エチオピア:未曾有の干ばつで飢餓が深刻化する現地での国連WFPの取り組み

Photo: WFP/Michael Tewelde
エチオピアのソマリ州アダドル地区の平原には何十年にもわたり草が高く生い茂りライオンが潜んでいることもあったといいます。それも今は昔の話となりました。
この4カ月間に、この地区の集落では80世帯以上が水を求めて家を去りました。
ハナさんもこれまで一度ならず何度も移動を繰り返してきましたが、49歳の(ハナさんの)牛たちはもう立ち上がることもできないほど衰弱しており、40℃の灼熱の中を移動することはできません。

Photo: WFP/Michael Tewelde
アフリカの角と呼ばれる地域の1300万人の人びとを脅かすこの干ばつで、ハナさんはすでに17頭の牛を失いました。残されたのは5頭となり、牧畜農家として厳しい現実にさらされています。(牧畜農家は耕種農家と異なり、自分の食べる食料は栽培しますが、生活の糧は作物ではなく家畜の飼養や取り引きから得ています。)
7人の子供を1人で育てるハナさんには、今の場所に留まるよりほかに選択肢はありません。
「なるようにしかなりませんが、ここを動くことはできません」とハナさんは言います。
「ここに残り、僅かながらもできる限り家畜の世話をして生き延びることに希望をかけるよりほかはありません」
通常であれば、ハナさんと家族が3カ月の乾季を凌ぐのに十分なとうもろこしなどの穀類を栽培できますが、この数年間は数週間分しか確保できていません。
降水量の少ない雨季が何年も続くと、完全に元の状態に戻ることはできなくなります。

Photo: WFP/Michael Tewelde
残された牛を生き延びさせるため、家の茅葺き屋根から摘んだ藁を与えるほかありません。新鮮な飼料を買う余裕がなく、与えられるものはこれしかないのです。
「なんとか生き延びさせている状態です。1年間、搾乳できていません」とハナさんは言います。
国連WFPは、干ばつの危機に直面するソマリ州の人びとに緊急食料支援を提供するほか、ハナさんのような牧畜農家が干ばつなどの異常気象から家畜を守れるよう、低価格の保険(マイクロインシュアランス)を提供しています。

Photo: WFP/Michael Tewelde
国連WFPによるこの保険の給付対象の9割を占める、この地域の2万5千世帯以上に、干ばつの壊滅的な被害をなんとか切り抜けるための給付金が12月下旬に支払われました。
影響が最も深刻な人びとに総額90万米ドルが支給されました。
ハナさんは35米ドルの給付金を近所で集め、移動できない人にとっては何より重要な水を1万リットル購入しました。
ハナさんの家から少し下ったところに住むアブドゥラヒさんは、70歳になるこれまで、雨季がだんだん短く、弱くなり、伝統的な天水農業(灌漑を行わない農業)が廃れるのを目の当たりにしてきました。

Photo: WFP/Michael Tewelde
「気候が変わり、天気のパターンが変わった」とアブドゥラヒさんは言います。「これが今の干ばつの一因です」
ソマリ州では雨季の気温が年々上昇し、降雨量が減少しています。
7頭いた家畜が1年後には3頭に減り、すべてを失う危機が刻々と迫っています。
あと何頭残っているのか尋ねると、アブドゥラヒさんは周りを見渡し、苦笑しながら答えました。
「あの牛を数えるかどうかにもよるな。明日はもうだめだろう。もう立てないし、日照りの中で何日も苦しんでいるんだ」
アブドゥラヒさんは水を求め、10月に16人家族とともに自分の村から7km離れた川に近い場所に移動を始めました。
気候変動になんとか対応するため、新たに灌漑農業を学び、現在は、最近支給された国連WFPの保険の給付金を資金として活用しています。
アブドゥラヒさんは給付金をうまく活かし、家畜の飼料を栽培する小さな畑に水を川から取水するための小さな発電機の燃料を購入しました。

Photo: WFP/Michael Tewelde
国連WFPはスウェーデンやデンマークから資金援助を受け、現地で最も支援が必要となる乾季に、家畜を生き延びさせるための支援を提供しています。
一方で、気候危機により、エチオピア南部の牧畜農家にとって食料を栽培し家畜を養育することが困難になっており、新しい長期的な解決策が求められています。
資金をさらに得られれば、早期警戒システムや、牧畜農家が気候変動の影響に事前に備えられるよう支援する現金支給、干ばつの影響を受けた家庭の子どもたちのための学校給食プログラムなど、国連WFPがこの地域の人びとの生活向上のために推進している取り組みを拡大することができます。

Photo: WFP/Michael Tewelde
国連WFPは種、砂、肥料の供給や、干ばつに強い小規模農業技術や経営スキルの研修などにより、これまでに1万2千人の牧畜農家を援助し、事業の構築や収入源の多様化を支援しています。
気候危機が深刻化、頻発化する中、これはエチオピアの牧畜農家の命と生活を救うため、最も低コストで実現できる国連WFPの重要な取り組みです。
対策をソマリ州、オロミア州、南部諸民族州の全域に拡大していくため、国連WFPでは2億1900万米ドルを緊急に必要としています。
資金があれば、ハナさんやアブドゥラヒさんのような牧畜農家がこれ以上の食料不足に陥ることのないよう、援助することができます。