ウクライナ戦争:農地が戦場に―世界的な飢餓への影響に対する懸念
ウクライナの国境に到着すると、紛争地帯に入ったという実感があります。巨大なバリケードがあり、若い兵士が土嚢でバリケードを強化しています。
ここは安全でない場所という感覚が残ります。ウクライナに入ると、おそらく車1台を見るごとに、3台の農機具を運ぶ大きなトラクターが走っているのを見ました。ここは欧州の穀倉地帯で、誰もが何かを生産しています。家族で暮らす小さな敷地から大きな農場まで、人びとは今も土地を耕しています。「大量の食料を生産できる国」と、ただただ感心するばかりでした。
しかし、数週間の紛争の後、ウクライナ全土の多くの農地が戦場と化しています。WFP国連世界食糧計画(国連WFP)は、食料、水、その他の必要物資の深刻な不足に直面しているマリウポリのような、支援が届きにくい、包囲された都市で身動きが取れなくなっている家族に大きな懸念を抱いています。
一方、食料と原油の価格高騰により、国連WFPの毎月の運営コストは最大で7100万米ドルも上昇しており、世界がかつてない飢餓の年に直面しているまさにその時に、国連WFPが支援を必要とする人びとに支援を提供する能力が低下しています。ウクライナの人びとはどうやって農業を続け、どうやって食料を世界に届けることができるのでしょうか。
数週間前、私はリヴィウに到着しました。ここに来たかったんです。力になりたかっったからです。私はビルの最上階に滞在していますが、空襲警報が出ると、同僚と私は地下のシェルターに降りなければなりません。頻繁に、それも、夜中に警報が出ることもあります。直近ではこの午後にもありました。パスポート、パソコン、そして必要なものすべてを持って、部屋を出ます。
これまでに国連WFPは約1万2千トンの小麦を購入しました。国連WFPはウクライナの経済を支えるために、できる限り現地で食料を購入するようにしています。
また、国連WFPは緊急の食料配給(缶詰肉、穀類、豆類などの食料セット)を、機関間人道支援輸送隊で届けています。そして、ウクライナ赤十字社などのパートナーが、必要な家庭に届くまで最終段階の支援を担っています。また、ウエスタン・ユニオンを通じた送金、または現金や食料引換券の形で、現金を支給しています。これまでに120万ドル以上を配布しており、世帯で一人あたり1カ月75ドル相当をウクライナ通貨のフリヴニャで支給しています。
現金は(避難のために)移動している人びとには最適です。簡単に持ち運ぶことができるからです。
ウクライナ滞在中は、国連WFPがロジスティクス・クラスター(複数機関の調整グループ)を通じて他の人道支援機関をどのように支援しているかも見ることができました。ロジスティクス・クラスターは今回の対応の大きな構成要素となっています。国連WFPは、包囲された地域の家族に命を救う支援を届けるための人道的輸送隊を主導・組織しており、ウクライナにおけるその活動は非常に重要です。
私たちの最大の関心事のひとつは収穫です。ウクライナでは供給システムが困難に陥っており、食料が不足しています。紛争が続けば、世界的な食料危機が発生するでしょう。
これほど悪いタイミングはないでしょう。アフガニスタン、エチオピア、シリア、イエメンなどの国々では、食料価格が過去最高値に達しています。食料不安に陥る人びとの数は急増しています。戦争以前からニーズは利用可能な資源を上回っていました。そして今は、食料の購入と輸送にかかるコストがより高くなったのです。
私たちは、次から次へと危機に直面しているように見えます。農家の人たちと話していると、生産に全力を尽くしているように感じられます。しかし、その生産物を出荷することができるのでしょうか。
それが大きな疑問です。食料を栽培し収穫することと、世界の市場とつながることは別物です。特に、インフラが攻撃されるようなことがあればなおさらです。ウクライナの農業部門全体が危機にさらされているのです。
ウクライナの農家は、食料を輸出するための代替ルートを探していますが、以前と同じ規模ではありません。紛争地域では、農業の重要な時期に攻撃を受けると、その影響が9カ月も続くことがあります。つまり、植え付けや収穫の時期を逃すと、その影響は数カ月後に出てくるのです。
このため、農家は立ち直れないかもしれない状況に追い込まれています。多くの農家が避難を余儀なくされています。このため、食料でいっぱいの畑が、収穫する人がいないままになっています。そして、もし自分の畑に地雷がしかけられてしまったら、その畑にアクセスすることができなくなります。
ウクライナに来たかったのは、ここで何が起こっているかをよく理解するためです。遠くからでは理解することは難しかったです。私は国連WFPが何もないところから活動を拡大し、ウクライナ全土で高まる人道的ニーズに応えるため、このような大規模な対応を行っているのを見ました。しかし、この紛争の影響はこの国境にとどまらず、全世界に及ぶでしょう。
ジュネーブへ出発する私にとって、この1カ月は短く、かつ長いものでした。もうすぐ私は休み、回復できるでしょう。しかし、紛争が日常生活の一部となっているウクライナの何百万もの家族はどうなるのでしょうか。
Peyvand KhorsandiとJessica Lawsonがインタビューしました。
紛争が始まって以来、国連WFPはウクライナで130万人の人びとに支援を行ってきました。今後3カ月で600万人、近隣諸国の30万人に届けるため、活動を拡大しています。家族には、すぐに食べられる食料配給やパン、避難中の人びとへの現金が提供され、7月までに280万人への現金支給を目指しています。ロシアとウクライナを合わせると、世界の小麦輸出の30%、トウモロコシ輸出の20%を占めています。国連WFP は、混乱がすでに高騰している価格を押し上げ、世界中の何百万もの家庭の食料安全保障を脅かすことを懸念しています。
アフリカの角の干ばつの影響を受けている国々は、紛争の影響を最も強く受ける可能性が高いと、国連WFPは警告しています。特に、黒海沿岸諸国からの小麦に大きく依存しているエチオピア(66%)とソマリア(36%)では、食料配給のコストがすでに上昇しており、輸入の停止は食料安全保障をさらに脅かすものとなっています。一部の航路の輸送コストは1月以降、2倍になっています。