Skip to main content

【日本人職員に聞く】”Changing Lives” 栄養と教育で、平和を築く

パキスタン、移動制限はね返し支援続ける -中井恒二郎さん
, WFP日本_レポート

パキスタン北西部、アフガニスタンと国境を接するハイバル・パクトゥンクワ州(KP州)と旧連邦直轄部族地域(FATA)は、ユーラシア大陸の戦略的要衝に位置します。紀元前4世紀にハイバル峠を超えてアレクサンダー大王の軍隊が侵攻したのをはじめ、21世紀に入ってからも、数々の勢力が戦闘行為を繰り返してきました。このため経済成長から取り残され、深刻な貧困状態に陥っています。

今年8月、ペシャワール事務所長に就任した中井恒二郎に、両地域での支援の難しさを聞きました。

1*7li98uWwBR2x0xmc4VKR7Q.jpeg
中井 恒二郎さん(中央) 現地WFP倉庫にて Photo: WFP

「日の丸」付き栄養ペースト 日本の支援が母子を救う

KP州、FATAに住むパシュトゥーン人は、アレクサンダー大王の末裔と言われています。「実際に現地には、どこか東欧的な風貌で、青い目をした人たちもいますよ」

中井さんはそう言いながら、パッケージに日の丸が小さくあしらわれた袋を見せてくれました。「日本政府の支援で作られた栄養強化ペーストです」

「ママムータ」という名前のこのペーストは、昨年2月に日本政府から寄付された4億円を活用して作られました。

FATAでは、5歳未満の子どもの57%、KP州でも48%発育阻害に陥っています。2017年、国連WFPは両地域で、5歳未満の乳幼児と妊婦、授乳中の母親10万人以上に栄養強化食品を配布しました。

中でも状況が深刻なのは、国内避難民の子どもたちです。パキスタン政府は2001年以降、アフガニスタンからKP州、FATAに流入してきた反政府勢力タリバンの掃討作戦を続けています。このため、国境地帯に住むパキスタン人約20万人が、未だに戦闘を避けてペシャワール近郊などに避難しています。

「国内避難民の多くは農業を営んでおり、土地を離れると収入を失います。現地に仕事はほとんどなく、栄養状態も悪くなりがちです」と、中井さんは強調します。

日本の支援は国連WFPを通じて、故郷を逃れた母親と赤ちゃんたちを救っているのです。

今も残る戦闘の影響と不安定な治安

国連WFPは、国内避難民と彼らを受け入れている集落の住民に対し、食料配布のほか灌漑、農地、果樹園などの整備も支援しています。しかし活動は、治安による移動制限によって困難を極めるといいます。

1*UeOBA5JXQdlvpJLkGIZhLQ.jpeg
自立支援の一環(FAO 国際連合食糧農業機関と協力して)Photo: WFP

国連WFPの職員が国内を移動するためには、毎月移動許可証を取得する必要があります。しかし「特に国際スタッフの場合は、許可証が出るのに早くて3週間、移動先によっては、2カ月待っているのにいまだ取れない地域もあります」と中井さん。

さらに最近、政府は国内で活動していた国際NGO20団体ほどに国外退去を命じました。国連WFPは、各集落への食料配布や現地調査をNGOに委託することも多いのですが、中井さんは「配布を担当してくれるNGOを見つけるのが一苦労です」と嘆きます。

治安への考慮から、中井さんが実際に視察に行った時も、3日間徴募兵がぴったりと護衛してくれました。「市場に果物を買いに行った時も、ライフルを持ってついてきたのにはびっくりしました」と苦笑します。

ペシャワールにある国連WFP職員の宿舎は、設備は整っているものの高さ5メートルの壁に囲まれ「The World's Most Beautiful Jail(世界で最も美しい監獄)」と揶揄されることも。中井さんら職員は市内を自由に出歩くことはできず、基本的には防弾車で移動しています。

「ここ数年平和になってきたとはいえ、今もまだ過去の戦闘が後を引いているのです」

現地に行きづらいというハンディを補うため、ペシャワール事務所では数年前から、意見や要望を電話で受け付ける「ホットライン」を導入しました。中井さんは説明します。

「現地で分配を担当するNGOや集落の誰かが不正を働いた場合や、もらうべき受益者が支援を受け取れなかった場合、そういった情報も入る仕組みになっていて、支援の質を高めるのに役立っています。」

子どもを学校へ! 貧困家庭の通学を支援

パキスタンは国全体で子どもの就学率が56%にとどまり、半数は学校に行っていません。

国連WFPは、貧困家庭から学校に通う10万人を支援するなど「未来のため、子どもへの支援に力を入れています」(中井さん)

「学校に通えない子どもたちは反体制的な組織に取り込まれることもあります。現地では10代の少年少女による自爆テロも発生しています」と、理由を説明します。

国連WFPのスローガンは「Saving Lives, Changing Lives」です。中井さんは、パキスタンでの国連WFPの使命はこの「Changing Lives」だと言います。

「アフリカの飢きんにおける食料支援のような、命を救う活動とは種類が違うかもしれません。しかし栄養と教育によって子どもたちの人生をより良いものにすることが、パキスタンの平和を守る上でも大切なのです

1*AxHwp2agVZeq3S1BSSUbTA.jpeg
Photo: WFP/Silke Buhr

中井恒二郎(なかい・こうじろう)

同志社大学を卒業後、在中国日本大使館で2年間勤務。その後米国に留学し、ピッツバーグ大学大学院公共国際問題修士号を取得。大手商社を経て2001年、外務省が若手人材を国際機関に派遣するプロジェクト、JPOに選出され、国連WFPローマ本部に勤務。その後、南アフリカ、ミャンマー、スーダン、日本事務所などを経て現職。2011年の東日本大震災では、仙台で現地調整官として4カ月間支援に当たった。

パキスタンの平和な未来を担う子どもたちへ食料を届けるため、ご寄付をお願い致します。寄付はこちら