急速に深刻化する飢餓と物価高 スーダン周辺国の難民危機に対する取り組み
チャド国境の町アドレの難民キャンプでは、祖国スーダンのポピュラーな民族音楽がスピーカーから繰り返し流れる中、アフマットさんが足踏みミシンに青い布を送り込んでいます。小さな木が、灼熱の太陽をかろうじて遮っています。
「このキャンプで私にできるのは仕立ての仕事だけです」曲に合わせて頭を揺らしながらこう話すのは35歳の縫製職人、アフマットさん(安全上の理由から名字は非公開)です。「持ち込まれた布をスーダンの民族衣装や、シャツ、ズボンに仕立てます」
アフマットさんが祖国を揺るがす紛争から逃れてチャドに避難したのは、この20年で2度目です。スーダンに平和が戻ることを願いつつも、当分は難しいのではないかとアフマットさんは考えています。
「私の子どもたちが学校に通えるよう、安定した国に住む必要があります」とアフマットさんは話します。
スーダン危機が長引く中、その影響は近隣諸国にも及んでいます。戦争により国外で暮らすことを余儀なくされた200万人を超えるスーダン避難民の半数以上が、チャドと南スーダンに住んでいますが、これらの国でも既に飢餓が深刻化しています。
この地域は8月まで雨季が続きます。道路がぬかるみ、人道支援物資の輸送が困難になるなど、食料不安のリスクが高まっています。
国連WFPは、拡大する食料不安に対応する中、非常に大きな課題に直面しています。例えばチャドでは、難民を含む200万人以上の人びとに、雨季の緊急支援を提供することを目指しています。しかし、資金が逼迫しており、特に南スーダンでは、最も深刻な飢餓の状態にある人への対応で精一杯の状況です。
国連WFPのチャド事務所代表のエンリコ・ポーシリは「リソースが限られている中、チャドで危機的状況にあるコミュニティー内で緊張が高まらないよう安定を維持するためには、適切な支援を遅滞なく広く届けることが非常に重要です。気候変動の打撃、安全保障、経済危機の影響が複合的に絡み合う中で、増大する人道ニーズを将来的に縮小していくためには、レジリエンスへの大規模な投資も必要です」と言います。
より大きな危機への食料支援
南スーダンではすでに約700万人が急性食料不安かそれ以上の深刻な飢餓の段階に直面しており、このうち70万人近くがスーダンから逃れてきた戦争避難民です。スーダンの東ダルフール州から避難してきたザハラさん一家のように、今も毎週何千人もの人が、飢えとトラウマを抱え、国境を越えて流入しています。
「3度目の空爆の後、避難しようと決めました」4児の母ザハラさんは、1歳2カ月の娘、ムーナちゃんを腕の中であやしながら言います。「国境にたどり着くまで2日かかりました。容器に入れた水と、子どもたちのためのビスケットを持って出ましたが、ようやく到着した時、子どもたちは本当にお腹をすかせていました」
それは幼いムーナちゃんにとって過酷な道のりでした。南スーダンの北西部にあるウェドウェイル難民居住地に着くと、ザハラさんはムーナちゃんを保健所に連れて行きました。そこでムーナちゃんは栄養不良と診断されました。
その後、国連WFPの栄養強化食品により体重が増え、再び遊べるようになりました。しかし、人があふれかえる難民キャンプでは、今後大雨となり、水系感染症が拡大する恐れがあります。
問題はそれだけではありません。スーダンでの戦闘で、南スーダンにとって非常に重要な石油の輸出が中断し、経済を大きく悪化させています。南スーダンポンドが60%急落し、食料や燃料の価格は高騰しています。国連WFPの予測によると、同国の経済危機により、主食の入手が困難になり、さらに50万人の人びとが中程度から重度の飢餓に追い込まれる可能性があります。
「経済危機が起きる前は、子どもたちは1日2回食事ができていましたが、今は無理な状況です」首都ジュバでは、この町出身のメアリー・イケさんが、何か口にできるものを市場で買いながら、こう言います。「子どもたちは朝起きてから夜まで何も食べるものがありません。状況は悪くなるばかりです。子どもが6人いるので、食べさせるのも大変です」
2023年4月にスーダンの紛争が勃発して以来、国連WFPの南スーダン事務所はこれまでに国境を越えた戦争避難民55万7000人近くに支援を行い、現在も流入する人々の支援を続けています。しかし、多くの状況が重なっており、食料不安が最悪の状態に陥る危険性があります。
「南スーダンではすでに人道危機が長期化しており、状況は急速に悪化しています」国連WFPの南スーダン事務所代表のメアリー=エレン・マクグローティーは言います。「私たちが恐れているのは、スーダンの戦争による壊滅的な影響が続き、すでに急性食料不安の状態にある地域にさらに洪水の危機が迫り、飢餓と栄養不良がかつてない水準となることです」
さらに続けて、「深刻な飢餓と栄養不良の波を食い止めるためには、スーダンの停戦と南スーダンの社会的セーフティーネットの強化が必要です」と話しました。
難民が急増
チャドでも食料不安の危機が高まり、雨季が迫る中、事態はさらに悪化すると見られます。この時期、推定340万人のチャド人や難民が深刻な食料不安に直面すると予想され、気候変動の打撃、食料や燃料費の高騰、そして難民危機によって飢餓が深刻化しています。
この14カ月間に、およそ60万人のスーダン難民がこの乾燥したサヘル地域の国に流入し、既にアフリカで最も多くの難民を受け入れている国の一つであるチャドでは、亡命希望者の数が倍増しています。そのほとんどは、難民によって形成されたチャド東部の39カ所の難民キャンプに住んでいます。縫製職人のアフマットさんのように、多くの人が飢えとトラウマの重荷を背負っています。
「スーダンでは非常に長い間、戦闘状態が続いています。2023年に勃発した戦闘は特に激しいものでした」と話すアフマットさんは、スーダンの西ダルフールの州都エル・ジェニーナ出身です。20年前、最初のダルフール紛争が勃発した時も、アフマットさんは10代でチャドに避難しました。
その後祖国に戻り、エル・ジェニーナで名を知られる仕立屋となりました。電動ミシンを数台、自家用車、そしてバイクを2台所有していました。ですが、攻撃ですべてを奪われ、工房も家も焼き払われました。
「ほとんどの人が家で襲われ、家財を盗まれました」とアフマットさんはエル・ジェニーナでともに暮らした人びとについて語ります。「チャドに向かう途中で多くの人が殺されました。道は多くの死体で覆い尽くされていました」
アフマットさんをはじめ、チャドに住む難民にとって人道支援は頼みの綱です。国連WFPなどの調査によると、多くの難民、そして受け入れ地域の住民が、食料消費レベルが低い、またはボーダーラインの水準にあります。子どもたちの半数近くが貧血に苦しんでいます。
「ここでの生活は楽ではありません」とアフマットさんは言います。
自分の子どもたち、そしてアフマットさんが仕事場にしている屋外の作業場の周りで遊んでいる子どもたちの将来を心配しています。
「私たちはアッラーの救いを待ち望んでいます」とアフマットさん。「いつか私たちの生活が改善する日が来ることを願います」
チャドと南スーダンにおける国連WFPの対応は、カナダ、欧州連合(EU)、ドイツ、日本、スウェーデン、スイス、UKAid、アラブ首長国連邦、国連中央緊急対応基金(UN CERF)、米国からの寛大な寄付によって支えられています。
南スーダンにおけるスーダン危機に対する国連WFPの対応は、カナダ、欧州委員会人道援助・市民保護総局(ECHO)、フランス、ドイツ(GFO)、日本、ニュージーランド、ノルウェー、民間の支援者、スペイン、スウェーデン、スイス、UN CERF、アラブ首長国連邦、英国、米国からの寛大な寄付によって支えられています。