知花くららさん、最貧国マラウイを訪問〜貧困と災害に負けない力を〜
国連WFP日本大使の知花くららさんが6月、アフリカ南東部のマラウイを訪問しました。
内陸国で農業が盛んなこの国には、アフリカで3番目に大きい湖であるマラウイ湖があり、「アフリカの温かいハート」という愛称と親しみやすい国民性で知られます。一方で、世界最貧国の一つであり、5歳未満の子どもの4割は慢性的に栄養不足。災害にも相次いで襲われるなど、問題が山積しています。
知花さんが「一番衝撃的だった」というのは、南部のバラカ県の畑を訪ねた時のことです。農家のファレスさんのキマメ畑は来月収穫を迎えますが、あまり実がついていませんでした。
「今年は例年の10分の1ぐらいしか豆が育ちませんでした。豆を売ってなんとか生活しているのに、今年はどうしたらいいかわかりません」
夫と娘を亡くし、孫など6人をひとりで育てているファレスさんは、力なく話しました。
この地域では、去年、洪水が発生。作物が流され、新たに作物を植えると、追い打ちをかけるようにひどい干ばつが起きました。そして今年も大干ばつが続き、雨水に頼って農業を営んでいるファレスさんにはなす術がなかったそうです。この異常気象はエル・ニーニョ現象の影響と言われています。
「畑がからからでほとんど実がなっていないのを見て衝撃を受けました。エル・ニーニョ現象の影響をまざまざと見せつけられ、『静かな危機』が起きていると感じました。」と知花さん。調査では国民の4割が食糧難に陥っているという結果が出ており、国連WFPは緊急支援を行う予定です。
しかし、同じ県内のムパマシ村を訪れると、青々とした野菜が元気に育っていました。なぜこのような差が生まれたのでしょうか。実は、この村の住民は共同で近くの川から水を引くかんがい工事を行い、雨水だけに頼らない農業を実現したのです。
また、国際協力機構(JICA)の研修で保水能力の高い堆肥作りを学んだ人が村人にその技術を伝え、さらに魚の養殖池も掘りました。工事期間中は、国連WFPがトウモロコシや豆などを提供し、生活を支えました。
「前は高くて買えなかった魚や野菜ですが、今は自分で育てているのですぐに手に入ります。栄養がとれて健康になり、余った分は売って貯金しています。私たちの誇りです」と村人たち。知花さんは、「収入を得られるということが自信につながるのですね。広がって、お母さんたちの笑顔が増えていってほしいです」と感心していました。
同県のムベラ診療所では、生後11ヶ月のシェドリック君に出会いました。大きな目がかわいい赤ちゃんですが、元気がありません。
体重を量ると、わずか6.5キロと、前月より1キロも減っています。「干ばつで食べ物が足りず、2週間前にはマラリアにもかかってしまったんです」と、母親のジェシーさん。
シェドリック君は重度の栄養不良と診断され、治療を受けるとともに、国連WFPから2週間ごとに栄養強化食品を受け取り、栄養改善をはかることとなりました。
「これで体重も増えるでしょう。希望を持っています」とジェシーさんは力強く話しました。知花さんは、「今、栄養不良だとわかってよかったですよね。目の当たりにしてショックでしたけど、子どもの成長を見守る場があることがお母さんたちの心の支えになるのですね」と語りました。
中部のサリマ県では、カピラ小学校で国連WFPの支援による地産地消の給食を見学しました。
この日の給食は、青菜・玉ねぎのトマト煮込み、ごはん、ゆで卵、バナナと栄養満点でした。「お野菜もタンパク質もとれておいしそう!」と知花さん。
国連WFPは地元の農業組合に農業支援を行い、質の高い食材を生産できるよう手助けをします。同時に学校には資金を提供し、学校はその資金を用いて農業組合から食材を購入するという仕組みです。子どもたちには地元の野菜や果物などを使って充実した給食が提供でき、農家にとっては安定した収入が得られるという相乗効果があります。
6年生のアニアさんは18歳。16歳で妊娠し、いったんは退学しましたが、給食があり、きちんと出席すると追加の支援として毎月国連WFPから10キロのトウモロコシも支給されるため、出産後、復学することができました。「勉強を続けて先生になりたいです」と夢を語ってくれました。
視察を振り返り、知花さんは「災害などがあっても早く復興できるようかんがい設備など基盤を整える支援も根付いていくといいなと思いました。一方で、干ばつ被害は本当に深刻で、知ることの大切さを感じました。自分が立っている場所から、少し手を伸ばしてできることを、小さいことでも、続けていくことが大切ですね。」と語りました。