レバノン:ウクライナ戦争が引き起こす気候危機の中の物価の高騰
レバノンにあるベッカー高原の、頂上に雪が積もった山々の間、絡み合うように入り組むぬかるんだ道の先にラナの農場があります。
絡み合うように入り組むぬかるんだ道という表現が暗に示しているのは、気候変動や紛争、新型コロナウイルス感染症のパンデミック、そして価格の上昇とも言えます。これらは、中東や北アフリカの全域で食料や燃料の価格が高騰する原因として国連食糧計画(国連WFP)が警鐘を鳴らしています。
両親の農場で忙しく働くことを心から楽しんでいるラナは、この農場で生計を立てるため、子どもの頃から毎朝5時に起床しています。以前は看護師として働いていた彼女は「私は根っからの農家なのです。四方を壁に囲まれた部屋で長時間過ごすとムズムズしてきます」と話します。
しかし、ラマダンが始まると、ラナも崩れていく経済と高騰する価格に耐え忍ぶ何百万人ものレバノン人の一人となりました。
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ウクライナでの戦争は、燃料や食料の価格に大きな影響を与えています。全世界の30%におよぶ小麦をウクライナとロシアの二か国で生産しており、輸入に依存しているレバノンでは、小麦の80%をウクライナから輸入しています。
食料バスケットの価格は1家族が1ヵ月間に必要とする最低限の食料の指標となっています。昨年、レバノンの食料バスケットの価格は年間351%の上昇を記録しました。シリアの97%、イエメンの81%がそれに続きます。
ベイルートでは、2020年に壊滅的な大爆発が起こりました。それにより国内最大の小麦貯蔵庫が破壊されたため、大型船での輸送ができず、レバノンへの小麦輸送は小型船舶の使用を強いられています。
その一方で、長期にわたる乾期が農地に大きな被害を与えるなど、ラナのような農家は気候変動の影響を最前線で受けています。
「昨年の夏は永遠に続くかと思いました」と語るラナ。飼料の価格が高騰したことで、ラナは羊や牛の飼料を購入するために、家畜の半数近くを売却する必要に迫られました。
「昨年は、害虫被害のために収穫した野菜の大半を処分しました」とラナは続けます。雨が降らないことは「小さい虫たちにとっては天国なのです」と言うラナは、今年の夏も作物が「気候変動の被害者になる」と考えています。
「異常を知るために天気予報アプリは必要ありません。実際に自分の肌で感じることができますから」とラナは加えました。
高い気温と湿度が、農業従事者の仕事をより過酷なものにしています。不規則な天候によって、不作による経営難を回避するため、ラナは耕作時期を通常より早めたり遅くしたりするなどの調整を強いられました。
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レバノンの至る所で発生している山火事により森林一帯が焼かれ、人びとは自宅からの避難を余儀なくされています。2017年より、国連WFPはレバノンにおける気候危機の第一線で対応を行っています。現在までに110万以上の苗木を植え、502ヘクタールを超える森林を火事から守ってきました。
国連WFPはベイルートのアメリカン大学と連携し、小規模農家の支援を通して農村の適応力を強化するという試験的なプロジェクトを、アッカールやベッカー、ベールベック、ハスバヤなどの地区で実施しています。
ビジネスの発展やマーケティングのスキル、家畜の管理を通じて農家のキャパシティを強化することが、気候変動の影響を軽減することにつながります。
国連WFPは現在、この活動や生計に関わる同様のプロジェクトを再現しようと試みています。しかし、資金不足という問題が、農家を含め瀬戸際に立たされている脆弱な人びとへ全面的な支援を届ける妨げとなっています。
ラナのビニールハウスには、以前は様々な種類の野菜が溢れていました。気候危機により、水不足に対して耐性のある作物の栽培へとシフトすることを余儀なくされました。今まで育てていた収益性の高いトマトやピーマン、ズッキーニに代わり、現在はミントやローズマリーなどのハーブを栽培しています。
「このプロジェクトから学んだことは、まさに目からうろこでした。今までは当然処分すると考えていた物から、低コストかつオーガニックな肥料を作っています」と語るラナは、肥料を手作りすることで浮いた経費を、損失の一部の補填に充てることができました。肥料を購入するのではなく、通常は処分していたものを利用して肥料を作っているのです。
ラマダンの期間中も物価の上昇が続いており、多くの家庭で断食明けに食べるものがほとんどない状態になるだろうとラナは考えています。
国連WFPはレバノンの危機に対して、最前線での人道的対応に従事し続けています。国内のみならず世界的な危機の影響により、不安定な生活を強いられているレバノン人の3人に1人に対して支援を届けています。