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【日本人職員に聞く】平和だったスーダンを襲った戦闘 食料支援で現地の人に「恩返し」したい

国連WFPスーダン国事務所 並木愛さん

スーダンでは2023年4月に政府軍と準軍事組織との戦闘が始まり、首都ハルツームなど多くの地域が爆撃や略奪などの被害を受けています。食料不足に苦しむ人も増え続けていますが、日本で報道されることは少なくなりました。国連WFPスーダン国事務所の並木愛さんは、一次的にハルツームから活動の拠点を変えざるを得ませんでしたが、6月から支援活動に復帰し、日本の人びとに「スーダンを忘れないで」と呼び掛けています。

武力衝突の勃発前、西ダルフール州ジェネイナで食料支援を受ける子どもたちと。
武力衝突の勃発前、西ダルフール州ジェネイナで食料支援を受ける子どもたちと。Photo: Ai Namiki
 心優しい人びとが暮らす国スーダン 多様な自然、食文化も豊か

スーダンは、日本の5倍もの面積を持つ広大な国。北部は砂漠ですが、青ナイル川・白ナイル川流域では農業も営まれています。食文化も多様で、砂漠地帯ではラクダの肉や、羊の『レバ刺し』を食べる習慣がある一方、両ナイル川の合流地にあるハルツームでは川魚も食卓に上り、魚好きの並木さんを喜ばせてくれるそう。

またスーダン人は「優しくて心があたたかく、世話好きな人が多いです」。ダルフール地方の一部などでは紛争が続いていたものの、その他の地域は比較的政情も安定していました。「戦闘を避け帰国した日本人の中に、幼い子どもや赤ちゃんもいたことをご記憶でしょうか。スーダンは海外から赴任する駐在員が、子どもの帯同を許されるほど平和な国だったのです」

国連WFPスーダン国事務所は職員1,300人と、世界各地にある事務所の中でも最大規模です。戦闘が始まる前は、チャドや南スーダンなど近隣国から来た難民と、ダルフール紛争などから逃れた国内避難民、そして難民を受け入れている現地コミュニティの住民ら、計1,000万人に、食料支援を実施していました。

一部地域では学校給食支援も行っており「給食のある学校を訪れると、子どもたちがキラキラした笑顔で迎えてくれたものです」と、並木さんは回想します。「ただ学校のある地域は戦闘が激化してしまったため、子どもたちも家族と避難して散り散りになってしまったかもしれません」

武力衝突の勃発前、西ダルフール州ジェネイナにて。食料支援を受ける子どもたちの輝く笑顔が印象的。 Photo: Ai Namiki
武力衝突の勃発前、西ダルフール州ジェネイナにて。食料支援を受ける子どもたちの輝く笑顔が印象的。Photo: Ai Namiki
 「青天の霹靂」だった戦闘開始 死も覚悟した

並木さんはジンバブエ国事務所、ルワンダ国事務所を経て2021年、スーダン国事務所に赴任。立場の弱い障害者や女性が安全に確実に食料にアクセスするための支援を担当しています。4月の戦闘開始は「なんの予兆もなく、青天の霹靂」だったといいます。

その日はラマダン中で、人びとは日暮れ後、宴会を開いてお祝いをする習慣がありました。並木さんも友人たちとナイル川沿いで夕食を共にする予定で「お魚料理を食べられるかな」と考えたりしていました。すると突然、上空を戦闘機が通過し、窓枠ががたがたと音を立てるほどの爆撃音が響きました。空爆とみられる爆発が起きて家の周囲は黒い煙で覆われ、瞬く間に地上からも大砲や銃による応戦が始まり首都の空港も攻撃により閉鎖されました。

それから1週間、並木さんは一歩も屋外に出られませんでした。40度を超える猛暑の中、電気や水は止まり、ネット環境も不安定で、メッセージなどの送受信もままならない状態に。また兵士による民家の略奪や市民への暴行も近所で報告されるようになりました。「すごく怖かった。生まれて初めて、死ぬかもしれないと思いました」

同じ建物に、同僚のアイルランド人夫妻が住んでいたのがせめてもの救いで、3人で支え合いながら生活しました。食事は、日本から持参した缶詰やお米を食べてしのぎました。しかし帰国に至るまでの間には、食料が足りず夕食がソーセージ1本だった日も。生涯でほぼ初めての「飢え」の体験でした。「空腹のためにイライラして正常な判断力を失い、普段仲の良い同僚に声を荒らげてしまったこともあります。食事をきちんと食べられないことが、いかに精神を不安定に、また攻撃的にするかを痛感しました」

1週間後、人道支援機関のスタッフが集まって一次的にハルツームから活動の拠点を変えることになりました。集合場所に向かうため、同僚の車で通り抜けた市街地は、ゴーストタウンと化していました。屋外で襲撃され暴力を受けた、といった情報もあったため「この時が一番恐怖を感じた」と振り返ります。

 

首都の事務所、支援物資も略奪された
武力衝突の勃発前、首都ハルツームの国連WFPスーダン国事務所前で同僚の職員たちと。Photo: Ai Namiki
武力衝突の勃発前、首都ハルツームの国連WFPスーダン国事務所前で同僚の職員たちと。Photo: Ai Namiki

政府軍と準軍事組織との戦闘で、73万人以上がチャドや南スーダンなどの近隣国へ逃れ、240万人が国内避難を強いられています(2023年7月13日時点)。スーダンに来ていた難民も、多くが自活のあてもないまま母国への帰還を強いられたり、第三国へ逃れたりしました。「エジプト行きのバスの運賃は高騰している上、銀行が閉鎖されるなどして、現金を引き出すのも難しくなっています。このためかなりの数の人びとが戦闘地域にとどまり、食べ物や生活必需品が足りず苦しんでいます」

ハルツームの国連WFP事務所は自動車やパソコンを奪われ、栄養強化食品の製造工場や食料倉庫も略奪に遭いました。このため一時は支援活動を中断せざるを得ませんでしたが、5月3日、拠点をポート・スーダンへ移して再開。ハルツームやダルフール地方などで、140万人以上に緊急食料支援と、母子への栄養支援を実施してきました。

しかし支援物資を狙った襲撃や治安の悪化で、活動は困難を極めています。戦闘開始以来、スーダン国内にあった総在庫の3分の1に当たる、4万トンもの食料が略奪されてしまいました。「狙われないよう輸送車両から国連WFPのロゴを消していますが、それでも車両への襲撃を受けたり、時には飛行機やヘリコプターすら奪われたりすることもあります」

また通常なら6月から、スーダンの主食であるソルガムの作付けが始まります。しかし現金不足で種や肥料を買えない農家も多く、9月の収穫量に影響が出る恐れもあります。「ウクライナの戦争で以前から高騰していた食料価格が収穫の減少でさらに上がり、食料にアクセスできない人の割合が増えてしまうのではないか、と心配しています」

 

犠牲になるのは貧しい若者 悪循環を断ち切る

国連WFPは、スーダンで飢餓に直面する人が戦闘前の1,500万人から1,900万人に増え、国民の40%を超えると懸念しています。今後数か月で支援する人数を590万人に増やす計画ですが「資金は圧倒的に足りません」と並木さん。「スーダンだけでなく、チャドなど近隣国に逃れたスーダン難民への支援も、資金不足のため中断される恐れがあります」

人びとが自力で食料を買うお金を稼ごうとしても、戦闘地域や避難先に仕事はほとんどありません。そして政府軍と準軍事組織は、従来から貧しさと飢えにつけこむように「生活手当を支給する」と兵士を勧誘してきました。国連WFPの支援地域では、特に貧しいある家庭の兄弟が、政府軍と準軍事組織に分かれて参加する、といったことも起きていました。「兄弟はたまたま空きがある組織に入って、家計を助けようとしただけ。戦闘に参加し犠牲になる兵士の多くは、彼らのように貧しくて家族思いの若者たちなのです」。紛争で家を追われた人びとが、食べるために戦闘員になる―そんな悪循環を断ち切るためにも、食料支援を絶やしてはならないのです。

 

生まれた国は選べない スーダンに関心持ち続けて

並木さんは一時的にケニアの首都ナイロビにあるスーダンの後方支援チームの一員として、立場の弱い障害者や女性が安全に確実に食料にアクセスするための仕事に当たっています。状況が整ったらすぐにでもスーダンに戻る覚悟をしてくださいと上司から言われたとき、「正直に言えば、再入国には少し怖い気持ちもありました。しかし国連WFPの支援は、今やスーダンの人たちの命綱です。ですから現場に戻れると分かった時は、恐怖よりも命を救う仕事に加われることへの感謝の方が大きかったです」

並木さんは、スーダンに赴任してから戦闘が始まるまでの1年半あまりで「人びとの心のあたたかさに触れ、目には見えない多くのものをもらった」と話します。壁もないような家で暮らしているのに、並木さんを見るたびに腕を抱え込むようにして家に連れていき、毎週ご飯を食べさせてくれていた一家もありました。「現地の人たちに恩返ししたいと思っていた矢先、お別れも言えないまま帰国して、スーダンに心を置き去りにしてきたような感覚でした。だからこそ、スーダンの人びとが一刻も早く元の生活に戻れるよう、お手伝いをしたいと思っています」

スーダンの状況は日々深刻化し、食料支援のニーズも高まっています。しかし並木さんは、日本でスーダンに関する報道が減りつつあることに心を痛めています。「人は生まれた国を選べず、私たちが豊かな日本に生まれたのは偶然にすぎません。別の偶然が作用し、日本の誰かとスーダンの誰かが入れ替わって生まれた可能性だってある。そう考えてスーダンを忘れず、ご関心とご支援を寄せ続けてほしいと願っています」

武力衝突の勃発前、スーダンで食料支援を受ける受益者たちと。Photo: Ai Namiki
武力衝突の勃発前、スーダンで食料支援を受ける受益者たちと。Photo: Ai Namiki

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