パキスタン:フラットブレッドがもたらすウィン・ウィンの関係
タヒル・イクバルさんは、ワタン・アタ・チャキ社という小さな製粉所のオーナーで、地元のコミュニティのために小麦粉を生産しています。
マスク姿のタヒルさんは、イスラマバード郊外にある地下の作業場でうれしそうに微笑んでいます。ビタミンやミネラルを添加した栄養強化小麦粉を販売し始めてから、売り上げが大幅に伸びたからです。
タヒルさんは、この栄養強化小麦粉のおかげでビジネスが活性化し、同時にお客さんに栄養価の高い食品を提供できるようになったと誇らしげに語っています。
「今年初めに国連WFPのチャキ(現地語で小規模製粉所の意)プロジェクトに参加するまでは、小麦粉にビタミンやミネラルを加えることの大きな価値を知りませんでした」とタヒルさんは話します。
このプロジェクトは、全国栄養強化同盟と食料省の協力を得て実施されました。国連WFPは、製粉の過程で微量栄養素を添加するマイクロフィーダーを提供するとともに、栄養強化小麦粉の生産へ移行するためのトレーニングを行いました。
「最近では、この小麦粉で作ったチャパティ(パキスタンのフラットブレッド)を食べると、エネルギーが湧いてきて、満腹感が長続きすると言ってくれるお客さまもいます。また、お子さんがよく眠れるようになったとおっしゃるご両親もいらっしゃいます」とタヒルさんは話します。
パキスタンでは、女性と子どもの半数以上が、鉄、亜鉛、葉酸、ビタミンA、ビタミンDなどの必須微量栄養素の摂取が足りていません。小児期の栄養不足や微量栄養素の欠乏は、免疫力や成長、認知機能の発達に大きな影響を及ぼします。
国連WFPのチャキプロジェクトは、栄養不良と発育阻害(年齢の割に身長が低いこと)の撲滅を目的としており、多くの人々が小麦粉を購入する地元の小規模製粉所を対象としています。
タヒルさんを始めとする参加者は、特に妊娠中や授乳中の女性、子どもや青少年の栄養状態を良好に保つために不可欠な微量栄養素(鉄、亜鉛、葉酸、ビタミンB12)を添加する方法を学びました。
お客さんについて、タヒルさんは次のように語っています。
「高学歴の方が多いので、20kgあたり6PKR(0.04米ドル相当)のわずかな値上げに価値があることをすぐに理解してくれます。
栄養強化小麦粉が食生活に与えるプラスの影響がよく分からない人には、少し時間をかけて説得します。しかし、その利点を知ると、たいていの人は試してみることにし、結局はもっと買いに来てくれるのです」
タヒルさんの製粉所のすぐ近くには、地元の人たちがよく集まるクエッタアクバル・カフェ・ホテルがあります。タヒルさんから栄養強化小麦粉の価値を聞き、オーナーのアンワル・カーンさんも栄養強化小麦粉を使用するようになりました。
チャパティ1枚の価格は12PKRから15PKRになり、0.02米ドルの値上げとなりましたが、味や食感についてのお客さんの声はとても良いものでした。また、パンの柔らかさが長持ちするという声もありました。
アンワルさんは今年の5月からは、カフェの壁にポスターを貼り、栄養強化小麦粉を使うことの価値をお客さんに伝えています。タヒルさんとアンワルさんは、栄養強化小麦粉について人々と意見交換をすることはとても楽しいことと考えています。
国連食糧農業機関(FAO)の最近の推計によると、パキスタンでは3,750万人が適切な栄養補給を受けていないとされています。
パキスタンでは、労働力の喪失、医療費の増加、生産性の低下など、栄養不良によって毎年GDPの3%(約76億ドル)が失われており、この数字は過去40年間、大きく変わっていません。
タヒルさんとアンワルさんは、パン作りに栄養強化小麦粉を使用しお客さんに供給することで、この問題の解決策に一役買っています。アンワルさんは、カフェにチャパティを買いに来たお客さんに試食をお願いして、栄養強化小麦粉を使ったパンと普通のパンの違いを味わってもらうようにしています。
国連WFPは、オーストラリア政府の初期支援を受け、全国栄養強化同盟、食料省、チャキ業者と協力して、この小規模な栄養強化プログラムをイスラマバードとラワルピンディの2つの都市で実施しています。
国連WFPのイノベーション・アクセラレーターの全面的な支援のもと、11ヶ月間で50の製粉所を使用し、100万人の消費者に栄養強化小麦粉で作られたパンを供給する計画です。需要と供給のバランスがとれるようになれば、このプログラムは継続的に実施できるはずです。
タヒルさんとアンワルさんは、お互いが目と鼻の先にある2つの小さなビジネス拠点がいかに大きな変化をもたらすかを示しました。
2人は、このコラボレーションが、お客さんを満足させ、同時に地域社会の健康増進に重要な役割を果たしているという点で、ウィン・ウィンの関係であると考えています。