国連WFP親善大使の杏さんがチュニジアへ現地視察
視察初日、杏さんは首都チュニスから車で約2時間離れた、北部のシリアナ県にあるソドガ小学校を訪れました。杏さんが到着すると、子どもたちは学校で習った英語で「おはようございます。ようこそソドガ小学校へ」と歓迎しました。
杏さんが「将来は何になりたい」と尋ねると子どもたちは、「パイロット」、「先生」、「お医者さん」、「サッカー選手」などと口々に答えました。学校で覚えた歌などを披露し、はじめは緊張していた子どもたちも笑顔になりました。
授業が終わると給食の時間です。子どもたちは手を洗い、食事を受け取ってテーブルを囲みました。メニューはクスクス、パン、香辛料の効いたサラダ、オムレツです。杏さんも子どもたちと一緒に座ってお昼を食べました。
以前はソドガ小学校では給食がなく、半分以上の子どもはお昼を食べることができませんでした。お弁当を持ってこれない子どもたちは、お昼を抜いたり、友達からご飯を分けてもらっていました。2014年以降、国連WFPがチュニジアの政府を支援し、学校給食用の食堂の整備や栄養指導をはじめたことで、子どもたちは毎日栄養たっぷりの給食を食べられるようになりました。
学校の近くでは、オリーブなどの農業を営む家庭が多く、収入は季節に左右されます。貧困家庭の子どもにとっては、学校給食がその日唯一の食事となることもあります。チュニジアでは人口の約2割が貧困ライン以下で生活しており、近年の気候変動の影響や食料価格の高騰のあおりを受け、農村地域では生活がより一層厳しくなっています。
「1、2時間かけて登校する子どももいます。疲れて登校し、勉強したあとお腹いっぱい給食を食べることで子どもたちは栄養状態が改善するだけでなく、勉強に集中することができています」と学校の先生は話しました。
「給食が栄養にも勉強にも良い影響を与えていて、子どもたちがそこでで得た知識が国の未来を背負っていくのだなと感じました」と杏さんは言いました。
視察2日目には、チュニジア北部のマヌーバ県で女性が主導する農業開発団体を訪れました。女性農家たちが乾燥に強く栄養価の高い小麦「マフムード」などを生産し、クスクスに加工し、共同組合を通じて販売することで、収入向上に繋がっています。
女性団体のメンバーがクスクスを作る様子や、小麦やはちみつ、オリーブなどを使った加工品を紹介すると杏さんは熱心に聞き入っていました。農村地域では未だに女性は土地や設備など農業資産へのアクセスが困難で、自立した生活を送るのが難しい状況です。しかし、協同組合で生産、加工、販売のスキルを学ぶことで事業を始め、持続的に収入を確保できるようになった女性もいます。
「チュニジアではジェンダーギャップの改善が必要な状況と聞きました。女性が働いたり、財産を持ったりするのがこれまで難しかった。けれどこうした支援を通して自立し、職を得て生産することで自分自身のものを自分で持てるのは素晴らしいこと」と杏さんは話しました。
チュニジアでは気候変動や、ウクライナでの戦争の影響などで、輸入穀物の価格が高騰し、特に脆弱な立場にあった貧困層などを中心に、人々の生活が苦しくなっています。国連WFPは職業訓練の提供や協同組合の設立、運営、農業設備へのアクセス拡大などを後押しすることで、輸入穀物に頼らず、地域の伝統穀物の栽培を維持し、生活を改善しようとする取り組みを支援しています。
視察を終えて杏さんは、「またまだ世界中でWFPの支援を必要としている方々、場所がたくさんあると思います。一度にたくさん見に行くのは難しいと思いますが、少しずつ問題に触れながら、視察に行って、いろんな人のお話を聞いて皆様にお伝えできたらいいなと思っています」と話しました。