エチオピアの農村地域で根付く農作物保険
ヨハネス・ネガシュさんは、地元で「ワグ」と呼ばれる作物の病気で小麦の収穫量の半分を失ったとき、「どうすればまた農業を始める勇気が持てるだろうか」と自問しました。
「私は農家であり、農家の息子であり、農家の孫であり、これからもそうあり続けます」と、彼は今日、冗談めかして当時を振り返りますが、その声には誇りが感じられます。
何百万人ものエチオピア人にとって、農業は単なる職業ではありません。それは彼らのアイデンティティに織り込まれ、何世代にもわたって受け継がれてきた生き方そのものです。しかし、気候変動や紛争、予測できない市場価格の変動などが災害となりうるこの東アフリカの国では、農業はリスクの高いビジネスです。
こうした危険により、農家は農業技術の改善に投資することを躊躇し、異常気象や食料不安に対してさらに脆弱になる可能性があります。ネガシュさんが暮らすエチオピア北部のアムハラ州も例外ではありません。
しかし今日、小麦に加えてひよこ豆、大豆などの豆類を栽培するネガシュさんのような農家は、国連WFP、エチオピア政府、非営利の社会的企業であるプラ・アドバイザーズが支援する革新的な農作物保険制度のおかげで、自分たちの将来に新たな挑戦を行うことが可能となっています。2023年に開始されたこの制度は、干ばつ、大雨、雹(ひょう)、害虫、農作物の病気から農家を守る保険です。
アムハラ州の農家のための保険制度は、国連WFPがこれまでに実施した同種の制度としては最大規模であり、国連WFPが多数の政府やパートナーとともに支援する、広範な世界規模の農村部の自立支援の取り組みの一環です。この取り組みは、アムハラ州だけで約54,000人の農家を対象とし、保険の提供にとどまらず、荒廃した土地の修復などのプロジェクトに農村労働者を雇用するなど、農業慣行の変革と収入の向上を目指しています。
「この制度の目的は、農作業のあらゆる段階で農家のレジリエンスを強化し、異常気象の影響に耐える能力を構築し、食料生産と収入の安定を確保することです」と、オリパ・ズルンバタ国連WFPアムハラ州プログラム担当官は話します。
大きな分配金
ネガシュさんにとって、この保険はまさに、一連の逆境の中で巡り合えた恵みの雨でした。度重なる干ばつ、農作物の病気、イナゴの大発生、そして最近では紛争が彼の地域を襲い、収穫を壊滅させ、飢餓を深刻化させていました。
「ここ数年は私たち農家にとって厳しい時期でした」と彼は言います。「この地域で戦争が始まったとき(2021年)、私たちはちょうど種を植えたばかりで、作物を収穫することができませんでした」
昨年、穀物に影響を及ぼす真菌性疾患であるワグ病が流行し、紛争が続く中、ネガシュさんの収穫が壊滅的な被害を受けました。「平和でなければ、どうやって作物を育てろというのか?」と彼は自問しました。
ネガシュさんは、村の貯蓄グループから農作物保険制度について聞いたとき、不安を感じました。「最初は、自分の農場に不運を招くものだと感じました」と振り返ります。「加入をとてもためらっていましたが、さまざまな会合で話を聞いてから加入することに決めました」
「当初は受け入れられるまでにいくつかの課題がありました」と、国連WFPのパートナー組織であるプラ・アドバイザーズのプロジェクトコーディネーターのタックル・ハイリュさんは語ります。「しかし、国連WFPや他のパートナー組織と協力して地域社会に啓発活動を行ったことで、素晴らしい成果が得られました」
今年、ネガシュさんは、ワグの被害で収穫物が台無しになったことで保険金を受け取った何万人もの農家の一人となり、その額は同地域全体で総額67万5,000米ドルになりました。
「この経験から私が学んだ最大の教訓は、自分の農場に影響を与えるさまざまな問題をコントロールすることはできないが、備えることはできるということです」と彼は言います。「私のような弱い立場の農家にとって、この保険は必要不可欠です。身体に健康保険が必要なように、農場にも農作物保険が必要です」
現在、ネガシュさんは保険金を活用して農業活動を拡大する計画を立てています。また、この制度の支持者となり、村の他の農家にも参加を勧めています。
「収穫量が上がれば、子どもたちを近くの都市の学校に通わせることができます」とネガシュさんは言います。「学校でうまくやっていけないようなら、自分でビジネスを始めるための種子代を渡すことができます」
「手段さえあれば、何でも可能なのです」と彼は言います。
エチオピアの小規模農家に農作物保険を提供するこの国連WFPの取り組みは、ドイツ復興金融公庫(KfW)の寛大な支援により実現しました。