ウクライナ戦争:WFP国連による3ヶ月以上にわたる食料支援
国連WFPがウクライナで今回の支援を開始して3カ月が経ちました。
私が最も強く感じていることは、国連WFPが緊急食料支援のためにウクライナにいる必要はないはずだということです。私たちは、世界中の人びとに食料を供給するため、ウクライナから食料を購入してきました。デジタルキャッシュのプラットフォームを開発するために、技術に精通したミレニアル世代と契約した国でもあります。だからこそ、戦争から逃れ、家も仕事も失い、自活できなくなった人たちに食料を提供するために、私たちがウクライナにいなければならないのは、心が痛みます。また、私たちが支援を始めて、3カ月が経ちますが、この戦争がすぐには終わらないという事実に心を痛めています。被災者の数は増え続けており、この戦争が長引けば長引くほど、ニーズは高まっていくでしょう。
これまでの緊急事態と、今回のウクライナ戦争との違いは何ですか?
この戦争によって、本来「世界の穀倉地帯」であったはずのウクライナが、深刻な人道危機に陥ってしまったということです。昨年、ウクライナからの穀物は4億人もの人びとを賄っていました。ウクライナ戦争がこのまま続けば、国連WFPが活動する120以上の国々において、急性食料不安が4700万人増加すると予測されています。これは17%という驚異的な増加で、サハラ以南のアフリカでも最も高い上昇率となっています。すでに厳しい状況に直面しているこれらの国々は、ウクライナの食料供給に依存しているにも関わらず、現在、ウクライナの港が封鎖され、支援物資が港から輸出されていない状況にあります。つまり、ウクライナが食料を輸出できないという状況は、壊滅的な世界規模の飢餓の危機に繋がるということなのです。
ウクライナに来てから、最も印象に残っていることは何ですか?
ウクライナの人びとの勇気と回復力は、私が初めてウクライナを旅したときにも感じたものです。団結して目的を達成し、互いに助け合う彼らの姿は、私の心に深く刻み込まれています。政府と地域社会は、ウクライナの人びとのニーズに応える最前線にいます。これまでに1,500万人という膨大な数の人びとが避難を余儀なくされていますが、政府と地方行政が一体となって、駅や学校、教会やシナゴーグで、コミュニティに食事や避難所を提供し、支援をしているのを目にしています。
ウクライナでの支援拡大において、国連WFPとして最大の課題は?
国連WFPは2018年以降、ウクライナ国内で活動していなかったため、今回の支援は大きな困難を伴ないました。特に、私の前任者とそのチームにとって、膨大な任務がありました。オフィスを設立し、そして、支援を必要としているすべての人びとに行き届くように規模を拡大しなければなりませんでした。5月には220万人に毎月の配給と現金支給の支援を行いました。6月には300万人以上を支援したいと考えています。さらに事務所や倉庫、梱包施設を増やし、配給行い、現地スタッフの採用とトレーニングを行い、最終的には食料を最も必要としている場所にできる限り近づけるように努めています。
国連WFPが今ウクライナで優先的に取り組んでいることは?
私たちを必要としている人たちのところに、確実に支援を届けることです。私たちは主に現金支給と食料配布の2つの支援を行っています。また、国連WFPは5月に政府と覚書を結び、この覚書は、私たちの支援を必要とする国内避難民やその他の人びとを特定する上で、非常に重要な役割を果たしました。これにより、国連WFPはわずか1カ月で現金給付を6倍に増やし、これまで100万人以上に現金給付を行い、ウクライナ経済に7,400万米ドル近くを投入しました。
システムに登録した人びとは、わずか72時間後に現金を手にし、必要な食料だけでなく、薬や衣服も購入することができます。また、一回限りの配給から、1世帯に対し、30日分の食料小包の支援に移行したことも重要でした。現在、国連WFPは、パスタ、米、油、肉の缶詰を毎月約42万人に提供しています。
「ローカライズ」対応という言葉をよく耳にしますが、これは実際にはどういうことなのでしょうか?
優先的に、支援開始当初からウクライナの現地のスタッフと協力するという絶好の機会をうまく役立てるということです。支援は、ウクライナ主導で地元のパートナーや政府を通じてなされるべきなので、国連WFPは地元のパートナーや企業、貿易ネットワーク、機関を通じて活動を実施しています。若々しく活気に満ちたウクライナ政府は素晴らしい社会保護システムを既に備えています。国連WFPにとって、最も重要なことは、公共及び民間機関の維持、安定化、そして時に、その回復を支援する点にあります。
パートナーシップは、ここでの活動の中心でしょうか?
パートナーシップは絶対に必要不可欠なものです。私たちの支援活動は、パートナーシップにもとづくアプローチによって前進していかなければなりません。2週間前、私はハルキウで、ウクライナ赤十字と協力して、国連WFPのリソースを共同管理した上で、地元の経験や知識を活かしつつ、市内で食料品の小包を保管し、配達しています。5月には、ウクライナの協力パートナーに9,500トン以上の食料物資を届けました。私たちが国連食糧農業機関(FAO)と共に主導している「食料安全保障クラスター」(The Food Security and Livelihoods Cluster)には、24の州で活動する38の協力パートナーが参加しています。そして、協力パートナーのうち、20%が国内のNGOです。
一方、国連WFP主導のロジスティクス・クラスター(複数機関の調整グループ)は、24のパートナー団体に代わって、12,400m3の人道支援物資を保管および/または輸送しました。現地で調達した小麦を使い、現地のベーカリーを通じて、5月だけで73万人にパンを提供しました。食料配給の保管、梱包、配送については、企業と契約しています。これらの企業は避難民を雇用しているところもあり、間接的に避難民の雇用の確保にも繋がっています。また、社会政策省との連携がなければ、現在維持しているレベルまで現金支給を拡大することはできなかったでしょう。
国連WFPは、最も紛争の影響を受けた地域に食料を届けるために、どのような取り組みをしているのでしょうか?
紛争地域へのアクセスの欠如は、命を救う食料支援を行う上で最も困難な障害の一つです。この困難な状況下にもかかわらず、国連WFPは紛争地域の最深部まで支援を届けています。ハルキウスカ州では、150万人以上に支援を届けています。ルハンスク州とドネツク州では、国連WFPはウクライナ赤十字社などを通じ、準備や調理を必要としないすぐに食べられる食料の支援を通じて、7万人以上の人びとの食料ニーズを支えてきました。
また、治安の悪化により市民が孤立した場合に備えて、さらなる物資の事前配備も行っています。支援の手が届きにくく、戦闘が続く都市で身動きがとれなくなっている世帯は、食料や水などの必要物資の深刻な不足に直面しているため、私たちは継続的で妨げられない人道的アクセスを引き続き要請しています。一方で、私たちは現実的になる必要があります。更に多くの支援を実施するためにも、これらの人道的ニーズを満たすための「スペース」を対立している双方から確保してもらう必要があるのです。
国連WFPはいつまでウクライナにいる必要があると思いますか?
戦争が続いている間、その質問に答えることは非常に難しいことです。仮に、明日ウクライナ戦争が終われば、国連WFPは1年以内にウクライナから撤退し、あらゆる技術革新や取り組みを政府や州・県レベルの民間と公的なパートナーに引き渡せるという自信があります。そして、それが私たちの目標であるべきです。しかし現実的に考えて、ウクライナ戦争においては、勝者は存在せず、敗者だけがいる状態で、今後しばらく戦争が続く可能性があります。
私は直近3年間を南スーダンで過ごしたばかりですが、そこでは終わりの見えない紛争が長期化し、膨大な人道的ニーズが生み出されている状況です。私たちは、そのような状況を繰り返したくありません。一方で、確実に言えることは、国連WFPは政府と国民が望む限り、私たちの支援が必要とされる限り、ウクライナにいるということです。
私たちは人道的な必要性に焦点を当て続けるだけでなく、国連WFPがウクライナのより良い未来のためにどのように貢献できるかを考えています。食料システムへの投資、よりインパクトのある社会的保護の政策と実践の支援、ウクライナ東部地域の壊滅によって荒廃した農業ビジネスと雇用の代替または再構築、そしてウクライナ産の食料と農家生産者の人びとが今後も世界に食料供給を行えるように連携を進める、こういったことを通して実現していくつもりです。