付け方法を変更したりといった想定外の難問もありましたが、皆でアイデアを出し合いなんとか乗り越えました。
また貨物機の事情から、バケツリレー方式で膨大な数のビスケットの箱を機内に搭載する必要がありました。この時嬉しかったのは、ポートスーダンで運航している複数の航空会社の職員が、組織の壁を越えて「ウクライナで困っている人びとのためになるのなら!」と率先してボランティアに駆けつけてくれたことでした。当時は紛争前とはいえ彼ら自身の国も困難な状況にある中、私は今でもその場の一体感、感動を忘れません。25,000箱を一つも残すことなく短期間で空輸できたのは、彼らの助けなくして成しえなかった事だと思っています。
支援者の皆さまへ
ウクライナ、中東パレスチナ問題が、国際社会の関心や支援活動の注目を集めるなかにあって、スーダンの問題にお心を寄せていただき、ご支援をいただいておりますことに心からの感謝を申し上げます。スーダンで2023年4月に始まった軍事衝突は一向に収束の気配を見せず、長期化が懸念されています。紛争地域から逃げられず飢餓状態にある人びと、さらに1,000万人以上もの人びとが国内避難民になったり、やむを得ず国外に逃れたりしています。
WFPは全力で支援活動にあたり、世界最大ともいわれるこの人道危機に立ち向かっています。
これからも皆さまのあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。