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シリアに栄養のある未来を:紛争下に生まれた子どもたちに栄養を届ける国連WFPの工夫

子どもの栄養不良に立ち向かう国連WFPの革新的な取り組み
, Lynda Buckowksi
A girl and a boy wearing jackets swing around holding hands in sunny street in the middle east
アレッポの農村地域の国連WFP配給センター沿いの通りで遊ぶ子どもたち Photo: WFP/Marwa Bana

シリアでは2011年に内戦が勃発し、大きな苦難に直面しており、ユニセフ(国連児童基金)によると、同国の1,050万人を超える子どもたちのうち75%以上が内戦下に生まれました。

今ではその多くが、暴力、避難、困窮しか知らないまま10代となりました。健康上の影響は深刻で、栄養不良、発育阻害、必須栄養素の不足により、長期的な発育が脅かされています。

これまでは「シリアで子どもの栄養不良の問題はなかった」と話すのは、ダマスカスで栄養・学校食料支援を担当する国連WFPの職員、ヤスミン・ラバビディです。紛争の中にあっても、大人が食事を抜くなど犠牲を払うことで、子どもたちは比較的守られていました。

しかし、紛争が10年以上におよび、経済破綻、世界的なパンデミック、2023年の大地震、2024年末のレバノンでの戦闘の影響により、状況が大きく変化しました。

A toddler is held by their mother who is sat in front of a big blue WFP sign
ダマスカスの東にあるハラスタの食料配給拠点。シリアの栄養不良の子どもの割合は4.8%です。 Photo: WFP/Hussam al Saleh

全国で910万人が食料不足に瀕し、シリアの経済は崩壊しています。国連WFPは資金不足のため2024年の支援を80%近く削減せざるを得ず、現在、わずか150万人にしか毎月の支援を届けられていません。

ユニセフの調査によると、2019年の栄養不良の子どもの割合は1.7%でした。現在、これは3倍近くの4.8%に達しています。2023年までにシリアの14県のうち3分の1近くで、子どもの栄養不良の割合が、世界保健機関(WHO)の設定する緊急事態の基準である5%を超えていると報告されています。

沿岸地域では、その割合は国際緊急基準の3倍となる14%に上っており、昨年12月の政権崩壊後、事態がさらに深刻化していることが示されています。

A couple arrives on a motorbike at a building where a WFP distribution banner hangs
アレッポの食料配給拠点:シリアでは910万人が食料不足に直面しています。 Photo: WFP/Marwa Bana

この広がる栄養不足の影響は子どもの時だけにとどまりません。母親の慢性的な栄養の不足は子どもが生まれる前から長期的な影響をもたらします。母親の栄養不足により、胎内の子どもの栄養が欠乏し、生まれた直後から健康上の問題を抱えることになります。

シリアでは、栄養不足の妊産婦の割合が急速に高まり、平均で7%、一部の地域では19%に上っており、母子の健康にとって深刻なリスクとなっています。

巧みに焦点を絞った戦略 

2023年、国連WFPは栄養不良の拡大と資金の低下により、シリアにおける食料支援のあり方を見直す必要に迫られました。全員を対象とするこれまでの支援は困難となり、対象を絞って栄養を重視する戦略が必要となりました。その結果、Anmu(「わたしは育つ」の意)という対象を絞った支援の取り組みの構築に至りました。

Anmuは、栄養を第一とする手法で、深刻な栄養不良のリスクが最も高い家庭を対象とします。栄養不良が身体や認知機能の発達に最も重大な影響をもたらしうる、妊娠から子どもが2歳になるまでの最初の1,000日を守ることに主眼を置いています。

WFP Chief Cindy McCain is seat meeting a father and daughter, almost silhouetted, as an interpreter gestures
ダマスカスの農村地域で食料支援を受ける家族と面会する国連WFPのエグゼクティブ・ディレクター、シンディー・マケイン Photo: WFP/Hussam al Saleh

このプログラムでは、2歳未満の子どもと、中等度の栄養不良で治療を受けたことのある妊産婦のいる家庭を対象としています。対象家庭には栄養ニーズを満たすための食料または現金が支給されます。

「現段階においては、予防が主な目標です」とラバビディは説明します。「発育阻害や栄養不良など、栄養上の問題が見られる子どもや妊産婦のいる家庭に焦点を当てています。」対象となった家庭には、栄養不良が根付いてしまう前にこれを防ぐための追加の栄養も支給されます。

Backs of packed food ready to be distributed, a WFP staffer with her back to the camera, logo on her jacket
アレッポの児童養護施設に配給する準備が整った、温かい食事パック Photo: WFP/Marwa Bana

Anmuと並行して実施されている対象者を絞った戦略に、特定のコミュニティを対象とするプログラム、Mueel(「稼ぎ手」の意)があります。いずれのプログラムも、国連WFPが規模の縮小を余儀なくされた複雑な社会情勢に対応するために2024年から実施しており、科学的手法を活用して、リソースを分配し、各コミュニティにおける透明性と公平性を確保しています。

包括的な治療

この取り組みを成功させる中心となるのが、ユニセフや国連人口基金(UNFPA)といった他の国連機関との連携です。食料支援と健康、栄養プログラムを連携させ、目下のニーズや長期的なニーズに対応しています。中等度の栄養不良の子どもたちには国連WFPの診療所で栄養強化食品を提供し、重症の場合は、治療のためユニセフに紹介します。妊産婦は産前産後の包括的なケアを受けられるようUNFPAに紹介します。

「国連WFPはユニセフとUNFPAと同じ場所に開設しています」とラバビディは言います。「中等度の栄養不良の子どもたちは国連WFPで治療します。重症の場合はユニセフが引き継ぎます。このようにして、見落とされる子どもたちがないようにしています。」

このような手法で、治療の格差を排除し、必要な人に確実に支援が届くようにします。正確なデータに基づいて対象を絞った介入により、国連WFPの限られた資金を一銭も無駄にすることなく活用しています。

A baby looks into camera, held by her mother, as  nutritionist looks on wearing a facemask
ハマの農村地域の、国連WFPが支援する仮設診療所で、栄養不良の診察を受ける乳児Photo: WFP/Hussam Al Saleh

Anmuは、栄養に配慮したプログラムを国連WFPの広範な支援の枠組みに組み入れるグローバル戦略の一貫です。この革新的なアプローチにより、単なる食料支援から、栄養不良による長期的な影響を防ぐことに軸足をシフトします。栄養状態の改善を重視し、食料不足を特定してこれに対応していく重要な転換点です。

シリアの危機はいまだ終息から程遠く、AnmuやMueelといった取り組みが、最も弱い立場にある人々の希望となっています。国連WFPは、リソースの対象を慎重に定め、データに基づく戦略を活用することで、限られたリソースで最大の効果を生み出しています。前途は不透明ですが、それでもシリアの未来の世代には、丈夫に成長し、より健康な明日を築いていく希望が残されているのです。

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