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数字に命を吹き込め~日本人職員に聞く~

, WFP日本_レポート

干ばつと難民問題に揺れる東アフリカでパイプラインを守り人々の将来をつなぐ、財務と会計の専門家(前編)

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ケニア、ダダーブ難民キャンプ内の市場を訪れる田島さん。Photo:提供による

田島大基さんはJPOとして初めて派遣されたケニアで、東アフリカ地域を結ぶパイプラインを担当しています。パイプラインと言っても、これは大型石油プラントの話ではありません。パイプラインとは、国連WFPが導入した、支援のバックボーンを担う綿密に作成された表計算ツールを指し、これにより援助の将来的な必要額や不足額などが予測可能となり、また効果的な支援を行うための食料調達スピードが劇的に改善可能となります。

モンゴルで出会った笑顔に芽生えた国際協力への意識

神奈川県横浜市で生まれ育った田島さんですが、人生でそれほど興味がなかったという国際協力の世界に目覚めたのは大学1年の時でした。「友人からの誘いで気軽に参加したモンゴルの孤児院へのスタディツアーでしたが、生まれながらに平等ではない環境と、それでも草原に輝く子ども達の笑顔に心打たれました。そして世の中の機会の不平等をなくす助けになりたいと真剣に考えるようになったのです。」

その強烈な原体験により大学の専攻を開発経済学に定め、在学中はモンゴル孤児支援のNGOでボランティア、卒業後の進路として国際協力関係団体を希望した田島さんでしたがリーマンショックによる影響で該当組織は採用を絞り縁が無く、メガバンクに就職します。

都内で大手銀行にて勤務を続ける傍ら、土日などパートタイムの時間をマイクロファイナンス支援のNPOでの活動に充てたという田島さん。財務の専門性を養いながら国際協力への機会をひたすら待ちました。

銀行勤務3年目のある日、電話が鳴り大学のゼミの先輩に尋ねられました。「お前、インドに行かないか?」田島さんが振り返ります。「これが運命の扉の鍵となりました。」

インドの地場の企業への転職は給料も下がるだけでなく、何より安定した企業生活を手放すことになります。インド行きに際してはご両親と長く話をし、母親には号泣されましたが初志を貫きます。

渡印後は現地で日系法人を相手にした業務の傍ら米国公認会計士(USCPA)試験に合格。財務に加え会計という武器も身に着けたうえで3年後、今度は国際公務員に必要な修士号を取得するため米国ボストンへと渡ります。

ボストンではタフツ大学フレッチャースクールで学び、国際ビジネス修士(MBAと国際関係学のデュアルディグリーのデザイン)を取得しますが、夏休みに参加したルワンダの起業家支援NGOでの経験が東アフリカへの興味を大きく掻き立てることになります。

卒業後、JPO試験に合格、ちょうど募集のあった国連WFP東アフリカ地域事務所での予算担当官というポストにピンポイントで応募をし、結果が出るまでの約1年の間、JICA民間連携事業部にて初めて国際協力の世界で財務関連の業務を行うという経験をします。

2019年、予算担当官に合格した田島さんは、モンゴルでの体験から12年越しとなる夢を叶え、晴れて東アフリカの地へ赴くことになりました。

新米予算担当官のケニアでの多忙な日々

現在はケニアの国連WFP東アフリカ地域事務所で、予算担当官として東アフリカ8カ国(南スーダン、ソマリア、エチオピア等)のうち、ケニアとルワンダを担当する田島さん。

予算担当官としての彼には主に4つの担当業務があります。

今まで人の経験に頼っていた食料支援計画を、効果的なリソースマネジメントのツールであるパイプラインの使用により、データに基づいて効率的に運用できるようになりました。パイプライン上での数字の入力とその分析により、何の活動のどの食料がいつ、どのぐらい不足するのかを予測、それを基にどこへ資金が分配されるべきかという意思決定を行うため、食料支援計画全体に大切な役割を担っています。

2.GCMF(グローバル在庫管理システム)の分析・レポート作成:

GCMFはWFPのグローバル在庫管理システムであり、各国事務所の将来的な食料需要をパイプラインのデータを基に集計して、ドナーからの支援金が確定する前に食料の調達・運搬・備蓄を進めます。このシステムにより今まで平均120日かかっていた食料のリードタイム(※調達開始から裨益者への食料配布までの期間)が平均30 日に短縮されました。

現在は年間数百億円の予算を使用してWFP全体として適宜適所にて食料を一括で安価に買い上げ、配布場所に近い倉庫への運搬・備蓄を進め、各国事務所がその在庫から購入する仕組みをとっています。

3.WFP内の資金の貸し借り業務のサポート:

支援資金の不足に応じWFP本部と国事務所が資金を貸し借りする仕組み(アドバンス・ファイナンシング・メカニズム)の調整役になります。

4.エボラ出血熱対策プロジェクトの財務管理:

致命的な疾病であるエボラ出血熱の東アフリカ地域におけるアウトブレイクに備え、必要な医療物資などを調達・運搬・備蓄するための資金を管理します。

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予算部門長(左から3人目)とチームの面々と共に、チームビルディングのワークショップに参加した際 Photo:提供による

予算部門は国際色豊かな面々が揃っていて、部門長のアメリカ人の女性の下にスイス、エリトリア、ウガンダ、ケニアなど各国からメンバーが集っています。チームのモットーはシンプルでわかりやすく、「ゼロ・ハンガー(飢餓をゼロに)」となっていて、「目的の達成のために仕事ぶりは皆、熱い想いを胸に最速の道を行きます。」と田島さん。2019年のコンゴでのエボラ出血熱流行時も、東アフリカ地域でのアウトブレイクに備えて皆、暗黙で休みもなく職務に励み、誰も一言も不満を漏らすメンバーはいなかったそうです。

予算部門はいわば後方支援的な立ち回りであり、日ごろ支援の最前線へ出ることはありません。しかし年に1度ほど支援現場に触れる機会がありチームの面々もそれを大切にしています。田島さんは今年、ケニアのダダーブ難民キャンプを訪ねる機会がありました。

<後編に続く>こちらから

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