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【日本人職員に聞く】給食の楽しい思い出が、食料支援志すきっかけに

国連WFP 前ネパール事務所 プログラム統括 前川直樹さん(後編)

国連WFP前ネパール事務所プログラム統括の前川直樹さんは、フィールドでの緊急・開発支援や学校給食に関わる仕事を志しました。

2005年に国連WFP入職後は、ソマリアやスリランカ、フィリピンのミンダナオ島などの紛争地域でも、さまざまな経験を積んでいます。

本編では、前川さんのキャリアや仕事にかける思い、そして日本の人びとへ寄せる期待などを聞きました。

Photo: WFP/Naoki Maegawa
Photo: WFP/Naoki Maegawa

学校給食の持つ可能性を発信したい

赴任した国の学校を訪れると必ず、子どもたちに「好きな給食は何ですか?」と問いかけるという前川さん。国連WFPに入った動機も「学校給食に関わりたい」という思いだったそう。

「私が好きだったのは、揚げパンと牛乳の組み合わせ。そしてカレーライスです。勉強の内容は覚えていないけれど、友だちに牛乳を取られた、余ったミカンをみんなで分けた、といった給食の思い出は鮮明です」

 

だからこそ、厳しい環境にいる世界の子どもたちにも給食を食べて、楽しい思い出を作ってほしい、そして健康な体を作り、教育を受けてほしいと考えるようになりました。

 

「日本の学校では当たり前のように出てくる給食も、開発途上国では命をつなぐ大切な食事です。

子どもたちの将来を切り拓き、農業の発展やコミュニティの自立につながる未来への投資でもあります。学校給食の大切さを世界に発信したいと思い、食料支援を志したのです」

Photo: WFP/SrawanShrestha
Photo: WFP/SrawanShrestha

「世界から見捨てられていない」支援がもたらす安心感

前川さんは国連WFPに入ってから約16年間、インドネシアのバンダアチェで起きた津波災害の現場をはじめ、ソマリアやスリランカ、フィリピンなどの紛争地域で、支援の最前線に立ってきました。

キャリアを通じて「人道支援と開発支援、そして平和構築はつながっている」ことを、実感したといいます。

 

2009~2014年に赴任したスリランカでは、紛争の終結と同時に政府が少数民族である30万人を超えるタミル人避難民を衛生状態の悪いキャンプに、長期間隔離、収容していました。

報道機関だけではなく援助団体も政府からキャンプに入る許可が下りず、初期の段階で直接支援に入れたのは国連WFPなどごくわずかでした。

 

前川さんが避難民キャンプを訪れた時、1人の難民の女性が駆け寄り、タミル語で何かを語りかけてきました。WFPの現地スタッフは「来てくれてありがとう、と言っているんです」

「人間としての尊厳をまったく認めてもらえないという絶望的な状況の中、国連WFPの外国人職員を見て『自分たちは世界から見捨てられていない』という希望を見出し『私たちの存在を、置かれている現状を知ってくれてありがとう』と言う気持ちになったのではないでしょうか」と、前川さんは推測します。

 

イスラム過激派と政府の紛争が続いていたフィリピンのミンダナオ島では、住民自らが計画に加わったインフラ整備などの作業に参加してもらい、労働の対価として食料もしくは現金を渡す「フード・フォー・ワーク」の実施に携わりました。

近隣の集落に住みながら、交流も限られ対立するイスラム教徒とキリスト教徒の人びとが協力して、かんがい設備の建設作業や植林に取り組む姿に感動した、と振り返ります。

「敵だと思っていた人同士が時間を共有し、ともに同じ目的のために働くことで少しずつコミュニティの対話や理解が深まる。こうした小さな活動の積み重ねが、最終的には平和につながるのだと感じました。国連WFPの存在意義や、食料支援の大きな可能性を改めて実感できました」

 

国連WFPは2020年、ノーベル平和賞を受賞しました。

「直接平和構築と関連がないように見えますが、食料支援を通じて、コミュニティと対話を重ね、深く関与することによって紛争地域の人びとの相互理解を促し、『WFPは困難にあるあなた方をと共にある』という現場での行動を通して人びとの心に寄り添ってきたからこその、受賞だと思います」と、前川さんは話しました。

Photo: WFP/Naoki Maegawa
Photo: WFP/Naoki Maegawa

 

日本からできることは?支援を頂く企業や支援者への期待

前川さんは、日本の企業やサポーターの皆さんからの支援に、大きな期待を寄せています。

 

開発途上国の食料生産・流通・貯蔵には、多くの課題があります。農作物の半分以上が、貯蔵施設の不備や輸送時間の長さのため、市場に流通する前に傷むなどして廃棄されていることも、その一つです。

「日本の給食のように、地域で生産された栄養価の高い牛乳を提供したくても、冷蔵施設がなく、安全性が担保できないため不可能です」と、前川さん。

 

日本企業の優れた技術が、こうした課題を解決できるのではないかと考えています。

「例えば、安全で効率的なサプライチェーンを持つ日本企業に技術とノウハウを提供してもらえれば、貯蔵・流通が改善され、廃棄される生鮮食品は減るはず。企業の側も、開発途上国で得た知見をビジネスに生かせれば、将来の市場開拓につながるなど、win-winの関係を築けるのではないでしょうか」

 

そして皆さんからの寄付は、災害・紛争地域で命をつなぐ緊急支援や、学校給食支援など、すべての支援活動の「命綱」です。

前川さんは日本の支援者に対して「いつも温かいご支援をいただき、ありがとうございます」というお礼の言葉とともに、次のように述べました。

 

「皆さんのご支援は、人びとの命を救うだけはでなく、住民参加の開発を促すなど多くの可能性を生み出していることを、私は現場で目の当たりにしてきました。これからも日本の皆さんと一緒に、色々な国に暮らす人びとの人生をより良く変える支援を継続できれば、と思います」

 

そして、支援に関心を寄せる人たちに対しては、このように呼び掛けました。

「国連WFPは、命を救う(SAVING LIVES)支援とともに、学校給食やコミュニティの自立支援など、人びとの未来を変える(CHAGING LIVES)手助けをする取り組みもしています。「Zero Hunger」の世界を目指す活動の輪に加わってもらえれば、支援を通じて多様な人びとと新たな接点が生まれること、自分がどこかの誰かの笑顔や平和につながっていることを、きっと実感できると思います」

 

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