データ・ヒーローの喜び~日本人職員に聞く~
<前編より>大学1年時のモンゴルの孤児院訪問から12年、念願となった国際協力の舞台をケニアで 得た田島大基さんは、国連WFP東アフリカ地域事務所にてルワンダとケニアの予算担当官として活躍することになります。そしてフィールドワークの一環としてケニア・ ダダーブにある難民キャンプを訪れます。前編はこちら
設立より30年近くを迎えるキャンプで見えたこと
ケニア・ ダダーブにある世界最大級の難民キャンプでは最大時には約40万人もの主にソマリアからの難民が暮らし、現在は約22万人の難民が暮らしています。1991年のキャンプ設立から30年近くが経ち、2016年に ケニア政府によりキャンプの閉鎖を告げられ、大きな課題となっています。
閉鎖の発表 以来、各方面からの支援も縮小傾向にあり、現在WFPからの難民向け一般食料 支援の配給量 も30%カットせざるを得なく、人々は1日1食~2日に1食の食事でどうにか過ごしている状況です。
難民キャンプにはホストコミュニティ のケニア人も等しく利用できる学校も病院もあります。学校ではWFPにより給食が提供されていますが、これは支給30%カット の対象とはならず、小児栄養の観点から手厚く守られ子どもたちの成長に役立てられています。また、昼食代を浮かせたいという理由によっても家族からも登校は歓迎されており、子どもたちの未来をはぐくむためにも一役買っています。
「滞在中に出会ったソマリア難民の女性のコミュニティリーダーが言った"ダダーブを忘れないでください"という言葉が深く心に残っています 。国際社会の中から衆目を失い、ホスト国からも閉鎖を告げられているキャンプの今後の難しさと焦りが伝わってきます。」田島さんは決意を告げます。「キャンプでは現地語を話せない予算担当官の自分はあまり役に立つことはできませんでしたが、その事で却って 彼ら彼女らの役に立てる場所、自分の立ち位置がはっきりしました。自分の付加価値が最大化する場所で精一杯に努力をするのが大事だと痛感しました。」
人が人を助ける、だからこそ感じる難しさ
様々な組織、国で業務を経験し、現在は「家族のような」チームに身を置く田島さんだが、一番難しく感じるのはミスコミュニケーションが起きた場合だという。
例えば、作業に没頭している時に「ずいぶん時間がかかっているね?」とケニア人同僚に声をかけられ、ついついむっとしてしまった出来事がありました。実際には同僚は、「大変なら手を貸そうか?」という気持ちで話しかけただけだったとのことです。これは些細な例ですがミスコミュニケーションも生死が関わってくる例となると事情は変わってきます。
田島さんの赴任前の出来事ですが、2018年にルワンダの難民キャンプで 食料 配給量が25 %カット された時のことです。配給量カットの抗議活動のため キャンプ外へ逃亡した難民 が 地元警察と揉め、11 人の死傷者をだす事件が発生しました。「予算が確保できず、食料 配給量がカットされ、そのことで人々が絶望し、最終的に死者を出してしまうという悲劇が起きてしまいました。とてもとても残念です。」と田島さん。
データ・ヒーローの喜び
予算担当官は国連WFP東アフリカ地域事務所では データ・ヒーローと呼ばれています。
それはデータに裏付けられたコミュニケーションによる内部調整が、単純な データ 管理と比べてもいかに大切か、そして数字そのものには裏表がないが、その数字に意味を持たせて組織全体を動かす「触媒」となるの がデータ・ヒーローたる予算担当官の仕事だという皆の理解が表れているからです。
実は昨 年もルワンダ国事務所への支援資金が足りず、難民向け一般食料 支援に関して20%の配給量 カット 実施寸前まで追い込まれた 際 、田島さん自らがローマ本部に掛け合い、調整役としてWFP内部の資金の貸し借り に成功し、配給量 カットを回避できました 。
田島さんは、前述のルワンダの悲劇のような痛ましい 事件の再現を防げたと胸をなでおろすと共に、無味乾燥した数字を扱っている自分が、人の生死 に深くかかわっていると実感できたと言います。
ルワンダで知り合った元コンゴ難民の1人とはSNSで今も繋がる友人となっているそうですが、その彼は猛勉強 の末、難民キャンプから国内最難関のルワンダ国立 大学に進み、さらには奨学金を獲得して米国のニューヨーク大学で今は博士 の勉強をしているそうです。 そのことを自分のことのように田島さんは嬉しそうに話します。「自分が関わる場所で、分析して発する数字で、人々の可能性を広げて未来 を創っていることを実感させてもらい彼には感謝しています。」
「数字に命を吹き込め」
これは彼が大切にし、原動力にもなっている国連WFP東アフリカ地域事務所の予算部門長の言葉です。数字自体は無味乾燥なものだが、それを分析するのは命を救い、未来を救うことに繋がる という事を伝えています。
数字を分析し、予測・協議し、一人でも多く救い、人々の未来へつなげたい。少しでも世の中の機会の不平等を解決したい 。モンゴルに始まりケニアにいたる田島さんの変わらぬ想いです。
そのために、今日もデータのパイプを叩き、そこにへこみがないか、人々の将来を繋ぐラインがきちんと未来へつながっているか、命を吹き込まれた数字が人々へ届いているか、東アフリカの地でデータ・ヒーローは確認に余念がありません。