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経済危機により世界の飢餓状況は悪化 −世界飢餓人口は10億2000万人−

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ローマ発
10月16日の世界食糧デーを記念し、10月14日、国際連合食糧農業機関(FAO)とWFP 国連世界食糧計画(WFP)が、飢餓に関する年次報告書「世界の食料不安の現状」を共同刊行した。それによると、経済危機による飢餓の急激な拡がりは途上国の貧困層の人たちに大きな打撃を与えており、脆弱な世界の食料システムを改善することが急務となっている。

FAOの推定によると、食糧危機と経済の低迷により、世界の飢餓人口は史上初めて10億人を突破したと見られている。

世界の飢餓人口のほとんどは途上国に住んでいる。地域別の慢性的飢餓人口(推定値)は次の通り。アジア・太平洋地域―6億4200万人、サハラ以南アフリカ−2億6500万人、ラテン・アメリカおよびカリブ海地域−5300万人、中東および北アフリカ地域−4200万人、先進国−1500万人。


長期間にわたる傾向
世界の飢餓人口は、今の危機が起きる前から、この10年間ほどじわじわと増加してきた。1970年初頭に発生した世界食糧危機の対処として農業への投資を拡大した結果、1980年から1990年前半にかけては慢性的飢餓人口の削減に向けて進歩が見られた。しかし、農業部門への政府開発援助(ODA)の大幅な削減によって、1995年〜1997年期から2004年〜2006年期の間に、ラテン・アメリカおよびカリブ海地域を除く全ての地域の飢餓人口が増加した。ちなみにラテン・アメリカおよびカリブ海地域でも、食糧危機と経済危機によってその後、飢餓人口は増加に転じている。

食糧価格が高騰し経済が低迷した時期のみならず、食糧価格が低く抑えられ経済的にも成長していた時期においても飢餓人口が増加したということは、世界の食糧保障に関するガバナンスシステムの脆弱さを意味している、とFAOは報告している。

ジャック・ディウフFAO事務局長は、「世界の指導者たちは金融・経済危機に全力で対処し、短期間で巨額の資金を動かしました。飢餓・貧困撲滅に向けても同様の積極的な対応が必要とされています。飢餓人口の増加を看過することはできません。私たちは飢餓撲滅のための経済的、技術的な手段は持ち備えています。私たちに欠けているのは、飢餓を撲滅しようとする強い政治的意思です。飢餓・貧困の撲滅だけでなく、経済成長と世界の平和と安定を実現するためには、途上国の農業部門へ投資することが大変重要な鍵となってきます。」と述べた。

ジョゼット・シーランWFP事務局長は、「食糧安全保障に向けた新たな決意は賞賛すべきものですが、今すぐ行動しなければなりません。この21世紀に、世界の6人に1人が飢えているという現状は、許しがたいことです。飢餓人口が史上最多を記録する一方で、世界の食糧支援量は過去最低レベルにまで落ち込んでいます。飢えている人たちを救うために、資金と国際社会の決意が求められています。」と述べた。


貧困層へのもうひとつの打撃
今回の危機においては、様々な要因から、特に途上国の貧困層が打撃を受けている。

第一に、今回の危機は世界同時多発的に影響を及ぼしており、通貨の切り下げ、有償資金援助やODAの増加、海外へ出稼ぎに出た労働者からの母国への送金など、従来の対処法が通用しないということがあげられる。

第二に、食糧危機に相次いで経済危機が起きたということが上げられる。貧困層は食糧危機によりすでに疲弊しており、食糧難に陥っていた。途上国内の食糧価格の高騰、減収、失業などにより、人々は持てる財産を売却したり、食べる量を減らしたり、医療費や教育費を切り詰めたりしており、飢えと貧困の悪循環により深く落ち込んでいく危険性が高い。

期待される対応策
第三に、今回の危機が過去の例と異なる点は、20年前と比べて途上国が経済的にも商業的にも、より密接に世界経済と関わるようになってきているため、国際市場の影響を受けやすいということである。

多くの国では貿易・資金流入・輸出収入・外国投資・開発支援・海外送金が押しなべて縮小・減少している。これは雇用情勢を悪化させ、また途上国政府が、自国の発展や弱者救済のために行う政策のための資金が足りないということにもつながる。

例えば、ラテン・アメリカの17カ国では2007年の時点では1840億米ドルの資金流入があった。それが2008年には890億米ドルと半減し、2009年にはさらに半減し430億米ドルになると報告書は推定している。つまり、途上国の人々は消費を抑えなければならないということだ。さらに、低所得・食糧不足の国々では、消費を抑えるということは、本当に必要な食糧や医療品、薬などの輸入さえも削減せざるを得なくなるかもしれないということを意味している。

報告書では、WFPがアルメニア、バングラデシュ、ガーナ、ニカラグア、ザンビアで行った調査の事例を紹介している。それぞれの事例では、海外からの送金の減少と経済危機がどのように家庭に悪影響を与えているかということや、農業部門やインフラへの投資やセーフティネットの拡充など、各政府の危機対策が紹介されている。

報告書によると、これらの途上国の政策は貧困層の救済にはつながっているが、さらなる対応策が必要である。

FAOとWFPは、突然食糧難に陥った人々への短期的な飢餓救済策とともに、貧困により慢性的に飢餓に陥っている人たちに対する中長期的な飢餓救済策の両面からの取り組みを提唱していく。

ディウフFAO事務局長は「小規模農家は、農業効率と生産量の向上にむけて、高品質の種、肥料、農業技術を必要としています。また、途上国政府は危機に際しても農業部門が安定した生産量と強靭な体制を保てるよう、様々な経済・政治的手段を必要としています」と述べた。