ウクライナ:飢えと寒さの中、300万人に食料を届ける国連WFP
マリアンヌ・ウォード氏はクリスマスをウクライナの前線で過ごし、何ヶ月も人道支援が途絶えていたザポリージャ州東部のオレホボを訪れました。
国連WFPウクライナ事務所の副代表であるウォード氏は、他の国連機関のパートナーとともに訪問した時のことを話しました。「家族はみんな地下室で、即席の薪ストーブで暖をとりながら暮らしていました」
「その環境で68人ほどの子どもたちが住んでいました。厳しい冬の寒さを過ごすのに適しているとはとても言えない環境です」
壊滅的な戦争から間もなく1年が経とうとしているウクライナの最前線から2,000 km以上離れたスイスのダボスでは、世界各国のリーダーやインフルエンサーが出席する世界経済フォーラム(WEF)が開催されています。
しかし、この戦争の影響で、世界の食料・燃料価格の高騰に拍車がかかり、特に最貧国では飢餓が深刻化し、多くの国を不況に追い込んでおり、ダボス会議の最優先の議題になっています。最近の世界経済フォーラムの調査によると、生活費の危機は、生物多様性の喪失や気候危機といった壊滅的かつ長期的な脅威を抜いて、今日の最大のグローバルリスクとされています。
国連WFP事務局長のデイビッド・ビーズリー氏はダボス会議に先立って、8億2,800万人の人びとが次の食事に不安を抱いている状況の中、「私たちは今、前例のない食料・栄養の危機に直面しています。中でも、女性と幼い子どもたちが最も深刻な打撃を受けています」とツイートしました。「彼らが生きて、前進できるよう、私たちは力を合わせることができますし、そうしなければなりません」
ウクライナ国内では約1年に亘る戦争により、3世帯に1世帯が食料不安に陥り、1,800万人が人道支援を必要とし、人口の3分の1以上が避難を強いられました。
厳しい寒さが襲う中、ウクライナのエネルギーインフラは機能せず、家畜は壊滅的な被害を受け、多くの畑に地雷や爆発物が散乱している状況で、農家の人びとが今年直面しなければならない問題はさらに深刻になっています。
「ウクライナは世界の穀倉地帯であり、国連WFPにとっても世界最大の穀物供給国でした」とウォード副代表は言います。戦争の前は、ウクライナからの穀物は約4憶人もの人びとを賄っていました。「電力網が停止すれば、食料の生産、加工、輸送がさらに困難になります」
停電や断水により支援活動は困難を強いられ、ウクライナのニーズが高まっています。電気や水が使用できる場所は限られています。職場でも家庭でも、冬を乗り切るには、寒さをしのぎ、わずかな暖かさを期待し、運良く食事ができることが重要です。
空襲警報が発令されると、人道支援のスタッフも一般のウクライナの人びとも同じように避難所に飛び込み、何時間も過ごします。
国連WFP職員が避難所で過ごした時間(あわせて丸1ヶ月)について、ウォード副代表は「座っていると、ドカーン、ドカーン、ドカーンという音が聞こえるのです」と話します。
それでも、ウクライナ政府や多くの民間・公共部門のパートナーの協力を受けて、国連WFPや他の人道支援機関は支援活動を実施しています。
国連WFPは毎月約300万人のウクライナの人びとに食料支援を届けています。前線にいる家族にはすぐに食べられる食事を、オデーサのような銀行や市場が機能している地域では現金による支援を行っています。
昨年、戦闘が続くヘルソンから貯金を持たずに逃れた36歳のオレクサンドラさんのような家庭にも支援が届いています。
「この支援はかけがえのないものです」と、息子を養うことができないのではと心配だったオレクサンドラさんは言います。現在は北にあるペルボマイスキーという都市に住んでいます。
国連WFPがウクライナで配布する食料は、ほとんどを現地で調達しています。例えば、パン屋さんと連携し、前線や被災地にパンを届けています。また、現金支援を行うことによって、昨年少なくとも3分の1に縮小したウクライナの経済を支えています。
南部の港町ヘルソン周辺のように、戦争の被害を受けた地域の多くは驚くべき回復力を見せており、戦闘が緩和されるとすぐに立ち直る、とウォード副代表は話します。
「約6週間後には、電気が一部復旧します」と彼女は言います。「ATMも一部使えるようになり、現金も少し引き出せるようになるのではないでしょうか」
現金がなくても、国連WFPは大手スーパーの2社との協定により、ウクライナの人びとが食料引換券で食料品を入手ができるようにしています。「普通の生活を取り戻し、より多様な食事ができるようになりました」と彼女は話します。
黒海にあるウクライナのいくつかの港から、海上の回廊を開くという合意により、これまでにウクライナから約1,700万トンの食料が輸出され、世界で最も脆弱な地域にもより多くの食料が届いています。食料価格は10年ぶりの高値が続いているものの、世界の食料価格を引き下げることにつながっています。
エチオピア、イエメン、アフガニスタン、ソマリアなど、壊滅的な飢餓に直面する地域のある国の支援活動のため、国連WFPだけで38万トンの小麦を輸送しました。
「穀物を届ける人道支援は、困窮する人びとにとって非常に重要です」とウォード副代表は言います。「また、世界の食料価格を引き下げることは、すべての人の支援につながります」
ウクライナ国内では、国連WFPは国際連合食糧農業機関(FAO)を支援し、穀物貯蔵の逼迫を緩和するため、大きな一時貯蔵倉庫を農場に移動させています。
「FAOは、全国の農家に倉庫を配置するために大きな役割を果たしました」とウォード副代表は話します。
次の農作期が迫る中、国連WFPはFAOやウクライナ政府と協力し、世界で最も収穫量が多いとされる同国の小規模農家を支援します。
「地雷除去や、地雷除去への投資が次の大きな課題です」とウォード副代表は言います。現在、地雷除去の専門企業、特に人道的な地雷除去を呼び入れるための取り組みが進められています。
「農家のコミュニティーを早く立ち上げることができれば、経済、さらに食の多様性にも早く貢献できるようになります」と彼女は加えます。
しかし、ウクライナの危険な前線に食料を届けるための企業との契約など、今日の課題は大変なものです。
そして、厳しい冬の寒さの間も、悲惨な状況が増しています。
「キーウの街を歩いていると、人びとが自分の持ち物を売っているのを見かけます」とウォード副代表は言います。「彼らは暖かいコートを売ったり、本を売ったりしています。多くの人びとが本当に苦しんでいるのです」