エチオピア、ソマリ地方:ビジネスを立ち上げ、気候変動への強靭性を高める女性たち
サディヤさんの一日は、エチオピアのソマリ地方にある仮設住宅が集まるボコルマヨ難民キャンプの裏庭の納屋からヤギを放すことから始まります。陽気に口笛を吹きながら、彼女はヤギたちをまず近くの水場まで連れて行きます。しばらくしてから遠くまで連れて行き、荒れた土地の中で放牧に適した場所を見つけます。
ビジネスウーマン
自身がソマリアからの難民で、流れるような青いローブをまとった25歳のサディヤさんは、伝統的に男性が家畜の飼育を監督するこのエチオピア東部の一角を占める牧畜民の間では珍しい存在です。
「女性としてこのビジネスに携わるのは簡単なことではありません」とサディヤさんは言います(難民のため、彼女の姓は伏せます)。「私たちがこのビジネスを始めたとき、時間とお金を無駄にするな、必ず失敗するからと、多くの人が言いました」
このようなサディヤさんのへの偏見は、牧畜民が多いエチオピアのソマリ地方の複雑な社会構造を反映しています。この地方では、女性は家事や子どもの世話といった昔からの役割に縛られることが多く、公的な生活や意思決定への関与は限られています。
10年以上前に祖国での戦闘から家族とともに逃れたサディヤさんのような難民は、さらなる課題に直面しています。彼らは土地の所有が認められず、雇用機会も限られ、融資などの金融サービスを利用することもできません。
起業家精神
しかし、ある取り組みが現状を変革しようとしています。地元住民と難民のスキルの向上、収入の増大、さらに社会的結束の強化を目指し、エチオピアで最も貧しい地域のひとつに新たな経済的機会を生み出そうとしています。
この取り組みは、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)および国際非営利組織メルシー・コープスの支援を受け、ボコルマヨを含むソマリ地方各地の難民キャンプで、女性を中心に約1000人が参加者登録をしました。
女性のエンパワーメントがこの取り組みの中心であり、女性にはトレーニングや起業におけるリーダーシップを、男性には献身的な役割を与えています。さらに、気候変動によって干ばつや洪水が深刻化し、飢餓が急増しているこの地域では、コミュニティ全体を活性化させることを目指しています。
「このプログラムは起業家精神の育成に重点を置いており、女性たちは自分たちのやりたい事業を選択します」と話すのは、ダニエル・オコム国連WFPソマリア地域強靭性構築プログラム担当官。「事業を立ち上げた後、彼女たちは様々なトレーニングを受け事業を成功させるためのスキルを身につけてもらいます」
貯蓄協同組合
数年前にプロジェクトが開始されて以来、約600人の女性が自ら事業を立ち上げ、24の事業協同組合が登録されました。
この取り組みでは、参加者が持続可能な市場にアクセスし、製品やサービスを販売しています。参加者はまた、村の貯蓄貸付協同組合を設立し、組合員が資金を出し合ってビジネス・プロジェクトに投資しています。
「市場や金融サービスへのアクセスは、この地域の多くの女性にとってまさに画期的です」とオコム担当官は言います。「私たちの支援を通じて、この地域の女性たちが革新的なアイデアを持っていることを目の当たりにしてきました。適切な市場とつながり、金融サービスを利用できるようになれば、彼女たちは収益性の高いビジネスを立ち上げることができるでしょう」
25人の女性と5人の男性が、自分たちの資金を出し合い、自らの貯蓄と国連WFPの起業資金をマッチングさせて、自分たちの小規模事業を立ち上げ、共同で所有する家畜取引のベンチャー企業に投資する、これがサディヤさんが協同組合の議長を務めるボコルマヨ難民キャンプでの目標です。
ヤギの世話が終わると、サディヤさんは週に一度、所属する協同組合「ホダン」(ソマリア語で富を意味する)の会合に向かいます。
グループが発足した当初は、会合はしばしメンバーの家の裏庭の木陰で行われましたが、現在は、参加者たちがビジネスで得た利益を投じて建設したトタン家屋で開催されます。彼らは愛情を込めてこのトタン家屋を「本部」と呼んでいます。
サディヤさんの点呼でセッションが始まります。次に、メンバーたちは先週の売上を集計し、いくら貯蓄するか、どんな家畜に投資するかを決めます。
「私たちが持っているスキルの多くは、国連WFPの訓練を通じて得たものです」と、サディヤさんは話します。サディヤさんは昨年、ヤギの飼育と売買のビジネスを始めました。この若くして結婚した7児の母にとって、彼女の新しいキャリアは希望の源です。
「国連WFPは私たちに貯蓄の仕方、事業の展開の仕方、家畜の売買の仕方、協同組合内での情報の共有の仕方などを教えてくれました」と彼女は付け加えます。
このプロジェクトはまた、同じ言語、歴史、先祖を共有するこの地域の難民と受入側のコミュニティとの絆を育んでいます。
ボコルマヨ難民キャンプの南東約50kmにあるヒラウェイン難民キャンプでは、地元の商人のウナ・イブラヒム・マフムードさんが衣料品ビジネスを立ち上げました。彼女は女性が多数を占めるワダジール協同組合の一員で、この組合は、難民と彼女のようなエチオピア人を含む25人のメンバーで構成されています。
「ビジネスは順調です。協同組合として、私たちは互いに支え合い、常に経験を分かち合っています」とイブラヒムさんは話します。このキャンプではこれまで取引業者がおらず、イブラヒムさんのメンバーが食料品や非食料品を販売します。
男女の平等
ビジネス・トレーニングにとどまらず、このプログラムでは、男女の平等、土地の相続、家庭内労働の分担、公的分野への女性の参画といった問題について、参加者とその家族にセッションを提供しています。
「私たちが活動を始めたばかりの頃、何人かの組合員の女性の夫が私たちのところにやってきて、妻に内緒で妻の分配金を要求したことがありました」と、ボコルマヨ難民キャンプのサディヤさんは話します。「また、男性たちは他の組合員が妻のお金を盗んだと訴えたりするなど、私たちの活動を理解してもらえませんでした」
「今では、彼らは私たちが順調に進歩していると言って、励ましてくれます」とサディヤさんは言います。
ホダン協同組合のもう一人の組合員であるムスリマさんは、このセッションが皆の認識を変えたと言います。
「研修が始まる前、私たちのコミュニティでは、女性は家で家族の世話をするべきだと思う人が多数派でした」とソマリア難民でもあるムスリマさんは言います。「今は、母親も収入を得て家族を支えることができ、父親も母親をサポートすべきだ、と考える人が増えてきています」
ムスリマさんはホダン協同組合の書記担当です。彼女はキャンプでヘアサロンも経営しています。しかし、彼女は新しいビジネスキャリアにほろ苦い思いを抱いています。
「学び、知識を得ることはとても幸せなことだと感じましたが、学校を卒業できなかったことを後悔しています」とムスリマさんは、高校最後の年の2018年に家族でソマリアから脱出した日のことを話します。
彼女はビジネスで得た利益を3人の姉妹の教育に役立てたいと考えています。
「彼女らが全員卒業したら、今度は私が学位を取ることを誓います」と彼女は言います。
研修は彼女に忍耐強さを教えました。「何事も少しずつ、一歩一歩ということを学びました」とムスリマさんは言います。
エチオピアのソマリア地方における国連WFPの女性のエンパワーメントと生計向上の取り組みは、2023年からスペインのカタロニア開発協力庁(ACCD)の資金援助を受けて実施されています。