カンボジアの農民に水、魚、そして希望をもたらす運河
「農作物が雨水に依存していたときは、天気の神様と契約しているようなものでした。ベストを尽くしても、神様が適切なタイミングで水を恵んでくれなければ、作物がだめになります。しかし運河の場合は違います。運河は確実に水を供給してくれます。あとは私たちの努力次第です」。
稲作農家のドゥア・ソックさんの言葉を借りれば、これは、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)の支援するプロジェクトの一環として2022年に建設された運河が、カンボジア中部のコンポントム県のサンブール地区にもたらした違いです。
見渡す限りの田んぼを夕日が黄金色、銀色、ピンク色に染める季節。ドゥア・ソックさんは運河のほとりに立ち、1ヘクタールあまりの区画を愛おしそうに眺めます。
「こんなに緑が多いのを見ると本当にうれしいです。私は植物を自分の子供のように世話をしています。この初期の段階では植物は非常に枯れやすいものです」と彼は言います。
水が足りないときに植物が枯れたり、水が多すぎるときに流されたりするのをあまりにも頻繁に見てたドゥア・ソックさんは、「胸が張り裂けそうになります」と言います。
日本政府の資金提供を受けた長さ2.3 kmの運河は、143ヘクタールの水田の灌漑を可能にし、128世帯に利益をもたらしています。
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地元当局者のトゥーン・チェンさんは、ここ数年の気象パターンの変化は、予測不能な干ばつと洪水を引き起こし、雨季または降雨依存型稲作に依存している農民に災難をもたらした、と説明します。
運河から水を汲み上げることができるようになったことで、不安定な気象現象への依存がなくなりました。その結果、収穫量は2倍以上になりました。「これまでの2年間、干ばつはありましたが、私たちは何とか水を手に入れることができました。以前のように作物がだめになることはありませんでした。これは私たちにとって大きな前進です」と彼は言います。
ドゥア・ソックさんは今では季節に関係なく年に2回の稲作をすることができます。「今では十分に食べることができ、お米を買う必要もありません」と彼は言います。彼の妻のファット・ノーさんは、運河ができる前の困難な時期を振り返ります。「私たちが農業をするために借りたお金は、返済できない額になりました。私の2人の息子と私の夫は、生活費を稼ぐために、プノンペンに行って建設の仕事をしなければなりませんでした。」
今ではその必要もなくなりました。
二人は田んぼから少し離れた小さな木造の家に住んでいます。暴風雨で亜鉛製の屋根が吹き飛ばされたため、怖くて二階で寝ることができず、階下の土間で生活をします。「今の天候は以前とは違います。雨、風、雷はまるで天気の神が怒っているようです」とファット・ノーさんは言います。
さらに大きな影響
カンボジアでは農業がGDPの30%を占め、気候変動が農業の生産性に与える影響を最小限に抑えるための対策は、経済成長に直結します。
このため国連WFPは、4つの県にわたる16の地区で、国や地方自治体と協力して、気候変動に適応するための現地の能力を構築し、気候変動に強いインフラへの投資を支援しています。国連WFPは、地方公務員の気候関連問題に対する意識改革を促進し、農民への気候、天候、季節情報の流通の改善にも取り組んでいます。
「私たちは調整役を担いますが、どのインフラ・プロジェクトを実施するかは、政府が設けた協議プロセスを経て、コミュニティが選択するのです。」と語るのは、チャントゥン・メン国連WFPカンボジア事務所気候変動プロジェクト調整官です。
これらのプロジェクトは、地方自治体の複数年にわたる投資・開発計画に組み込まれ、すべてのレベルで承認を受けた後、現地の技術者が環境スクリーニングを含む実現可能性調査を実施します。
サンブール地区では灌漑と輸送という2つの重要な優先事項が特定されたため、運河の建設に際しては、土手を補強して道路として整備することも含まれました。
毎朝、夜明け時に土手を自転車で走りながら、ドゥア・ソックさんは自転車を止め、手慣れた動作で運河に網を投げます。獲れた魚を家に持ち帰った後、彼は田んぼの手入れをしに戻ってきます。この時期、彼の仕事のひとつは、ネズミが巣を作って土手を傷つけたり、芽吹いた苗をかじったりしないように、区画の境界の草を刈ることです。「私の家族の生活はこの田んぼにかかっているので、できるだけのことはやりたいのです。」と彼は話します。
日が暮れると、彼は再び網の点検に戻ってきます。「この地域は魚の名産地で、運河にはたくさんの種類の魚がいるんです」。私たちが話している間、ファット・ノーさんはイワシくらいのサイズの魚を手際よくさばき、骨を外しています。料理に風味を加えるマリネ液をこしらえています。「必要以上に獲れる日もあるので、余った分は近所の人に売っています。そのお金で調味料や日用品を購入します。」とドゥア・ソックさんは話します。
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夫妻は今でも、2人の成長した息子からの仕送りで燃料や肥料などを買っていますが、年に2回米を収穫し、運河で魚を獲ることができるようになったことが、彼らの生活を変えました。
「私はハードワークを恐れているのではなく、不確実性を恐れているのです」とドゥア・ソックさんは言います。「運河があれば、どれだけ働けばどれだけ生産できるかを予測できます。自分のハードワークには自信があります。一生懸命働けば、必ずより良い結果が得られるのです」。