ジンバブエから日本へ:ゴマが農家の収益向上を支える方法

ジンバブエ南部ムウェネジ地区の、灼熱の太陽に焼かれ雨の少ない畑で、静かな革命が芽吹いています。そのきっかけは、たった一粒のゴマの種。長年、自給自足で暮らす農家たちはトウモロコシに望みを託してきましたが、収穫はいつも期待外れでした。カスティナ・シバンダさんもその一人。今、彼女の畑には白い花をつけたゴマが風に揺れ、希望の実を結び始めています。
シバンダさんは「何シーズンも続けてトウモロコシは不作で、穀物袋を一杯にすることすらできませんでした」と語る。2ヘクタールの畑で作物を育ててきたが、これだけで家族を養うのは難しく、経済的にも困窮していたといいます。
しかし昨年、ゴマが新たな道を開いてくれました。干ばつに強く、海外での需要も高まるこの作物は、今やジンバブエの何千もの農家にとって命綱となっています。
「収穫量も良くなりましたし、作物を売って収入が得られるようになったので、家族を養えるようになりました」とシバンダさんは語ります。
白い花を咲かせるゴマ畑を見渡しながら、彼女はその収穫がムウェネジから1万2,500キロ以上離れた日本へと渡ることを知っています。加工された種子の黄金色の油は、日本の食卓に繊細な風味を添えるのです。

シバンダさんの畑で進む変化は、ジンバブエ国内5地区で展開されているレジリエンス強化プロジェクトの一環です。この取り組みは、日本政府の資金提供により、WFPと現地NGO「持続可能な農業技術(SAT)」が連携して実施しています。
プロジェクトでは小規模農家が市場向けにゴマを栽培できるよう支援し、インフラ整備、バリューチェーンの構築、技術力の向上を図っています。
「私たちがこの事業に関わった主な理由は、小規模農家が外的ショックに対応できる力を高め、食料と栄養の安全保障を強化することでした」とWFPのプログラム担当官ベゼル・ガレドンド氏は語ります。「ゴマは気候変動に強く、トウモロコシやソルガムが不作のときの代替作物になります。」
ガレドンド氏らによれば、このプロジェクトは単なる支援ではなく、貿易を促進するものです。小規模農家を輸出市場とつなぐことで、持続可能な生計を築く機会を提供しています。
希望を育てる種
このプロジェクトは2023年後半、ムウェネジ地区を含む2つの地区で試験的に開始され、改良種子と研修を約3,000世帯に提供しました。今年は3地区に拡大され、8,000人の農家が参加。2026年までに1万4,000世帯以上への支援を目指しています。
「ゴマは高温や干ばつに強く、ジンバブエでの栽培に適しているだけでなく、日本への安定供給にもつながります」と語るのは、在ジンバブエ日本大使館の参事官・村上徹也氏。今年は日本で第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が開催されたこともあり、同氏は「このプロジェクトは食料安全保障、気候レジリエンス、そして国連の持続可能な開発目標(SDGs)を支えるものであり、生産者と消費者の双方に利益をもたらします」と言います。

干ばつが繰り返し襲うジンバブエにおいて、この取り組みは農家の暮らしを大きく変えつつあります。「エルニーニョによる干ばつの時期でも、農家は収入を得られるようになりました」と語るのはWFPのガレドンド氏。昨年、ジンバブエは数十年ぶりに深刻な干ばつに見舞われ、590万人の小規模農家が食料不安に陥りました。それでもゴマ農家は「何かしらを売ることができ、生計を維持できました」といいます。
モザンビーク国境に近い北西部ルシンガ地区でも、小規模農家のハズヴィネイ・ツォンゴラさんがゴマに希望を託しています。収穫を終え、市場への出荷準備を進める彼女は、WFPのプロジェクトを通じてアロエベラなどを使ったオーガニック農法を学んだと話します。
「買い手は化学物質を使っていない作物を求めていると説明されました」とツォンゴラさん。「その方が生産コストも抑えられるので、私たちにとってもメリットがあります。」
公正価格
ゴマ農家のアレクサンダー・グシンゴさんは、かつての厳しい生活を振り返ります。ソルガムやササゲ、トウモロコシなどを少量収穫しても、代金の支払いまで何週間も待たされるのが常でした。それに比べて、今年のゴマはわずか1ヘクタール未満の土地から600キロも収穫することができました。「売ったその日に、すぐに現金が手に入りました」とグシンゴさんは語ります。「ゴマは価格も良く、支払いも即時です。来季は1ヘクタール以上育てたいですね。」
このプロジェクトでは、NGO「SAT」が農家に研修を提供し、複数の農家の収穫物を一括で集めて販売する「集荷拠点」へのアクセスを支援しています。買い取り地点では、ゴマは秤で公正に計量され、これまで農家を不当に安く買い叩いていた無登録業者による搾取を止めることができました。

「成果は疑いようがありません」と語るのは、SATのロイド・マスンダ副代表。収穫量は大幅に増加し、ポストハーベストロスも4分の1に減少したといいます。「農家は現在、1トンあたり最大900米ドルの収入を得ており、仲買人から提示されていたわずかな価格を大きく上回っています」と続けます。
収穫されたゴマは日本への輸出に向けて加工されます。マスンダ副代表によれば、洗浄機によってゴマは「99%の純度」に達し、包装前には水分量、アフラトキシン(カビ毒)、化学残留物などを厳しく検査し、日本市場の基準を満たすよう管理されています。
畑から食卓へ
収穫されたゴマはコンテナに詰められ、南アフリカのダーバン港まで陸路で運ばれます。そこからインド洋を越えて日本へと渡り、丁寧に油へと加工されます。
まず種子は洗浄・選別され、香ばしい香りを引き出すためにやさしく焙煎されます。伝統的な圧搾法で抽出された油は、純度と品質を保つために濾過されます。軽やかで繊細な風味を出すために蒸留されるものもあれば、豊かなコクを生むために熟成・再濾過されるものもあります。
ジンバブエ産のゴマの一部は、川﨑加奈さんのキッチンにも届いています。香り高い黄金色のゴマ油は、彼女の日々の料理に欠かせない存在です。「香りが良いので、ほぼ毎日使っています。体に良いですし、子どももよく食べてくれるので、ご飯や麺に混ぜています」と彼女は話します。

ゴマは日本の料理に欠かせない食材ですが、国内で消費されるほぼすべてが輸入品です。
ジンバブエの農家はその供給ギャップを埋める存在となりつつあり、このプロジェクトは、川﨑さんのような一人の消費者が「自分の使っている製品がどこから来たのか」を知る手助けにもなっています。
「食品安全やサプライチェーンにおける人権への関心が高まる中、小規模農家によるトレーサブルなジンバブエ産ゴマは、消費者にとって大きな安心材料です」と語るのは、在ジンバブエ日本大使館の村上参事官。
村上氏は、こうした小規模農家による輸出が日本とジンバブエの絆を深める可能性があると考えています。「ジンバブエの小規模農家は、自分たちの農産物が国際的に認められ、輸出されていることを誇りに思うべきです。より安全で高品質な農産物を安定的に供給できれば、ジンバブエは南部アフリカの“穀倉地帯”としての地位を再び築くことができるでしょう」と述べています。