日本の寄付がはぐくむ果実
国連WFPに届いた、1枚の絵をご紹介しましょう。
木には色とりどりの果物が実り、子どもたちは果実で一杯になったかごを抱えています。これから取った果物をみんなで食べるのでしょうか、女の子たちの楽しそうな笑顔が印象的です。タジキスタンの小学生、オミナイ・アスリディンが描きました。
これらの果物の木々は、日本の国連WFP協会に対する寄付を使って植えられました。
「給食のおかげで勉強できる」
タジキスタンは、決して豊かな国ではありません。
国内の9割は山岳地帯で産業は乏しく、多くの家庭がロシアなどへの出稼ぎで生計を立てています。食料自給率は5割程度で、5歳未満の子どもの3割弱が慢性の、1割が急性の栄養不良に悩まされています。
国連WFPは食料事情の悪い地域を中心に、学校全体の約半分に当たる2000校、約40万人に学校給食支援を実施しています。
国連WFPタジキスタン事務所の川端真理子副代表によると、貧しい地域では、パンなど主食以外のものを食べる機会が学校給食だけ、という生徒も多いといいます。
孫を学校に通わせているサフィエブ・シリンフジャさんは「国連WFPと支援者の方には深く感謝しています。暖かく栄養のある学校給食のおかげで、2人の孫が勉強に集中できるのです」。と話しました。
学校緑化プロジェクト
国連WFPは2011~15年、日本の国連WFP協会からの資金を活用し、学校内やその周辺にピスタチオやさくらんぼ、りんごなどの苗木を植えました。地元の生徒や保護者、近隣の農家などが丹念に手入れをした結果、苗木は立派に育って実をつけ、給食に彩りを添えるようになりました。
川端副代表は「植えた苗の9割はしっかりと根付きました。立派に育った果樹園は緑が美しく、こちらも支援が形になったと嬉しくなります」と話します。
収穫物は給食に使われるだけでなく、地元の市場で売られ、その収入で文房具や本など学校の備品を買う場合もあります。
上級生にとって果樹の収穫は、健康に良い食べ物やバランスの取れた食生活、果物の貯蔵や加工の方法を勉強する場でもあります。
「毎年夏になると、私たちのクラスはリンゴやあんず、桃などを収穫して、学校の貯蔵庫に入れ、ジャムやコンポート、ドライフルーツを作ります」絵を描いたオミナは、そう説明します。
生徒4万人の食生活が改善
タジキスタンでは給食に割く政府予算が十分でなく、給食を続けるには保護者の協力が欠かせません。小麦と塩、豆、油を国連WFPが、燃料費の一部を政府がそれぞれ提供していますが、野菜など主食以外の食材は保護者が持ち寄っています。貧しい地域では「果樹園があるおかげで、給食に果物が並ぶのはありがたい、という声を先生たちから聞いています」(川端副代表)。
果物が給食に取り入れられたことで、これまでに4万人以上の生徒の食生活が改善しました。国連WFP協会が昨年送った寄付金27万米ドル(約3000万円)を使って、新たに80校への植樹が行われる予定です。
タジキスタンは1991年の独立後、92~97年まで内戦が続きました。国連WFPは内戦中、主に緊急性の高い食糧支援をしていたことから、今も困っている人へ食べ物を届ける、というイメージを持たれがちです。
しかし川端副代表は、世の中が落ち着いた今、支援も変わる必要があると話します。
「今最も求められているのは、果樹園や灌漑施設、給食制度、食料安全保障を担う人材など、長く残るものを作るお手伝いです。その結果、支援の必要がなくなることこそ、究極的なゴールなのです」
国連WFPは世界各国で、小規模農家から作物を買い入れて食材に活用するなど、学校給食を通じて住民の自立を促す活動を進めています。