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データで読むコロナ禍の食料事情・シエラレオネ食料安全モニタリングレポートから

西アフリカのシエラレオネでは、日本政府の支援を活用して毎年2回程度、食料事情の調査が行われています。
, WFP日本_レポート

緊急で実施された今年6月の調査結果からは、新型コロナウイルスの世界的大流行による国境閉鎖やロックダウンがもたらした物流の停滞が、人々の食料事情を直撃し、人口の63%が食料不安に陥るという深刻な状況が明らかになりました。

本記事は英文の公式レポートの日本語訳(抄訳)となります。

新型コロナウイルスの世界的大流行のシエラレオネへの影響

シエラレオネでは全人口800万人の食料自給を国内生産でまかなうことが難しく、食料供給の80%を輸入に依存しています。近年では食料価格が上昇傾向にある一方で、通貨のレオンは下落傾向にあり、シエラレオネ農林省(MAF)と国連WFPによる食料価格調査では、新型コロナウイルスの流行直前の2020年第1四半期の間に、米の価格が8%、キャッサバ芋の価格が17%値上がりしました。今年はもともと42万5000トンの穀物を輸入予定でしたが、新型コロナウイルスの流行の影響で、更に輸入量を増やす必要が出ています。

<シエラレオネの新型コロナウイルスへの対応>
3月24日:シエラレオネのジュリアス・ビオ大統領は12ヶ月間の医療緊急事態宣言を発令。
3月27日:隣国ギニア、リベリアとの国境を閉鎖。陸路での農作物、日用品物資の取引に打撃。
3月31日:国内初の感染者を確認。
4月10日:政府は国内の地域間の移動制限を実施し、物流に大きな打撃。さらにロックダウンや営業時間の短縮など、感染対策の影響が経済活動や農業に及ぶ。
8月19日:新型コロナ感染者数は1959人に到達。

この現状を受けて、国連WFP、国際連合食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、Food Security Working Group(FSWG)による支援の下、シエラレオネ農林省は緊急での食料安全モニタリング(E-FSMS)を実施。このデータをもとに、新型コロナの食料安全への影響及び今後についての検証を行うこととしています。

緊急食料安全モニタリング(E-FSMS)の概要
6月に行われた緊急食料安全モニタリング (E-FSMS)は、新型コロナウイルスがもたらした各世帯の食料安全及び脆弱性への影響の検証を目的とした調査です。前回1月に実施した食料安全モニタリング(FSMS)調査結果との時系列比較を行うとともに、シエラレオネ周辺国の状況との比較検証でも使用される予定です。

緊急食料安全モニタリングでは、シエラレオネ全国3456世帯を対象にアンケート調査を行い、90%にあたる3124世帯から回答を得ました。正確な比較のため、前回の食料安全モニタリング調査時に選択された同じ調査区域・村を今回も調査対象としており、シエラレオネの統計データを基に、各地区18調査区域・村の12世帯ずつで調査を行いました。各地区からは平均で216世帯から回答を得ました。

調査結果

食料不安の現状:
人口の約63%(510万人)が「軽度の(moderately)」または「重度の(severely)」食料不安であるという結果になりました。前回1月の調査時の47.7%(390万人)から120万人増加した形になり、特にシエラレオネ西部の都市部で高い数値が見られました。

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シエラレオネ国内地区ごとの食料不安の割合。色の濃い地区で食料不安の割合が高い。

シエラレオネの食料安全保障の状況は、新型コロナウイルスの流行に先立つ2018年9月以降、調査のたびに悪化しています。これは、人口の約半数の49.8%が食料不安に陥ったエボラ出血熱流行直後の2015年調査時を上回り、記録的な増加傾向を見せています。例年7月から9月までの収穫後の時期(リーンシーズン)には豪雨や食料価格の高騰、食料備蓄の減少により食料不安のレベルが上昇します。2019年には多雨による洪水で収穫できず農地が流され、食料不安が悪化しました

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食料不安の割合の時系列での比較(2018年9月~2020年6月)オレンジが軽度の食料不安、灰色が重度の食料不安

各世帯の飢餓状況:
今回の調査では食料不安を測る指標である、「世帯における飢餓の指標(HHS・Household Hunger Scale)」を用いて、各世帯の飢餓状況の分析を行っています。

設問1:「過去30日間で食事を摂れなかった日の有無」。
→結果:37%の世帯が有りと回答。うち14%が「たまに」、23%が「稀に」と回答。

設問2:「過去30日間で食事を満足に摂らずに就寝した日の有無」。
→結果:49%が有りと回答。うち2%が「頻繁に」、27%が「たまに」、19%が「稀に」と回答。

設問3:「過去30日間で(食料が足りない、購入できないなどの理由で)食事を丸一日摂らなかった日の有無」。
→結果:24%の世帯が有りと回答。うち18%が「たまに」、6%が「稀に」と回答。

新型コロナウイルスが食料購入を阻害する要因の1つに:
大多数のシエラレオネの世帯は、食料の購入を市場に頼っています。ロックダウンや移動規制など新型コロナウイルス感染防止対策が行われている状況下で、市場へのアクセスを阻害している原因を把握することが、食料不安に対処する鍵となります。

設問:「過去14日間で市場に行ったことの有無、「無し」と回答した主要な理由」。
→結果:全国レベルでは、52%の世帯が「無し」と回答。理由として、1位は「経済的事情(18%)」である一方、「移動規制(12%)」、「外出に対する不安(9%)」、「周辺の市場閉鎖(8%)」といった、新型コロナに関連した理由を合計すると29%に達しています。

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世帯で見た収入に占める食事への支出の割合:

食事への支出の割合は、食料安全保障を検証するうえで重要な指標の一つです。収入が低い世帯では、食事への支出が収入全体に占める割合が高く、それ以外への支出の減少を余儀なくされます。シエラレオネでも同様に、収入のほとんどを食費が占め、医療や教育費などの生活費よりも優先されています。

<食費が世帯収入に占める割合でみた世帯の分布>
「とても貧しい」(収入の75%以上が食費):全世帯の31%
「貧しい」(収入の65–75%が食費):全世帯の29%
「ぎりぎり」(収入の50–65%が食費):全世帯の28%
「普通」(収入の50%以下が食費):全世帯の11%

適切なカロリー・栄養量の摂取状況:
食料摂取スコア(FCS:Food Consumption Score)は栄養摂取量や摂取頻度、適切な食生活等を測ることで算出されます。回答を基に、3つのカテゴリー分けを行いました:

「不足」:適切なカロリー量、栄養量の食事を日常的に摂取していない
「ぎりぎり」:定期的に摂取するが、足りない。
「普通」:適切なカロリー量、栄養量の食事を日常的に摂取している。

その結果、「普通」はわずか29%の世帯で、37%が「ぎりぎり」、34%が「不足」カテゴリーとなり、合計71%の世帯で必要なカロリー・栄養量が摂取出来ていない状況に陥っています。

コロナ禍での食生活の維持:
安定して食事を取るために、シエラレオネの各世帯はさまざまな方法で対応を行っています。分析に当たり、深刻さの度合いに応じて3つの対応法に分類を行いました。

(1) 問題対応:借金や貯金の切り崩しなど、一時しのぎとなる方法
(2) 危機対応:機械等の資産の売却や人員の削減など、今後に悪影響のある方法
(3) 緊急事態対応:土地等の固定資産の売却など、今後の回復が困難な方法

何も対応することのなかった世帯は、1月調査では26%だったのに対し、今回は13%にまで減少しました。反対に、より深刻な対応を迫られる世帯の割合が増えています。一部の地区では、ほぼ全ての世帯が何らかの対応を迫られたと回答しています。

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右から順に、対応なし(No Coping Strategy)/(1) 問題対応(Stress Coping Strategies) /(2) 危機対応(Crisis Coping Strategies) /(3) 緊急事態対応(Emergency Coping Strategies)を取った世帯の割合。青が1月、灰色が今回調査の比較。

新型コロナの影響を受けた世帯は、一回の食事量を減らす、食事の栄養価を減らすなどの対策を取り、影響を受けなかった世帯よりも結果的に貧しい食事状況に陥ります。どういう対策を取ったか詳しい内容を測るため、以下の食生活に関するネガティブな行動5つを基に、rCSI(Reduced Coping Strategy Index)を算出し、過去7日間の行動頻度の調査を行いました。

行動1:あまり良くない・安い食事を取る
行動2:食料を他人から借りる
行動3:一回の食事量を減らす
行動4:子どもを優先するため、大人たちの食事量を減らす
行動5:一日の食事回数を減らす

rCSIのスコアが高いほど、上記の行動を取った回数が多いことを意味しており、世帯の脆弱性が上昇していることを意味します。地域別では、スコアが20に達するところもあり、1日平均で3つの行動を取っていることになります。

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調査のまとめと提言

脆弱で貧しい世帯が大多数のシエラレオネでは、経済的、環境的、また公衆衛生上の影響でもともと食料不安な状況にあったところ、新型コロナウイルスの世界的大流行が追い打ちをかける形で、更に食料不安が悪化する事態になりました。収入の乏しい世帯が食料を購入出来るようにするためには、現金支援の規模を拡大する必要があります。とりわけ慢性的な病気や障害を持つ人、高齢者を優先的に支援する必要があります。

・今回の調査では都市部での食料不安が深刻化し、首都のフリータウンでは食料不安に陥っている市民の割合が、前回調査時の41%から49%に増加しています。新型コロナによるロックダウンが原因で、その多くがその日暮らしの小規模な商売を行っている人たちの仕事ができなくなり、食料不安に追い込まれています。こういった人々を立ち直らせるために、現金支援は都市部でも積極的に行う必要があります。

・収穫期が終わり、リーンシーズンとなる7月~9月には、脆弱で食料不安に陥っている世帯にセーフティーネットを提供する必要があります。食料の摂取に加え地域経済の活性化ために、地方部では現物支援を行い、都市部では特に脆弱な人を対象に、現金支援による食料支援が求められます。

・ロックダウンや新型コロナに対する恐怖により、乳幼児への定期的な予防接種や発育状況のモニタリングチェックを行う機会が減少しました。さらに景気後退により、特に女性や子どもにとって、栄養価の高いバランスの取れた食事を摂ることが難しい状況になっています。更なる状況の悪化を防ぐため、栄養失調にある妊娠・授乳期の女性や、6ヶ月から5歳までの子どもたちに栄養強化食品を提供することが求められます。

・ロックダウンや移動規制はウイルスの拡散を減らす効果はありましたが、新型コロナへの恐怖心を高め、市場へのアクセスを阻害する要因となりました。新たな新型コロナ対策を講じる場合は、対策のコストと効果の双方の観点から、その影響を対策の実施前に慎重に検討する必要があります。

・食料不安の高まりが、貧しい世帯の子どもたちが学校に通うことへの障害とならないために、学校給食支援の規模を拡大していく必要があります。

・小規模な自作農や小規模な商売を行う人々は新型コロナの特に深刻な影響を受けており、それぞれ農業や商売のための資金を必要としています。地方銀行などの金融機関や開発支援団体からの、融資や助成金による支援が求められます。