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新型コロナと闘うWFP~ケニアでの視点

, WFP日本_レポート

難民、干ばつ、蝗害に加え、新型コロナウイルスの影響が人々を飢餓の淵まで追いやるケニアより、現地の窮状を日本人職員・田島 大基が伝えます。

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国連WFPから配布された食料を受け取り喜びを見せる少年。これらの食料が文字通り人々のライフラインとなっている。©WFP/Robert Eipa

ケニアでは新型コロナウィルスの影響により国際線フライト運行停止、学校休校、夜間外出禁止、部分ロックダウン(都市間の移動禁止)など様々な影響を受けています。2020年5月19日時点でケニアでの新型コロナウィルスの感染者は963名、死者数は50名となっていますが、検査を出来ていない人も多く、密集して暮らすスラム街での感染者も報告されているため、実際の数はもっと多いと予想されています。2020年4月15日時点の国連WFPケニア国事務所の報告書では、ケニア全体で合計500万人の人々に食料支援が必要と試算されています。

国連WFP東アフリカ地域事務所・予算部門の仕事は急激に増加して、平日の深夜も休日もメールが飛び交う日々が続いています。ケニア在住の多くの日本人が一時帰国する中、ナイロビで一人暮らしの在宅勤務生活は、医療や治安の面でも不安やストレスはゼロではないですが、こうした状況で、仕事を失わず、食事にも困らないで生活できているというのは本当に恵まれていると感じながら、日々の業務に奮闘しています。

2020年2月に訪問したケニア・ダダーブ難民キャンプでソマリア難民の女性が「ダダーブを忘れないで欲しい」と言っていたのが、今も深く心に残り、特にこの時期にはよく想い出されます。多くのメディアでは新型コロナウィルス関連のニュースばかりですが、その裏で世界各国の紛争、自然災害などの被災者の生活は続いていることは忘れてはなりません。

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現地WFP職員の田島さんを歓迎し、正装にて出迎えてくれた難民キャンプの公立学校の子ども達。©WFP

ケニアの難民キャンプでは、4月の食料配給時に5月分も含めて2カ月分の食料を支給して難民が集まる機会を減らしています。難民キャンプのように狭い家に密集して暮らす環境では「三密」を避けるのが難しく、医療体制も脆弱なため、万が一新型コロナウィルスの感染が広がったら、多大な被害を生みます。

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安全衛生の指導をよく守り、社会的距離を保ちながら支給の列に並ぶ難民キャンプの人々。©WFP/Robert Eipa

食料配給時には、難民の方々は社会的距離を保って並び、体温の検査、スタッフのマスク着用、手洗いの徹底など感染対策がなされています。

ケニア政府による学校休校指示は難民キャンプの学校も対象です。資金不足により難民向け一般食料支援の配給量は30%カットされており、学校給食支援事業が停止していることから、子どもたちの栄養状態悪化が深刻です。学校に来ることが出来ない子どもたちに対して、ラジオを通じた教育が提供されており、どんな状況でも希望を失わず教えたい教員、学びたい生徒がいることに胸が熱くなります。

新型コロナウィルスはサプライチェーンにも多大な影響を及ぼしています。ルワンダの工場で作られた栄養強化食品が国境封鎖につき直接ケニアに運び込めず、ウガンダを経由してケニアへ運ぶ必要が出ています。ウガンダとケニアの国境付近では国境通過待ちのトラックの長蛇の列が出来ていると聞きます。国境を跨いだトラックのドライバーは14日間の自主隔離の必要があり、物流の遅延に繋がっています。新型コロナウィルスの感染リスクがある中、今日も食料などの物資を運んでくださるトラックのドライバーなど物流従事者には心から感謝の意を表したいです。

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サプライチェーンの回廊を通じ運び込まれる物資。国連WFPの輸送網はWFPの物資以外にも様々な団体の物資を各地に届けています。©WFP

サプライチェーンの変更は食料価格の高騰にも繋がっています。ケニアのカクマ難民キャンプでは従来メイズ(トウモロコシ)、豆、キャベツはウガンダから大半を輸入していましたが、市場の店はケニアからの現地調達に切り替えました。ケニアのダダーブ難民キャンプでは野菜を中心に食料価格の高騰が報告され、市場の店は一括購入で安く仕入れるように指示されています。国連WFPケニア国事務所は難民向けの一般食料配給の約半分は現金支給ですが、同じ現金支給額で少ない量の食料しか買えなくなる可能性もあり、引き続き食料価格のモニタリングが必要です。

難民や干ばつ・サバクトビバッタ被害者への支援などの既存の食料支援活動のほか、新型コロナウィルスによる経済環境悪化による追加ニーズが発生しています。製造業、建設業、観光業、飲食業など多くの業界でケニア人が仕事を失ったり減給となっています。ナイロビのスラム街に住むケニア人の友人からは、スラム街の人々は工事現場の日雇いの仕事や掃除洗濯の手伝いの仕事など生きていく最低限の収入源すらも失い、食べるものもなく非常に生活に困窮していると聞き、胸が痛くなりました。ケニア政府は国連WFPケニア国事務所に都市部のスラム街への食料支援を要請しました。4月15日時点の国連WFPケニア国事務所の報告書では、都市部のスラム街への支援には、6カ月で2,950万米ドルの支援金が新たに必要と試算されています。このプログラムでは、7つの地域(Nairobi, Mombasa, Kilifi, Kwale, Kitui, Kisumu, Kakamega)で合計74万世帯に支援が行き渡る内容となっています。また国連WFPケニア国事務所はケニア政府に対して、新型コロナウィルスに対応した食料支援計画策定、物流や倉庫管理、データ管理などの技術支援を提供しています。

新型コロナウィルスによる追加ニーズには喫緊で資金が必要です。4月9日にケニアにある国連機関は協働して合計2億6,750万米ドルの支援要請(COVID-19 Flash Appeal)を発出しました。発表されたプランでは、国連機関全体で約1千万人の支援、そのうち国連WFPケニア国事務所は 合計190万人の人々への支援が言及されています。その中には難民、都市部のスラム街に住む貧困家庭、地方の干ばつ・サバクトビバッタの被害者、栄養失調の子どもたち、妊産婦などが含まれています。

食料支援以外にも国連WFPは新型コロナウィルス対応に貢献しています。国連WFPが管理するUNHASの飛行機はケニアではナイロビと難民キャンプのあるカクマ、ダダーブを結んでいます。現在、一般乗客のUNHAS飛行機の利用は禁止されていますが、UNHAS飛行機は個人用防護服(PPE)を難民キャンプへ届ける物流の大切な役割を果たしています。

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双発プロペラ機DHC-8–100により、緊急性の高い物資が国境を越えて迅速に届けられています。©WFP/George Ngari

予算部門が分析する数字は命に関わっています。新型コロナウィルスによる経済環境悪化により生活困窮した人々への食料支援で、資金はどれほど追加で必要となるのか。食料の現物支給か、現金支給か、サプライチェーンの遅延の影響で更なる食料価格の高騰が見込まれる中で何が最適な支援方法か。各国政府など国連WFPのドナーは医療分野に多くの支援を行う関係で、今後どのくらい食料分野に支援してくれるのか。こうした全ての要素が数字に落とし込まれていき、限られたリソースの優先度合の判断に繋がっています。

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田島さんと同僚である国連WFP東アフリカ事務所(所在地ケニア)の面々。©WFP

国連WFP東アフリカ地域事務所・予算部門長のアメリカ人は、もともとエボラ出血熱の対応で西アフリカでも働かれていた方で、緊急時のリーダーシップ、スピード感を学ばせていただいています。直属のエリトリア人の上司はナイロビで一人暮らしの在宅勤務生活の自分を心配して毎日のように電話でケアくださり、チーム一丸となってこの危機を乗り越えようという雰囲気があります。最も脆弱な方々への食料支援を止めないよう日本の皆さんにご協力いただけると大変ありがたいです。

田島大基(たじま だいき) 国連WFP東アフリカ地域事務所 予算担当官 日系メガバンク、インド現地採用、JICA勤務を経て2019年からJPOとして現職勤務中。キャリアパスや現職の詳細は、以下よりご覧ください。 「数字に命を吹き込め」~日本人職員に聞く<前編> 「データ・ヒーローの喜び」~日本人職員に聞く<後編>

この危機的事態に、国連WFPが支援活動を続けることができますよう、ご協力何卒よろしくお願い致します。

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