ハンガー・パンデミック : 食料安全保障報告書が国連WFPの最悪の懸念を裏付ける
新たに発表された「世界の食料安全保障と栄養の現状」では、新型コロナウイルスが世界の食料不安と栄養不良に与えた影響があらわにされており、2020年にはさらに1億6,100万人が飢餓に陥ったとみられています。また、データ収集は、ソーシャルディスタンスを保つルールにより、これまでになく困難なものになりました。
この度発行された最新版「世界の食料安全保障と栄養の現状2021」(SOFI 2021) 報告書では、異常気象や、新型コロナウイルスのパンデミックによる経済の減退が深刻さを増し、昨年は最大で8億1,100万人が飢餓に陥ったと推定されています。
WFP国連世界食糧計画(国連WFP)事務局長のデイビッド・ビーズリーは、次のように述べています。「(この報告書は)、飢餓ゼロへの道が、紛争、気候、新型コロナウイルスによって寸断されているという壊滅的な現実を裏付けています。」「2020年の1年で、過去5年間の増加の合計よりも多くの人びとが慢性的な飢餓状態に陥り、世界の子どもたちの5人に1人は発育阻害で、将来の可能性が飢餓によって失われています。世界は、手遅れになる前に、この失われた世代を救うために行動しなければなりません。」
1億4,900万人以上の5歳未満の子どもたちが発育阻害(年齢に対し身長が低すぎる)、4,500万人以上が消耗症(身長に対し痩せすぎている)、3,900万人近くが過体重であると推定されています。
国連WFP学校給食部長のカルメン・バルバノは、次のように述べています。「世界の飢餓が急増する中、最も大きな代償を払っているのは子どもたちです。昨年は、新型コロナウイルスのパンデミックの間の休校で、3億7千万人の子どもたちが学校給食を食べる機会を失いました。現在でも、このうち1億5千万人の子どもたちが学校給食プログラムへのアクセスがないことがわかっています。」
パンデミック以前にも、世界のあらゆる地域で、30億人もの人びと、特に貧困層が、食料価格の高騰によって健康的な食生活を送ることができなくなっていました。
インフレに加え、新型コロナウイルスによる雇用の喪失や根強い所得格差が、食料不安と栄養不良を悪化させています。
国連WFPが活動している9カ国において、過去3ヵ月間に基本食料バスケットのコストが10%以上上昇したと、プレスリリースで発表されました。
国連WFPは、「新型コロナウイルスの流行がもたらした途方もない困難は、私たちの食料システムの脆弱性を明らかにしました。」と述べています。
国連WFPは、紛争、異常気象、パンデミックによる打撃を緩和し、弱い立場にある人びとが基本的なニーズを満たし続けられるように、小規模農家への訓練や保険制度の提供、学校給食プログラムの運営、社会保護制度への投資などを行っています。長期的には、これらが回復力(レジリエンス)を高め、食料システムへさらに連携されていきます。
以下は、国連WFPが拡大する飢餓と食料システムの崩壊に直面しながら、命を守り、生活を変えるために活動している3つの国の例です。
アフガニスタン
2020年3月にパンデミックが発生した際、インフォーマルセクターの(非公式な経済活動)商人たちは一夜にして収入源を失いました。国連WFPの現金支援は、彼らの家族に食料を提供するだけでなく、商売を再開して立ち直るためにも役立ちました。
国連WFPは、政府や商業パートナーと協力して、小規模農家を支援することにより、国中の人びとが栄養価の高い食料を求めやすい価格で入手できるようにするなどの取り組みを行いました。
ボリビア
ボリビアでは、脆弱な医療システム、栄養不足、過密で不衛生な生活環境などが、コロナウイルスの致死率を高める要因となっています。人口の約60%がバスの運転手や清掃員、露天商などのインフォーマルセクターに従事しており、その日の稼ぎを頼りに生活しています。
人びとは唯一の収入源を失い、回復に向けて奮闘しています。2020年3月、国連WFPは被害を受けた家族に電子キャッシュカードの配布を開始しました。最初に123米ドルが支給され、各グループのニーズに応じて、メッセージングアプリなどを使った栄養トレーニングの受講を条件に、定期的にチャージされました。
中央サヘル
中央サヘル(ブルキナファソ、マリ、ニジェール)は、紛争の激化、気候変動、食料価格の高騰などの問題を抱える地域で、国連WFPは、短期的な緊急ニーズに対応するとともに、コミュニティの回復力を高めるため、食料システムのさまざまな側面に取り組んでいます。
このプロジェクトでは、気候変動に対応した農業手法のトレーニングや、市場へのアクセスを改善することで、農家が生産的な資産を回復または創出することを支援しています。
また、国連WFPは女性グループや地元の農業関連企業と協力して、栄養強化された混合食品や主食を生産し、市場に出回る食品の栄養面での質を向上させています。
レソト
長年にわたる作物の不作、低所得、食料価格の高騰、新型コロナウイルスによる規制の影響などにより、食料安全保障の状況は悪化しています。しかし、国連WFPは農村部の小さなビジネスを復活させました。食料の配給に加えて、購入クラブを導入し、在庫のニーズをまとめることで小規模小売店の購買力を高め、政府の大規模製粉業者から主食用小麦粉を低価格で直接調達できるようになりました。
この報告書は、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)、国連世界食糧計画(国連WFP)が共同で発行しており、国連の持続可能な開発目標2「2030年までに飢餓をゼロに」達成に向けた進捗状況を測るための基準とされています。
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