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国連WFPノーベル平和賞受賞から1年 深刻化する紛争と飢餓

WFP国連世界食糧計画(国連WFP)がノーベル平和賞を受賞して、10月9日で1年が経ちます。国連WFPは授賞理由となった「飢餓が戦争や紛争の武器として使われることを防ぐ努力」を続けていますが、1年の間に紛争国の飢餓は深刻さを増し、新型コロナウイルスのパンデミックが世界的な飢餓人口の増加にも拍車を掛けています。2030年までに飢餓をゼロにするという持続可能な開発目標(SDGs)達成が危うくなる中、支援の必要性が、今まで以上に高まっています。
紛争下のイエメン。 Photo: WFP
紛争下のイエメン。 Photo: WFP 

 

過去1年を振り返って―紛争、気候変動、新型コロナウイルス感染症の影響で飢餓が急増―

 

2020年に飢餓人口は前年の6億5000万人から最大8億1100万人へと急増しました。これは世界の10人に1人が飢餓に苦しんでいる計算です。その主な原因には、依然として紛争、気候変動、新型コロナウイルス感染症による社会経済的影響が挙げられています。

 

飢餓に苦しむ人の約6割は紛争地域に住んでおり、この1年でもイエメン、南スーダン、エチオピア、シリア、アフガニスタンといった武力による暴力の影響を受けた国では、多くの人にとって基本的な食事が手の届かないものとなり、栄養不良が深刻化しました。また、気候変動によって干ばつや洪水などの自然災害も、食料不安の拡大に繋がっています。新型コロナウイルスのパンデミックに伴うロックダウンや国境封鎖は、物資の供給不安や経済の低迷を引き起こし、飢餓が劇的に悪化しました。特にセーフティーネットを持たない日雇い労働者や貧困層、国内避難民や難民など、弱い立場の人びとがより深刻な打撃を受けています。

 

こうした中、飢餓の中でも最も深刻な「飢きん」、つまり長期にわたる深刻な飢餓によって餓死、または栄養不良を伴う病気で人びとが命を落とす危機に瀕している国が指摘されています。エチオピア、マダガスカル、南スーダン、イエメンの4か国では、計58万4000人がほぼ飢きんのような状態(総合的食料安全保障レベル分類(IPC)で最悪のフェーズ5/カタストロフィー)に陥っています。また43か国に住む4100万人は緊急的な人道支援がなければ死に至るリスク(IPCフェーズ4)にさらされています。このうち南スーダン、イエメン、エチオピアの3カ国では主に紛争が、食料不足を深刻化させました。イエメンでは、木の葉を食べて飢えをしのぐ家族もいるなど、深刻な事例が報告されています。

 

その他、ミャンマーでは2月のクーデター以降、政情不安や暴力、食料価格の高騰などに苦しむ人が急増しています。同国内では新型コロナウイルス感染拡大に伴う不況や貧困によって、クーデター前も280万人が飢餓に直面していましたが、政情不安が重なったことで、これに加えて新たに340万人が飢餓に陥ると推計されています。

 

アフガニスタンでも8月、タリバン政権が首都カブールを掌握し、政情不安や経済情勢の悪化を引き起こしました。深刻な干ばつ、食料価格の高騰も重なり、国民の3分の1に当たる約1400万人が、深刻な飢餓に陥っています。国連WFPによる最新の調査では95%の家庭で十分な食事が得られていないことも明らかになっています。

 

また、ハイチでは8月に発生した大地震で交通インフラが破壊され、一部地域で食料や医薬品へのアクセスが遮断されてしまいました。地震以前から続く犯罪集団の暴力や、ハリケーンシーズンの食料価格高騰の影響もあって、飢餓が深刻化しています。

 

今年7月に発表された報告書「2021年世界の食料安全保障と栄養の現状」は

このままの状態が続いた場合、 SDGsの目標年である2030年にも依然として約6億6000万人が飢餓状態にあり、目標達成が難しくなるとの見通しを示しています。

 

イエメンで国連WFPの食料配給を受け取るこども。Photo: WFP/Abdurahman Hussein
イエメンで国連WFPの食料配給を受け取るこども。Photo: WFP/Abdurahman Hussein

 

増大するニーズと国連WFPによる過去最大規模の食料支援

 

国連WFPは「飢餓をゼロに」の目標達成に向けて、2020年には過去最高となる約1億1500万人に、食料支援を実施しました。2021年も史上最大規模の活動を展開し、1億3800万人に食料を届けることを目指しています。

 

人口約3000万人のうち、約500万人が飢きんの一歩手前の状態にあるイエメンでは、紛争の避難民らを中心とする約1300万人に緊急食料支援を実施。エチオピアでは約1200万人へ、食料配布や栄養支援を実施する計画です。アフガニスタンやハイチでは、陸路でアクセスできない地域に国連人道支援航空サービス(UNHAS)を運航し、人道支援者や医療従事者、救援物資やワクチンなどを現地に送り込んでいます。5歳未満の子どもと妊娠・授乳期の女性の急性栄養不良を防ぐため、マダガスカルや南スーダンなど多くの国で、母子に対する栄養支援も行っています。

 

また国連WFPは、紛争や災害からの復興に当たって、地元住民に道路や灌がい設備の修復に参加してもらい、対価として食料を渡す「フード・フォー・ワーク」にも取り組んでいます。この活動は、対立するコミュニティの人びとに共同で作業をしてもらうことで、両者の緊張を和らげ、平和構築につながった事例もあります。

 

約60カ国では学校給食支援を行っており、給食の食材を地元農家から調達したり、住民を調理員として雇い入れたりして、給食を通じたコミュニティの自立支援も図っています。紛争地では学校に通うことで子どもたちが日常を取り戻す支援もしています

 

市場や金融セクターが機能している国では、食料の代わりに現金を支給するケースもあります。携帯端末を通じた電子バウチャー、顔認証、虹彩認証などのテクノロジーを組み合わせた仕組みを整備しているところもあります。コロナ禍で学校が閉鎖された国では給食の代わりに現金支給や食料引換券に切り替え柔軟に対応してきました。

 

しかし、高まるニーズと資金不足のため、十分な食料を届けられない事態も発生しています。南スーダンでは10月から3カ月間、飢餓が深刻な地域へ優先的に食料を届けるため、別の地域の避難民約10万人への食料配布を、中断せざるを得なくなりました。ミャンマーでも8月時点で、今後6カ月間の食料支援に必要な資金の7割以上を確保できていません。イエメンでも資金難で10月には320万人の配給の削減を余儀なくされ、ケニアでは難民44万人への食料配給の量を削減、新たな資金が確保できなければ年末までに支援を完全に停止せざるを得なくなります。

 

国連WFP事務局長のデイビッド・ビーズリーは、昨年ノーベル平和賞を受賞した際「平和がなければ飢餓ゼロの世界は達成できず、飢餓がある間は、決して平和な世界を達成することはできません」と語りました。

 

ノーベル平和賞の受賞は、飢餓に苦しむ人びとにスポットライトを当てると当時に、国際社会が紛争をなくし、飢餓のない平和な世界を作るための行動を呼び掛ける機会となりました。国連WFPはこれからも食料支援を通じて、飢餓から人びとを救うこと、平和構築の双方に取り組んでいきます。その活動を続け、拡大するためにも、今さらなる支援が必要とされています。

 

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WFP国連世界食糧計画(国連WFP)は、2020年のノーベル平和賞を受賞しました。 私たちは世界最大の人道支援組織であり、緊急時に命を救い、食料支援を活用して、紛争や災害、気候変動の影響から立ち直った人々のために平和、安定、繁栄への道筋を構築しています。