【日本人職員に聞く】紛争と干ばつに悩むエチオピア 「しのぐ」支援から「立ち向かう」支援に
干ばつと紛争により人道危機に陥っているエチオピア。深刻な干ばつに加え、2020年11月から激化した紛争により、人々は食料不足に苦しんでいます。今もエチオピア現地で支援を続けている日本人職員の浦香織里さんに、話を聞きました。
エチオピアで広がる2つの脅威
「干ばつに見舞われている地域には、本当に何もありません。家畜を死なせないために、家の屋根にあるわらをとってご飯として食べさせているほどです。そのようなところで、彼らは生きています」
エチオピアは、何十年も干ばつが続いているアフリカ東部の「アフリカの角」と呼ばれる地域に位置する国です。直近3回の雨季には雨が降らないほどの干ばつに見舞われました。
それがどれほど深刻な状態なのか、浦さんはソマリ地域で出会った女性から気づかされたといいます。
「ひどい干ばつで家畜は全滅。村の中で一番裕福だと思っていた家庭の牛や羊もみんな死んでしまうほどの被害を受けている。これからどうすればいいのか…今後もしWFPが農業プロジェクトを行うことがあれば、ぜひ参加したい」と訴えたそうです。
「ソマリ地域に住む人々はほとんどが遊牧民で、家畜を飼いながら生計を立てています。財産そのものである家畜が死んでしまえば、生活を続けられなくなります。自分の慣れ親しんだ生活スタイルや伝統を投げ売ってまで、生きようとしている人々が実際にいるのだと実感しました。このような人たちが300万人います」と浦さんは深刻な表情で語りました。
エチオピアでは、干ばつという大きな脅威に加え、2020年11月から北部で激化しているティグライ州の紛争により、北部全域で940万人の人々が食料支援を必要とする厳しい状況が続いています。
「もともと厳しい干ばつにより影響を受けていた人たちが、紛争によって食料価格高騰などの経済危機に拍車がかかり、さらに苦しい生活を余儀なくされています」と危機感を語りました。
さらに大きな問題は、紛争が起きているティグライ州に食料が届けられないことです。
「2021年12月までは使える道路があったため食料を届けられていましたが、現在その場所での紛争が増えたことにより、トラックが入っていけない状況が続いています。備蓄されていた食料もすべて配布が終わってしまいました。トラックを走らせるためのガソリンも、政府からの許可が下りないために、ティグライ州に運び込むことができません。」
国連機関が支援を行うためには、政府からの許可が必要となります。WFPが人道支援のために燃料が必要だと主張している一方で、許可が下りない背景には、反政府側に燃料が渡るのを警戒するエチオピア政府の存在があるのだといいます。
「この難しい状況下で多くの国連機関が、支援はしたいのに物資や燃料が届かないという二重苦に悩まされています」
ばんそうこうを貼り続けるのではなく、脅威に耐えうる力を培う
2つの脅威に迫られているエチオピアで、浦さんは支援事業の責任者として6つの事業を指揮しています。
緊急食料支援、栄養改善、難民支援、学校給食、レジリエンス強化、栄養失調・消耗症予防の6つの事業です。浦さんは、それぞれの事業のニーズ把握からモニタリング・評価までのプロセスすべてにかかわる仕事をしています。この中の難民支援について、エチオピアにはあまり難民のイメージがないために、報道されることは少ないが、重要な問題だと浦さんは話します。
「エチオピアには現在70万人の難民がいます。隣国のソマリアからの難民が多くいるのですが、大半は干ばつから逃れてきた人々です。干ばつには、国境がありません。」
6つの事業の中でも、食料支援機関であるWFPで注目されがちなのは食料を届ける緊急食料支援です。しかし浦さんは、支援している人々の「今」だけではなく、「未来」を見つめる支援の重要性を感じています。
「私たちはよく、緊急支援は傷口に絆創膏を貼っているだけで、貧困地域の根本的な解決にはなっていないのではないかという悩みにぶつかります。干ばつに悩んでいる地域に食料を届けたからと言って、干ばつがなくなるわけではありません。人々の生活に変化を起こすためには、気候変動がある中でも生活していけるように、人々のレジリエンス、生活力を高めていくことが重要です。」
浦さんは、以前のレジリエンス強化のプロジェクトで組成された、10名ほどの女性の組合を訪問したそうです。組合では、難民や遊牧民、女性などの土地を持たない人を対象に、少額を積み立ててビジネスを行うそう。
グループで責任を負うことで資金を調達することが容易になり、ミシンを購入して裁縫の事業を始めたり、家畜を飼うなどして自分で生計を立てることができるようになります。
国連WFPのレジリエンス強化プロジェクトでは、資金提供などの直接的な支援よりも、川の灌漑設備を整備したり、組合の組成を行うといった間接的が中心となります。
人々の自立力が高まることで、非常事態が起きたとしても耐えうる力が身につくのだと浦さんはいいます。
「干ばつがやってきても、川から水をくみ上げる施設を整備しておいたおかげで、家畜のための飼料を生産できるようになり、家畜の全滅を避けることができたという話もあります。このようなレジリエンスを強化していって、深刻化する干ばつにも立ち向かえるようにすることが課題です。」
浦さんは、紛争や災害が猛威を振るうエチオピアで、人々が自立して生きていける未来を見据えています。
浦 香織里さん
Wesleyan University卒業後、London School of Economics国際関係学修了。投資銀行業務に従事した後、NGOにて主に緊急人道支援に従事。国連WFPギニアビサウ事務所、国連WFPモザンビーク事務所、在カメルーン日本大使館、国連WFP西アフリカ地域局、JICAセネガル事務所、国連WFPローマ本部、WFP 国連世界食糧計画(国連WFP)南部アフリカ地域局を経て、2020年から現職。