飢餓と戦うフライト:緊急時に支援活動を行う国連WFPのUNHAS
マダガスカルでの食料投下の先駆け

マダガスカル南東部のラナカシ村の丘の頂上で、ホネラ・ツァラさんは10人の子どもたちに外へ出てくるよう大声で叫びます。巨大な蜂の群れのような低くてヒューという音が空に響き、少しずつ音が大きくなっていきます。無人飛行機が雲間から現れ、次に、特別な栄養食品の詰まった箱が一つずつ空から静かに降りてきます。
丘や川を越える過酷な旅をすることなく、3か月ぶりにこの辺境の村に支援物資が到着しました。2月にマダガスカルで初めて導入されたWFP国連世界食糧計画(国連WFP)の無人航空機システム(UAS)は、人道支援の新たな境地であり、かつては不可能と思われていた障壁をテクノロジーで打ち破る試みです。
「空から食べ物や薬が降ってくるなんて、今まで見たことがありません」とツァラさんは、箱が地上に落ちてくるのを見て歓声を上げる子どもたちを見ながら言います。「子どもたちに『見てごらん!これでみんな健康になれるよ』と言いました。今日はみんな幸せです。」
しかし、最先端のイノベーションを展開しているにもかかわらず、国連WFPのUNHASは2025年2月時点で2億600万米ドルの資金不足に直面しており、私たちが活動しているマダガスカルや他の20か国の最も弱い立場に置かれた人びとに支援を届ける活動が脅かされています。
「資金不足によりUNHASの活動が危機に瀕しており、世界で最も弱い立場に置かれた人びとが暮らす地域へのアクセスが脅かされています」と語るのは、フランクリン・フリンポン国連WFP航空部主任。「資金不足の影響を最も受けている活動の規模は、すでに縮小しています。追加支援が得られなければ、フライトを停止せざるを得なくなり、人道支援チームは支援を必要とする人びとに手を差し伸べることができなくなります。そうなれば、人道支援に頼っている何百万人もの人びとに壊滅的な結果をもたらすでしょう。」
気象の極端な変化が起こりやすいマダガスカルでは、自然そのものが、飢えに苦しむ地域社会に救命支援物資を届ける上での最大の障害のひとつとなっています。厳しい地形、洪水、未発達なインフラにより、ラナカシ村のような地域社会では、支援が届くまでに数週間、あるいは数か月も待たなければならないことがよくあります。190万人以上の人びとが深刻な食料不安に直面し、40パーセント近くの子どもたちが慢性的な栄養不良に苦しんでいます。

「アクセスの困難さは常に大きな課題でした」と語るのは、オリビエ・マルセル マダガスカル国立栄養支援事務所地域コーディネーター。
国連WFPのこの先駆的な無人航空機は、1回の投下で160キロの栄養補助食品を届けることができ、「遠隔地で栄養不良に苦しむ子どもの治療を劇的に改善する」ことができると、マルセル氏は付け加えています。
「これは、支援を受けるのに遠すぎる地域などないという私たちの夢への一歩です」と、ネジメディン・ハルファウィ国連WFPマダガスカルUNHAS代表は語ります。
ラカナシ村の住民のラコトヴァザハ・ティティさんは、この成果を肌で感じています。
「私には、栄養不良の治療を受けている子どもが二人います」と、国連WFPの最初の空中投下も目撃したティティさんは言います。「無人機が飛んでいる限り、支援が中断されることはないと胸を撫で下ろします。」
ハイチで最後に残された頼みの航路

ポルトープランスの郊外の丘陵地帯には、質素な家屋や高層アパートが立ち並ぶ中、目立たない土のグラウンドがあります。市内の国連WFP事務所に近いこのエリアは、平時であれば建設現場か、子どもたちの急ごしらえのサッカー場になっているかもしれません。
しかし、ハイチは今、平時ではありません。島全体で治安が悪化する中、この一角は、UNHASのヘリコプターにとって重要な輸送拠点へと変貌を遂げました。ここは、数千人の人道支援関係者やその他の人びとがハイチの危険な首都に安全に出入りできる唯一のフライトを提供しているのです。
「UNHASは、他に選択肢がない場合に国連WFPが導入するサービスです」と、ハイチのアルマンド・プオティUNHAS航空輸送主任は述べ、「私たちがここでやっていることは、まさにUNHASの使命を全うするものです」と付け加えます。

その使命は、昨年11月にポルトープランスにある主要空港が、民間航空機3機が銃撃されたことを受け、旅客便の運航を停止して以来、さらに重要性を増しています。この運航停止により、武装集団が実質的に支配しているこの都市は、事実上、ハイチ本土から隔絶されてしまいました。
UNHASはそれから2週間も経たないうちに、郊外の飛行場からのサービス提供を開始しました。これは一時的なものではありますが、人命救助のための解決策であり、UNHASハイチ支部の10人からなるチームにとっては、これが新たな日常となりました。
国連WFPが運航するUNHASは現在、首都からハイチ国内の他の目的地へ、1日2便以上のヘリコプター運航サービスを提供しています。過去4か月間だけでも、さまざまな人道支援組織から約7,000人の乗客を輸送しました。これは、前年同期の2倍の乗客数であり、支援を必要としている600万人の多くに人道支援組織が支援を届けることを可能にしています。国連WFPの事務所は、チェックインエリアと空港ラウンジに転用されています。
「UNHASがなければ、私たちはハイチ国内で活動することはできません」と、UNHASのヘリコプターから降りて埃っぽい野原に降り立った数分後、テッド・チャイバン国連児童基金(ユニセフ)事務局次長は話します。

ハイチの子どもたちが直面している困難とユニセフの対応を視察するために訪れたチャイバン事務局次長は、「命を救うための介入、予防接種、重度の急性栄養不良の治療を行うために」スタッフが定期的に訪問しなければならない目的地を列挙します。
「これらを実現できる唯一の方法は、このフライトを利用することです」と彼は付け加えます。
民間の航空サービスは依然として中断しており、UNHASは人道支援用フライトの唯一の選択肢となっています。そのため、プオティ主任のチーム、特にハイチ人の同僚たちは長時間労働とストレスの多い状況に直面しています。
「彼らは常に、サービスを実現するために全力を尽くしています」とプオティ主任は言います。
バンバリ行きの朝のフライト

乗客17人を乗せたUNHASのドルニエ228型機は、日の出直後に中央アフリカ共和国の首都バンギの滑走路を離陸しました。数分後にはバンギの街並みは視界から消えました。飛行機がさらに高度を上げ北西に向かうと、眼下の広大な低木の草原と樹木の合間で、小さな村々のトタン屋根が陽光を受けキラキラと輝いています。
眠い目をこすりながら搭乗している人道支援関係者たちにとって、バンバリの中心地まで、この50分のフライト以外の選択肢はほとんどありません。400キロの道のりを車で移動するには、5月から10月の雨期には通行不能になる凸凹の赤土の道を通って、8時間近くかかることもあります。
インフラの不足に悩むこの内陸国では、国民のおよそ3人に1人が深刻な食料不足に陥っています。ここでは、国連WFPが運航するUNHASが、命を救う支援を迅速かつ安全に届ける唯一の手段と言ってもよく、民間航空会社は存在しません。
「目的地に到着するには、他に選択肢はありません」と、国連WFPのカビラジ・カドゥン中央アフリカUNHAS航空輸送主任は言います。「私たちがいなければ、人道支援活動は存在しえないでしょう。」

昨年、UNHASの3機の固定翼機は、2万人近い人道支援関係者と、食料、医薬品、その他133トン以上の必需品を、国内30以上の目的地に輸送しました。
ユニセフ(国連児童基金)のアマドゥ・ティジャニIT担当官は、UNHASの常連です。彼は今朝、バンバリに向かい、現地のユニセフ事務所のソーラーパネルの設置状況を確認します。
「ここは私が働いた7番目のアフリカの国ですが、UNHASは欠かせない存在です」と、25年間人道支援活動に携わってきたティジャニ担当官は言います。数年前、UNHASが重病の男性を飛行機でチャドに搬送し、治療を受けた時のことを彼は思い出します。
「彼は危篤状態でした」とティジャニ担当官は言います。「この飛行機が飛んでいなければ、彼は助からなかったでしょう。」

アフリカで20年近くパイロットとして働いてきたUNHASのカドゥン主任にとって、安全で信頼性の高い航空サービスを確保することは最優先事項です。この中央アフリカ共和国の小型機材は、特に貴重な燃料を効率的に使用するように設計されており、投資された資金が最大限に活用されるようになっています。
「私は国連人道支援航空サービスと人道支援コミュニティのために働くことに全力を尽くしています」と彼は言います。「私の目標は、パイロットとしての経歴、専門知識、管理スキルを生かして、人道支援関係者のために安全で信頼できる航空サービスを構築することです。」
国連WFPが運航するUNHASは、オーストラリア、カナダ、欧州連合、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、米国、国連などからの寛大なご支援により運営されています。