【日本人職員に聞く】「子どもはどの社会にとっても未来の希望」-前編
【前編】 「ラオスの学校給食支援、卒業を目指していた矢先のコロナウイルスとのたたかい」
インドシナ半島の内陸国ラオス。メコン川が南北に流れ、山岳地帯や高原が国土の約70%を占め、人口の7割以上が米の栽培などで生計を立て、子どもの33%が発育阻害に苦しむアジアで最も貧しい国のひとつです。
同国で学校給食支援を担当する唐須史嗣さんに話を聞きました。
ラオスの国連WFP学校給食支援の歴史
2002年、国連WFPはラオスでの学校給食支援を開始しました。当時は昼食ではなく、午前中の休み時間にトウモロコシと大豆で作られた栄養価の高い甘いお粥をおやつとして提供していました。その後学校給食支援は次第に拡大され、2016年時点では国連WFP(約1440校)、Catholic Relief ServicesというNGO(約350校)、ラオス政府教育スポーツ省(308校)、合わせて約2100校で給食支援が導入されていました。ラオス全国には8500校余りの公立の小学校があるので、この約四分の一の学校を支援する事ができていたという事です。
同時に2016年度から、プログラムの内容もお粥のおやつから昼食へと移行しました。政府も学校給食支援の方針を2014年に導入し、中・長期的な計画も少しずつ策定されました。
給食メニューは米、豆、食用油と魚缶
国連WFPからの給食事業では現在米、豆、食用油と魚缶を提供しています(*魚缶は日本政府からの寄付です)。お米はもちろんラオスでの主食であり、豆と魚缶に関しては通常不足しているタンパク質を補う為に含まれています。食用油はビタミンAとDで強化されており、ラオスの田舎の村では容易に購入できる品物ではありません。
国連WFPの提供する食材以外に地元で採れた食材も生徒の親等コミュニティーによって提供され、それによって地域、民族、季節等によりメニューも大幅に異なります。WFPは地元の文化や習慣を尊重しつつ、栄養価の高い作物の紹介、給食メニューの本の作成・配布等も行っています。2018年から2019年にかけては食材を直接学校へ提供するのではなく、農家の方々により栄養価の高い作物をより効率的に育て、収穫の一部を学校給食へ提供する仕組みも試験的に導入しました。農家の方々の養成の一方、プロジェクトは学校側へも現金を引き渡し、余剰収穫を学校がすぐに購入できるようにしました。学校給食の持続可能性を高める一方、地元経済の活性化にも繋がる仕組みとなりました。当初は40校での試験導入でしたが、現在は30地域にある148校まで広がっています。
国連WFPからの卒業を目指して
国連WFPの支援内容の中に、子どもたちへの学校給食を国連WFPではなくその国の政府の手で行えるようにするというものがあります。国連WFPがいなくてもその国の政府の力で子どもたちに給食を提供してもらうようにするのです。ラオスでは2018年から政府教育スポーツ省との対談の下、学校給食支援の段階的な政府への引き渡しを決断しました。その結果、2019年の7月にそれまで支援していた1440校の内、515校での給食支援を教育スポーツ省へ引き渡しました。2019年度は政府が初めて予算を給食へ割り当てた年となりました。引き渡しにつき政府側からの意思は強かったものの、2019年の時点で既に政府全体及び教育スポーツ省の経済状況が芳しくなく、2021年に計画していた残りの940校の引き渡しが順調に進むか懸念されていました。その矢先、2020年に新型コロナウィルス感染症が世界中へ広まり始めました。
新型コロナウイルス影響下の学校の状況と対応
ラオスは幸運な事に、10月初めの時点でコロナウィルス感染症が確認された患者数は総合で23名に留まっています。検査の数が少ないのは事実でありながら、海外からの渡航者の規制、厳格な検疫・隔離への対策等の結果、現在の時点で大規模な感染はないものと思われます。ラオスの人口密度の低さ、公共交通機関の乏しさ、700万人の国に対して8000以上の小さな村が分散されている等環境も影響しているでしょう。公衆衛生への影響は他の国と比べると少ないものの、輸出入が多く、観光業界へ頼る国として社会経済的な影響は計り知れません。
学校及び学校給食への影響に関しては、ラオスにある全ての教育機関は3月17日から8週間程休校になり、5月1日から6月2日にかけて段階的に再開する事になりました。休校になった時点では再開の見通しがつかず、国連WFPとパートナ団体のCRSは政府との調整の下、学校に残っていた食材(主に米、豆と食用油)を生徒の家庭への持ち帰り食料として配給しました。
2019年に515校での給食プログラムを政府へ引き渡した後もまだ国連WFPはどの国連機関よりも幅広い活動を行っています。これを生かし、コロナ対策の為940校で食料の配給を行う際、国連WFPのスタッフは教育スポーツ省のスタッフと共に各学校でコロナウイルス感染を防ぐ為の行動を記したポスターの配布、及び研修・教育を行いました。結局、ラオスの教育機関は5月1日から6月2日にかけ段階的に再開し、通常5月に学期が終わる所、授業を7月まで伸ばし、休校になった期間を埋める事ができました。
ラオスの学校の新年度は9月から開始ですが、2020-2021年度は通常通り、9月1日に開始しました(2019-2020年度が遅く終わった為、夏休みは短縮となりました)。傍から見ると何もなかったかの様に普通に学校へ通学する生徒や教員が見える一方、教育スポーツ省、国連機関、NGO等は状況を注意深く観察しながら学校がこれから中断する事なく継続できるよう努めています。9月に学校が開校する前には国連WFPは2019年に給食事業を引き渡した515校を含め1440校へ手洗い用の石鹸を配布し、コロナウイルス感染予防のメッセージを機会がある際学校の教員や教育スポーツ省のスタッフへ伝えています。また、いつラオスでの感染の第2波が来る事を予想し、迅速に対応できるよう準備をしています。
学校の休校はどの国にいても生徒・親・教員への影響は計り知れない物だと思います。ですが、ラオスの様な発展途上国にいる子どもや家庭にとって、長期に渡る休校の影響は大きなものです。ラオスの村々にある学校・家庭の大半はリモート授業に対応したインフラは整っていません。インフラがあったとしても生徒の親の多くはこの様な就学体制に対応できないと思われます。学校の休校は個人、家族及び国全体に長期的にも影響をもたらすので、このような状況はできる限り防ぐよう教育スポーツ省や他のパートナとー共に努めています。
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