報告書「大移動の根源:食糧安全保障、紛争と 国際移住の関係」要旨
国連WFPが今月発行した報告書『大移動の根源:食糧安全保障、紛争と国際移住の関係』の要旨を日本語でまとめました。食糧難が深刻になると、国際移住が増えることを実証しています。
なぜ国連WFPがこの報告書を出したのか?
難民をはじめ、さまざまな理由で住み慣れた土地を離れた多くの移住者(=移民・難民の総称)に対する食糧支援を行っている国際機関として、移住と食糧安全保障の関係性をより深く理解する必要があり、国連WFPが調査を行った。
調査方法
質的・量的な手法を組み合わせている
- イタリア・ギリシャ・トルコ・レバノン・ヨルダン(いずれもここ数年間で多くの移民や難民の流入を経験している)に滞在する移住者230名とのインタビュー
- トルコ・レバノン・ヨルダンにいるシリア難民570名を対象に電話調査
- 調査に参加した移住者は、東アフリカ・西アフリカ・中東・アジアの各地域から来ており、中でも多数を占めたのは、アフガニスタン・イラク・ガンビア・シリア・スーダン・セネガル・ナイジェリア・バングラデシュの出身者
調査結果の重要ポイント
- 食糧難が深刻になると、国際移住が増えることを実証
- 人口1,000人当たり、栄養不足人口の割合が1%増加すると、移住する人数が1.9%増加する
- 紛争が1年延びるごとに、移住を強いられる人数も0.4%増加する
- 食糧不安と紛争が深刻化する国では、人々が移動を繰り返すなかで、出国率も高まる
- 食糧難は、武力衝突や紛争を引き起こす、あるいは、激化させる原因にもなる
- ひとたび移動を開始すれば、食糧と経済的保障の有無が、さらに移動し続けるか、あるいは最初に辿り着いた比較的安全な場所に定住するかの決め手になる。
- 移動の過程が過酷で危険な場合も多いため、移住することでより深刻な食糧不安に陥ることもある。
- 実際には[紛争…→…国外移住]と必ずしも直線的に結びつくわけではなく、さまざまな要素が絡まり、因果関係も多面的である。
提言
- 人々は家を追われても、できるだけ本来の生活場所の近くに留まろうとする。
- そうすることで、人々がさらなる移動を強いられることを減らすことができ、又、人道支援を効率化し、より長期的には社会や経済にとってもプラスになる。
- 移住者を多く受け入れている地域では、公共設備・サービスへの負担が増えるため、受け入れ地域に対しても十分な支援を行う必要がある。
- 受け入れ地域における支援が不十分だと、移住者に対する反感が増し、地元民と難民や避難民などの間で軋轢や衝突の元になり、地域の更なる疲弊を招く。
国連WFPによる難民支援活動
- 2016年、国連WFPは32カ国で難民690万人に対し、食糧支援や、食費としての現金や電子マネー等の配布を行った。又、栄養不良を治療又は予防する目的で、難民の子ども向けに栄養強化食を用いた栄養支援も実施。
- 現金や電子マネー等を使った食糧支援は、市場に食糧が豊富に流通している地域において実施され、難民の受け入れ地域における地元経済の活性化にも繋がる。
- 国連WFPが実施する中で最大の難民支援事業は、シリア周辺国であるレバノン・ヨルダン・トルコ・エジプト・イラクにおいて実施されており、220万人のシリア難民を対象としている。
- 今年9月まで難民700万人近くに支援を継続するため、国連WFPは6億米ドルを必要としている。
参考資料
報告書(英語の原文)
プレスリリース