ガザの飢餓:飢きんは世界の「汚点」国連WFPパレスチナ事務所代表が指摘
飢えに泣き叫び、栄養不良で亡くなっていく子どもたち。銃撃に遭う危険を冒しても物資を運ぶ輸送隊のトラックに駆け寄る人びと、家畜の飼料や木の葉や草で作ったスープで生き延びる人びと。人道的大惨事をさらに悪化させる恐れのあるレベルの絶望と食料不足。
これらは、3月18日(月)に発表された恐ろしい飢餓の数の裏にある現実です。ガザ北部の県で数週間以内に30万人が飢きんに直面すると見られています。国連世界食糧計画(国連WFP)パレスチナ事務所の臨時代表であるマシュー・ホリングワースは、紛争で荒廃したガザ地区を訪問中にこのような絶望的な状況を目の当たりにしてきました。
「飢きんは現実なのです」とホリングワースは言います。総合的食料安全保障レベル分類(IPC)と呼ばれる専門家による急性食料不安の分析によると、ガザ地区で110万人が壊滅的飢餓に見舞われており、この数はわずか3ヶ月で倍増しています。
ホリングワースはさらに言います。「総数で見れば、世界のどこよりも高い飢餓レベルです。すべて人為的なものなのです。国連WFPや他の人道支援団体が飢餓に苦しむ人に支援を届けることができないために、この短期間でここまで悪化したことは衝撃的です。これを防げなかったことは、世界の「汚点」です」
壊滅的飢餓に直面している人のほぼ4分の3は人道的アクセスが厳しく制限されているガザ地区北部にいます。IPCの調査結果では、今から5月までの間に飢きんが発生すると予測されています。
しかし、飢きんに似た状況は他の場所にも存在し、停戦、そして迅速かつ大量の人道支援が入らなければ、急速に拡大する危険性があるとホリングワースは述べています。
必要なのは停戦
「多くの人にとっては、もう手遅れです」とホリングワースは言います。「母親がお腹をすかせた子供を泣き止ませようとしたり、人びとが動物の飼料を食べるしかなくなったり、栄養不良に関連した病気で子どもが死んだという報告を受けたりした時にはもう手遅れなのです」
状況の転換の可能性はまだ残されていると彼や他の人道支援者たちは言います。停戦が実現し、人道支援スタッフと物資が自由に行き来できるようになり、ガザ地区の人びとが安全に支援にアクセスできるようになれば、国連WFPは1カ月に100万人以上の空腹に苦しむ人に十分な食料を供給するために、急速に支援規模を拡大することができます。
「これ以上の苦しみが起こらないようにするにはまだ遅くはありません」とホリングワースは言います。「停戦は絶対条件です。停戦がなければ、戦闘による直接的な影響だけでなく、人びとは心身ともに限界に達し、より多くの人が命を落とすでしょう」
昨年11月の短い戦闘休止期間だけでも、国連WFPとパートナー団体は、食料配給拠点を二倍に増やし、戦闘中の平均的な一週間よりも四倍の支援物資を届けることができました。
「IPCの結果が凄まじく、衝撃的な数字であることを全世界が理解する必要があります」とホリングワースは話します。「紛争当事者と国際社会は、壊滅的な飢餓の最悪事態を回避することは可能であると理解する必要があり、そのためには私たち人道支援組織の活動を可能にする義務があります。」
停戦への期待の一方で、現在ガザ地区に入れるのはうまくいっても一日200台です。同地区では少なくともトラック300台分の人道支援物資が必要とされています。ラファとケレム・シャロームという2つの検問所が開かれていますが、そこにも長蛇の列ができています。空中投下、そして今回の初の海上輸送によって、命を救うための食料を届けましたが、現地の飢餓の状況はそれらの方法では対処できません。
17日(日)、国連WFPのトラック18台からなる輸送隊が、約270トンの小麦粉と缶詰をガザ市に届けました。この輸送の成功は前進ですが、住民のニーズを満たすにはほど遠い状況です。実際、これではせいぜい数日分の食料にしかなりません。
「もどかしいです。私たちが必要としているのは大量の支援を届けることであって、小出しにする必要はありません」とホリングワースは言います。「しかしこのような状況では、支援を届けるためにはどのような方法も歓迎しています。支援に対する需要が非常に大きいため、大規模かつ滞りなく支援を行う許可が必要です」
ホリングワースは、このたびガザ南部の都市ラファで語っています。ガザにいる国連WFPの現地スタッフと部屋を共有し、粗末な設備を利用しています。彼らは、他の住民と同じく、家や親戚、友人を失っています。
「彼らは、地域によっては身動きがとれなくなっている可能性のある子どもたちや両親、近隣の人のことを心配しています」とホリングワースは言います。「そんな中、毎日彼らは人道支援活動で他の住民を助けています。並大抵のことではありません」
より大きな二次的影響のリスク
ウクライナ、南スーダン、シリアなど、多くの緊急飢餓事態に関わってきたホリングワースは苦しみをよく知っています。ガザでは全ての地域で、何十万人もが雨と寒さ、爆弾の中で冬を耐え忍び、粗末なテントキャンプに密集しています。
「こんな小さな場所に人びとは閉じ込められています」ホリングワースは付け加えます。「世界は対応してくれていない、世界はガザを気にかけてくれないと感じているのです」
国連は、イスラエル軍がラファに地上侵攻し、避難民に再び避難を強いたり、さらなる危険にさらすことになれば、ガザの人道危機はさらに悪化する危険があると警告しています。
また地上侵攻が現実になれば、より多くの人が飢きんに直面することになるとホリングワースは言います。「今でも全く十分ではありませんが、現在ある搬入経路を通じて食料やその他の支援を届ける私たちの能力は打ち砕かれることになるでしょう」
ホリングワースは、多くの人が過去数十年で最悪の人道危機と呼ぶ事態の中で、それでも勇気と強さを見出すガザ地区の人びとを見てきました。しかし、絶望は増加の一途をたどっています。この数週間、ガザ地区の人びとが食料やその他の支援を求めて暴力のリスクを冒すケースが増えています。無法状態はますます拡大しています。
悲惨な状況において「希望を持つことくらいしかできることはないですが、今ガザではその希望さえ失われ始めています」とホリングワースは言います。「希望の喪失は、人びとの心をくじき、あきらめさせ、死に至らしめかねません。そして、もう失うものは何もないと人びとに思わせてしまうのです」
近隣のヨルダン川西岸地区もガザでの戦闘の影響を受け、怒り、暴力、飢餓が増加しています。ホリングワースは、シリア、アフガニスタン、スーダン、ソマリアなど、同様の有害な要素がが周りの地域の不安定化に拍車をかけた過去の危機を指摘します。
「罪のない多くの人びとが苦しんでいるのを目の当たりにしたとき、私たちは道徳的に何かをしなければなりません」と彼は言います。「彼らのために声をあげることで、誰かがその声を聞き、行動を起こしてくれることを信じなければなりません」