2016年度の支援活動を振り返って
2016年、世界はかつてないほど複雑な危機の数々に襲われました。世界各地で紛争や自然災害が同時に起こり、記録的な数の人びとが家を追われました。そんな中、国連WFPは去年1年間で8,200万人以上に食糧や現金などの支援を届けることができました。2016年を振り返って、活動のハイライト5つをご紹介します。
2016年、南部アフリカはエル・ニーニョ現象の打撃を受け、イラク、ナイジェリア、南スーダン、シリア、イエメンでは、6千万人以上が紛争の影響を受けました。
そんな中、国連WFPは去年1年間で8,200万人以上に食糧や現金などの支援を届けることができました。年間予算の8割は命を救う緊急支援に充てられましたが、未来を見据え、持続可能な開発目標の達成に向けて、中長期的な支援活動も行いました。2016年の活動のハイライトにはどのようなものがあったのでしょうか。
イノベーションで食糧を輸送
国連WFPは、紛争や国境封鎖で孤立してしまった人びとへ食糧を届けるため、新しい輸送方法を編み出しました。シリアでは、陸路が遮断されたデリゾールへ高度5千メートルの上空から食糧や緊急支援物資を空中投下。また、7月にヨルダンとの国境が封鎖されてしまったラクバンとハダラットでは、国境間に挟まれ身動きが取れなくなってしまった難民に対し、高さ70メートルのクレーン車で食糧と衛生キットを吊り上げて届けました。さらに、国連WFPは人道支援を行う国連機関やパートナー団体のスタッフ30万人が、支援活動が行われている遠隔地へ行くための航空便を運航しました。
現金等を活用した食糧支援
2016年、国連WFPは穀物などの食糧そのものを配給するのではなく、市場が機能し状況が安定している地域では、食糧を買うための現金や電子マネーを支給することにしました。食糧のかわりに現金等を支給する仕組みに切り替えたことにより、支援を受ける人は、腐る心配があるため通常の食糧支援では配られない生鮮食品をはじめ、ニーズに応じバラエティーに富んだ食糧を入手することができるようになりました。また同時に、この手法では、地域経済を活性化する効果もみられています。このように国連WFPは、食糧を配る従来の支援手法と併用しながら、飢餓ゼロへの挑戦に向け、それぞれの場所に応じた最も効果の高い支援の方法を模索し続けています。
トルコでは、国連WFPはトルコ赤新月社と合同で、特に支援を必要とする難民に電子キャッシュカードを配布する「緊急社会セーフティネット」を立ち上げました。毎月定額が振り込まれ、難民が食糧や医薬品、冬服を買ったり、家賃や子どもの学校の授業料を支払ったりするのに大変役立っています。12月までに50万人がこのプログラムに登録しました。
カロリー充足を超えた栄養支援
国連WFPは2016年も、配給する食糧の栄養価を高めることに注力しました。ビタミンやミネラルをはじめとした必須栄養素を含み、開封してすぐに食べられる栄養強化食品の配布は、2012年比で33%増となっています。栄養不良を予防、治療するために、国連WFPは900万人の5歳未満の子どもたち、400万人の妊産婦に特別仕様の栄養支援を実施しました。
マリでは、国連WFPは栄養不良の危険性のある人びとのスクリーニングを実施しています。また、地方自治体や非政府組織と連携して、医療相談や栄養強化食品の配給を行っています。
「国連WFPの支援なしでは、私の息子は助からなかったわ」と話すのは、生後18か月の息子ムッサくんをもつお母さん、アイサタさんです。ムッサくんはひどい栄養不良でした。「ムッサは病気にかかりやすくて、お医者さんに診てもらっても回復しなかったのですが、栄養支援を受けてよくなってきました。」
支援ニーズの高まりと、支援金の記録的増加
2016年、国連WFPが世界各国から受け取った支援金の総計は、58億米ドルと記録的な額に達しました。世界各地で緊急事態が次々に発生し、支援ニーズが高まる中、この58億米ドルでまかなうことができたのは必要経費全体の67%にとどまりましたが、国連WFPは目覚ましい成果をあげることができました。また、支援対象国の政府から受け取った拠出金も7%増えており、より一層の協力関係を築いています。
たとえばマラウイからは、2016年、国連WFPの同国における支援活動に対し、1億1,200万米ドルが提供されました。これは、支援対象国からの拠出としては最大です。食糧状況の改善を目指すマラウイ政府の熱心な取り組みに賛同し、民間企業や個人からも支援が増加しました。
食糧・現金支援以外のインパクト評価
国連WFPの支援効果は、直接的な食糧・現金支援を受けている人だけにとどまりません。実際、2016年には農業協同組合と市場とをつなげる媒介のお手伝いをしたり、橋や道路などコミュニティ全体が便益を受けるインフラ整備の支援を行ったりしました。
例えばインドでは、虹彩など個人認証可能な情報を駆使した生体認証により、政府による食糧配給の対象者3,120万人の登録を実施しました。