命を救う米:国連WFPのプロジェクトが洪水に見舞われた南スーダンの人びとの食と生活を変える
南スーダン北部のハルブル村、正午、何時間もかけて稲刈りをした後、農家のニャンデン・ヌーン・アガニーさんは厳しい乾期の暑さの中を歩き続け、家に戻る時にはへとへとに疲れています。
ヌーンさんの6人の子どもたちは、木製の柱と藁葺き屋根、パピルスの壁というシンプルな構造の家のポーチの下で灼熱の太陽から身を隠し、母親の帰宅を心待ちにしています。
「少し前まで、生活は本当に大変でした」と、36歳の母親は籾米の入った袋を頭から降ろしながら振り返ります。「人の家の庭を借りて耕し、できる限りのお金や食料を稼ぐことで生き延びてきました」
しかし、彼女にとって意外な贈り物となったのは、まさに彼女が今子どもたちのために籾摺りをしている米からもたらされました。
首都ジュバから北へ約800キロ、バール・エル・ガザル州北部に位置するハルブル村の人びとは、もともとは米を食べる習慣がありません。ハルブル村を含む南スーダンの大部分では、ソルガム(イネ科の一年生の穀物、日本では「タカキビ」や「モロコシ」、「コーリャン」などと呼ばれる)が主食です。
しかし、米の人気は急速に高まっています。その理由の一つは色々な料理に使える汎用性もありますが、最大の理由は必要性です。気候危機によって異常気象、特に洪水がこの地域にたびたび発生し、ソルガムや他の伝統的な作物の栽培は不可能に近くなっています。多くの家族は飢餓と絶望に追い込まれていました。
「私たちの作物は洪水の影響を受け、土地は不毛になってしまいました」とヌーンさんは言います。
気候変動の最前線で
国連環境計画によると、南スーダンは世界で最も気候の影響を受けやすい5か国の一つであり、ここ数十年の降雨量の減少は、生存のために農業と家畜に依存している大多数の家族を脅かしています。
それと同時に、ハルブル村を含む国土の大部分で洪水が発生し、生計手段を破壊された何十万人もの人びとが避難を余儀なくされています。極端な気象パターンと、長年にわたる紛争と開発不足による低い農業生産性により、コミュニティの強靭性を構築する気候変動対策の拡大はかつてないほど重要視されています。
「私たちは、紛争や大きな経済危機だけでなく、食料不安の増大をもたらす極端な気候変動を目の当たりにしています」と、メアリー=エレン・マクグローティ国連WFP南スーダン事務所代表は言います。
「人道的ニーズは利用可能な資源を上回っており、頻発する気候変動の衝撃と新たな気候の現実に直面している地域社会が適応し、繁栄していくためには、インフラと社会サービスに対する政府の持続的な投資が本当に必要なのです」と彼女は付け加えます。
また、気候変動の衝撃により、人びとは生存にとって不利な戦略(炭の生産や野生の食物の採取など)の採用を余儀なくされることもあり、いずれも森林減少や環境破壊を増加させるとともに、女性や子どもが木材や食料を収集するために外出する際の保護リスクを増大させる可能性があります。
南スーダンの気候危機は、同国で進行中の飢餓の危機を深刻化させています。アフリカ東部に位置する同国は、飢餓人口の割合が56%と世界で最も高く、人口の3分の2が極度の飢餓に直面しており、約4万3,000人が壊滅的な飢餓状態にあります。
しかし資金不足のため、国連WFPは最も高いレベルの食料不安に直面している人びとを優先せざるを得ず、南スーダンで飢餓に直面する人びとに半分の配給しか提供できていません。今年の資金見通しは特に厳しく、命を救う支援を継続し、長期的な強靭性構築に投資するためには、6月までに9億2,100万米ドルの追加資金が必要です。
強靱性と平和の構築
このような投資の成果は、ヌーンさんが2年前に参加した、低地で洪水に見舞われやすい農地で実施した国連WFPの稲作計画に見ることができます。この計画は、食料安全保障の改善、生計の立て直し、衝撃に対する強靭性の確保、自立を促進する地域社会を支援すると同時に、平和に貢献することも目的としています。
このプログラムを通じて、コミュニティは、浸水地域でよく育ち水を好む作物である稲の植え付け、管理、収穫の訓練を受けました。英国が支援するこのプロジェクトと他の類似のプロジェクトが、バール・エル・ガザル北部と近隣のワラップ州で約1,200世帯を支援しています。
ハルブル村周辺では、100人ほどの参加者が25ヘクタールの畑から45,000キログラムの米を収穫しました。ヌーンさんもこれに参加しました。これは、1年間家族を養うのに十分な量です。
6児の父である60歳のダニエル・デン・ユアルさんも豊作を祝う参加者の一人です。彼がこのプロジェクトに参加したのは2020年のことで、当時は全国を襲った壊滅的な洪水で90万人近くが根こそぎにされるなど、大きな被害を受けました。
米を袋詰めする作業をしながら、デンさんは話します。「このプロジェクトに参加する前は、薪を集めて売ることで生計を立てていました。家族を養うのがやっとでしたが、今では家族で3食を食べる余裕もありますし、他の必要なものも満たせるようになりました」
「私たちは、食料不安に直面する人びとが気候変動の衝撃やストレスに備え、対応し、回復するのを支援するための、効果的で拡張性のある解決策を持っています。」と、マクグローティ代表は語ります。「より多くの資金を得て、食料不足のコミュニティと南スーダン政府の能力を強化し、彼らが異常気象の衝撃と迫りくる気候変動に備え、対応し、回復することができるよう、支援を継続するつもりです。」