シングルマザーとその子どもたち、忍び寄る栄養不良
ネパール西部は文化的に早婚な上、男たちの多くは海外へ出稼ぎに行ってしまいます。10代での結婚・出産を強いられた若い妻たちの中には、夫の連絡が途絶えて貧困に陥るケースも少なくありません。こうしたシングルマザーと、その子どもたちに静かに広がっているのが栄養不良です。
夫の便り途絶え、14歳で妊娠・出産
ヒマラヤ山麓のカリコート郡は、慣習として父親の権力が強く、女の子は非常に若いうちに結婚を迫られます。
バサンティは14歳で結婚し、ほどなく妊娠しました。夫は7カ月前、身重の彼女に送金を約束して、インドのリンゴ園に働きに出ました。しかしその後、便りはありません。
「(妊娠中)何を食べたらいいか分からなかったし、誰も教えてくれませんでした」と彼女は話します。
近所に暮らすイシャラとビンドゥも、10代の初めに結婚して夫と別れ、3人以上の子どもを育てています。
シングルマザーの3人はみな、土木作業などの力仕事をして生計を立てています。貯えを持つ余裕はないので、妊娠中も出産後も働き続けざるを得ません。
ビンドゥは生まれたての娘、シャンタを置いて長時間働きに出ています。さもなければ4人家族を養うことはできません。彼女が働いている間は6歳の姉が、赤ちゃんの面倒を見ていました。
社会からはじき出される母たち 親族の白い目も
この地域は、豪雨や干ばつ、ひょう、地滑りなどの自然災害が多く発生します。しかも山がちで耕しづらく、過疎で道路も整備されていません。災害で農作物が被害を受けると、悪路で輸送コストがかさむこともあって食料価格が跳ね上がり、貧しい小規模農家は深刻な打撃を受けます。
仕事に育児、料理や掃除など日常の家事をこなした上で、家畜に餌をやり、牧草を世話し、畑仕事もする…。厳しい自然環境の中、シングルマザーたちは家庭にまつわる負担のすべてを、たった一人で背負っています。さらに夫側の親類から、白い目で見られることも覚悟しなければなりません。
WFPネパール事務所のピッパ・ブラッドフォード代表は、次のように指摘します。
「この地域は今年、例年に比べて多くの収穫を得られました。にもかかわらずシングルマザーは社会的に疎外され、健康的な食べ物を購入するだけの経済力を持てずにいます」
早婚と栄養不良の悪循環、未熟な体に出産の負担大きく
少女と言ってもいい年代での妊娠・出産は、女の子の体にとって大きな負担です。
実際、10代の母親には貧血や妊娠時の栄養不良が多く、その結果、低体重児の出産が多数見られます。栄養不良のお母さんから低体重の子どもが生まれ、発育不全に陥り、さらに早婚させられて栄養不良の母となる、という悪循環が生まれているのです。
カリコート郡の属するカルナリ県の栄養不良率は、国内でも最悪のレベルで、54・5%にも達します。これだけ栄養状態が悪いのに、妊娠時に健診などのケアを受ける女性は47%しかいません。乳幼児の食事にも注意を払われないことが多く、生後6カ月~2歳未満の乳児のうち、栄養のある食事を与えられている子どもは半分にすぎません。
栄養指導、持ち帰り食料で健康に
国連WFPは保健センターで、妊産婦への栄養指導や子どもの健康診断を実施し、参加した女性たちに、栄養を強化した穀物などの持ち帰り食料を渡しています。
バサンティは「保健センターで栄養指導を受けると、穀物も配られました。妊娠中はそのおかげで健康でいられました」と話します。9カ月になった息子にもこの穀物を食べさせ、母子とも健診で異常なしと診断されています。
ビンドゥも言います。「私がシャンタを最初の健診に連れて行くと、急性の栄養不良と診断されました。保健センターで私は、彼女にどんな食べ物を与えたらいいかを教わり、小麦ももらいました」。3か月たってシャンタは体重が増え、だんだんと健康状態も改善しています。
ただ母親たちにとって、健診を受けるのは大仕事です。子どもたちを引き連れ、時には大きなおなかを抱え、日盛りの悪路を何時間も歩いてやっと、保健センターにたどり着きます。
それでも母親たちは、子どもたちに健康でいてほしい、栄養ある食事を食べさせたいという思いから、一張羅を着て長い道のりを歩いてくるのです。