バックストーリー:ネパールの極西部のシェルパ
ネパール西部の山岳地帯にあるバイハン村のバサンタ・シンさんのトタン屋根の小屋の小さな穴からわずかな朝日が差し込みます。45歳の農夫のシンさんが、ヒマラヤ山脈の有名な高い山々と同じ名前を付けた6頭のラバに鞍を置くのは、午前7時近くのことです。
まもなく、シンさんと6頭のラバは、シンさんが住むスドゥルパスチム州の辺境にある小学校まで2時間の道のりを、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)の食料を届けるために出発します。
「この厳しい地形でラバ使いをするのは仕事ではなく、私の生き方なのです」とシンさんは言います。「お金は二の次。一番大切なのは山で生きていくことです。」
その粘り強さで多くの友人から「シェルパ」という愛称で呼ばれるシンさんは、道路ではアクセスできないほど遠くにあるネパール全土の学校数十校に国連WFPの支援物資を届ける数少ないラバ使いの一人です。アジアで最も貧しい国のひとつであるネパールでは、子どもの栄養不良率が高く、この仕事は極めて重要です。
「学校給食のための食料を運ぶ責任は、主に地域社会が担っています」と、ロバート・カスカー国連WFPネパール事務所代表は、ネパール西部の3つの地区にまたがる25万人の小学生を対象とした学校給食支援について語ります。「しかし、最も必要とされる場所に重要な物資を運ぶラバ使いも不可欠な存在です。」
ラバ小屋から30分ほど歩いたところにある国連WFPの倉庫で、シンさんは6頭のラバの背中にコメ、レンズ豆、食用油の入った袋を急いで積み込みます。鈴の音を響かせながら、ラバたちは急勾配の土の小道を登り、物資を運びます。
食料の配達は、毎日午前4時に起床し、週に100時間働くことも珍しくないシンさんの過酷な勤務スケジュールの一環です。「ラバの飼育は、私にとって喜びですが、非常に手間のかかる仕事です」と彼は言います。
シンさんは学齢期の子ども2人の親でもあり、子どもたちの学力の向上に、栄養価の高い食事を与えることの重要性を理解しています。シンさんの子どもの1人は、彼の巡回先にある学校に往復1時間かけて通っています。
以前は、シンさんの生活はそれほど満足のいくものではありませんでした。15年前、シンさんはある会社にだまされ、突然家族を養うことができなくなりました。それからは、農場で雇われ働いていましたが、妻の宝石を担保にラバを購入しました。2015年、国連WFPは学校給食の配達にシンさんと彼の動物たちを起用しました。
それ以来、彼のビジネスと畜産に関する知識は大きく成長しました。彼は2人の従業員を雇い、妻は宝石を取り戻し、新しい金のイヤリングも手に入れました。年を追うごとに、シンさんは充実感が増していると語ります。
「飛行機を操縦する人もいれば、私のようにラバを走らせる人もいる。私はとても幸せです」と彼は言います。
シンさんが活躍する遠隔地の学校への食料配達を始め、国連WFPのネパールにおける学校給食支援は、マクガバン・ドール国際食料教育・児童栄養プログラムによって支援されています。