ニジェール:出稼ぎに出る男性、気候変動と格闘する女性
ニジェール南部のサルキン・ハツィ村で、山積みになったキビの袋の上に座ったサア・ムーサさんは誇らしげに微笑んでいます。今日は出荷日です。女性だけの協同組合の倉庫で、彼女は収穫物を集荷するトラックの到着を心待ちにしています。
「前からこうだったわけではありません。ここまで私たちは長い道のりを歩んできました」と、ナイジェリア国境に接するマラディ地域で彼女が代表を務める、組合員数820名のハディン・カン・マタ農業協同組合の歩みを振り返りながら彼女は語ります。「長い間、私たちは予期せず変化する気候と格闘しなければなりませんでした」
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ここマラディでも、ニジェールの他の地域と同様、ムーサさんのような農家は、砂漠化と土壌劣化を加速させた気候変動の容赦ない影響に直面しています。高騰する価格と不安定な情勢に加え、このサヘル地帯の困難な生育環境により、多くの男性は職を求めて土地を離れ、残った女性たちが荒れた土地を耕しています。
「雨季の始まりが遅くなり、終わりが早くなることが多く、3か月の作物生産サイクルが乱れて収穫量が減っています」と国連WFPニジェール事務所のラマトゥ・ヒンサ農村開発担当官は言います。その結果、家庭での備蓄や市場で販売できる量が減ることになります。
今年も例外ではありません。専門家は、6月から8月の雨季または収穫期の間で最も食料が足りなくなる時期に降雨量が減少し、今後数か月でマラディ地域の約50万人、そしてニジェール全土で約320万人が深刻な食料不安に直面することになると予測しています。
ニジェールの隣国マリやブルキナファソをはじめ、セネガル、ギニアビサウ、ガーナ、コートジボワールなど、西アフリカと中央アフリカの多くの国では、雨が少ないか、または多すぎるという 憂慮すべき状況が予測されています。5,500万人がすでに食料確保に苦労しているこの地域では、不安定な天候が食料安全保障をさらに脅かす可能性があります。
国連WFPは、ニジェールやその他の地域で先を見据えて行動しています。国連WFPが支援する各種の取り組みにより、約30万ヘクタールの荒廃した土地が回復し、地域全体の何千もの村で400万人以上の人びとのレジリエンス高められました。国連WFPは、政府やその他の関係者と連携し、社会保障と包括的な食料システムに投資してきました。
これらのプログラムは、例えば、小規模農家への栄養支援などに加え、流域計画や土地の再生を学校給食に結び付けるなど、持続可能な環境保護の方法も提供しています。さらに国連WFPは、各国政府と協力し、小規模農家や遊牧民に対するさらなるセーフティーネットとして、国の災害リスク資金管理を強化しています。
国連WFPは、当面の飢餓の増加に対応するため、収穫直前に最も食料が足りなくなる時期に、西アフリカと中央アフリカの730万人に対する食料と栄養支援を強化しています。
「この地域の深刻な飢餓状況を見ると、最も弱い立場に置かれた家族が当面の食料ニーズを満たすだけでなく、より明るい未来を築くための変革的な解決策が緊急に必要であることが浮き彫りになっています」こう語るのは、クリス・ニコイ国連WFP西アフリカ地域局長です。
「最も支援を必要としている人びとへの緊急対応を優先的に継続する必要はあります」とニコイ局長は付け加えます。「しかし、食料安全保障を強化し、農業生産性を向上させ、適切なタイミングで人びとの購買力を高め、経済や気候のショックを和らげるためには、持続可能な解決策へのさらなる投資が必要です」
砂漠化
人口の大半が小規模農家であるニジェールでは、紛争に加え、気象パターンの変化が人びとの生活に大きな打撃を与えています。この乾燥した西アフリカの国では、砂漠化により毎年およそ10万ヘクタールの耕作地が失われています。
近年は雨季も大幅に短くなり、その結果収穫量も減少しています。飢餓測定ツール「カドル・アルモニゼ」によると、昨年だけでも穀物生産量は2022年比で14%減少しました。
「雨が降ると急いで種を蒔くのですが、干ばつに見舞われ、全てだめになってしまうのです」と、主食のキビとササゲを栽培する4児の母親である農家のムーサさんは言います。
最近まで、多くの小規模農家は厳しい状況と闘うための手段をほとんど持っていませんでした。肥料や干ばつに強い種子や農業資材の入手、市場や融資へのアクセスも限られていました。伝統的な稼ぎ手とみなされる多くの男性にとって、解決策はその地を去ることでした。
「この地の男性の多くはリビア経由でナイジェリアやヨーロッパに出稼ぎに行きます」とムーサさんは言います。「何年も戻ってこないか、二度と戻ってこないこともよくあります。そのため家族、特に妻や子どもたちが困難な立場に立たされることになります」
しかし、この状況は変わりつつあります。10年以上にわたり、国連WFPはニジェール政府や地元の関係者と協力し、マラディなどの地域で小規模生産や起業を促進し、多様化を進めてきました。
2022~23年の栽培シーズンだけでも、国連WFPは総合的な自立支援プログラムに参加している40の農業協同組合(主にニジェール南部のマラディ、タウア、ザンデール地域)の約1万人の農家から豆類や穀物を購入しました。協同組合のうち6つは女性農家のみによって運営されており、このプログラムはコミュニティの自立支援だけでなく、女性のエンパワーメントにも貢献しています。
「これは包括的なアプローチです」とヒンサ担当官は言います。「土地の開拓から小規模農家への技術支援や収穫後の各種ツールの提供、さらに農産物の市場開拓までカバーします」
例えばマラディでは、国連WFPはマラディ地域農業会議所のような地元組織と協力し、地元の生産者がよりよい組織化を進め、会計や収穫後の管理など、組織強化のために必要な技術や訓練を受けられるよう支援しています。
「私たちは、小規模農家の組織を正式な組織と認定し、彼らに市場や気候に関する情報を提供し、展示会や見本市を通じて認知度を高めることで、小規模農家を支援しています」と、マラディ地域農業会議所のゲロ・マガラ事務局長は話します。
その結果、農家は収穫量を増やし、市場へのアクセスも改善されました。これにより、農家は家庭の必需品や子どもの教育費に充てるための収入を得たり、事業に再投資することができるようになりました。
「研修や改良種子のおかげで、収穫量は3倍になりました。以前は1ヘクタールあたり187.5キロのキビが収穫できましたが、今では750キロから1,000キロのキビが収穫できるようになりました」とムーサ組合長は話します。
もう一度夢を
今年、国連WFPは、支援する全国学校給食プログラムやその他の活動に使用するために、ムーサさんのハディン・カン・マタ協同組合などから約3,000トンのキビと1,000トンのササゲを購入する予定です。
過去10年間、国連WFPはニジェール国内の小規模農家から穀物と豆類約2万7,000トンを購入するために1,200万米ドルを投資してきました。これは小規模農家から購入するというニジェール政府の国家戦略に沿った対応です。購入した食料は多くの場合、同国の学校給食 に供給されます。
「この戦略は地元の食生活に合っているだけでなく、費用対効果も高いものです」とマラディ地域の学校給食 の地域コーディネーター、サロウ・アブドゥ氏は言います。「家庭での食事と学校給食のギャップを埋め、物流コストを削減します」
サルキン・ハツィ村のエルハジ・ウマルー村長は、他にもメリットがあると考えています。地元での食料生産と調達を支援するこの農業の取り組みは、かつて苦境に立たされていたコミュニティを活性化させ、生活と地元経済を強化しています。輸送や保管の手間を減らすことで、汚染を減らし、食料を新鮮に保つことにも役立っています。
「未知の供給源に頼るのではなく、私たち自身が生産した産物が学校で子供たちに栄養を与えていることを、私たちは大変誇りに思っています」とウマルー村長は言います。「私たちの家族を支え、私たちに満足感を与えてくれるのは、この地元産の食料なのです」
また、ある政府調査によると、こうした自立支援の取り組みに参加した人たちは、数年間で平均750米ドル相当の収入を得ています。これは、自給自足農業を営む人が多い国としては、将来に希望を持てる傾向です。マラディの男性は今後何年も故郷に戻れないかもしれませんが、女性たちはたくましく生活していくことでしょう。
「国連WFPの支援のおかげで、私たちの農業生産は向上しました」と、政府に食品を販売する契約も結んでいる協同組合のムーサさんは言います。「販売収入があれば、私たちの家族は食べ物を得られるだけでなく、何よりも人生を楽しみ、再び夢を見ることができるのです」
ニジェールの小規模農家やその他の弱い立場に置かれたコミュニティを支援する国連WFPの取り組みは、オーストラリア、カナダ、欧州連合、ドイツ、日本、ルクセンブルク、ノルウェー、米国、そして国際非営利団体「Education Cannot Wait」の多大な支援のおかげで実現しました。