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中断された子ども時代:思春期の母親のニーズを満たすことができているのでしょうか

, WFP日本_レポート

思春期に母親となった女の子たちは栄養的にも社会文化的にも特有のニーズがあるため、個別なグループと考えられます。そのグループを適切に支援するためには、国連やNGOなどの開発コミュニティも変化すべきであると国連WFPの栄養副ディレクターのファティハ・テリキは言います。

シモーヌ・ギー

5月9日

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バングラデシュで国連WFPコミュニティの栄養支援を受けている若い母親。国の合計特殊出生率が低下しているにもかかわらず、いまだに思春期の母親の人数は多いです。写真:WFP/Nathan Sarker

若い母親のほとんどは低所得国または中所得国にいます。多くの政府や開発組織にとって、若い母親の存在は2つの大きな課題をもたらしています。彼女たちの栄養ニーズが完全に理解または優先されていないこと、そして、彼女たちに手を差し伸べることが大変難しいことです。

国連WFPの栄養副ディレクターであり、思春期の子どもの栄養支援を主導するファティハ・テリキ医師はこう言います。「未成年の妊産婦は多くの場合において必要な栄養を摂取できていないと考えています」

未成年期、妊娠中および授乳中はそれぞれ、すべて女性や少女の栄養ニーズが高まる時期です。これらの時期が重なると栄養ニーズは、より大きくなります。つまり、妊娠中のティーンエイジャーが必要とする栄養は、妊娠中である成人や、妊娠していない友だちより多いのです。

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国連WFPによる栄養プログラムの一環としてチャドのンガランゴ健康クリニックで診断を受けたハワ・マホメット(16才)と赤ちゃん(7カ月)。写真:WFP/Giulio d'Adamo

グローバルな議題の中でも思春期の子どもの優先順位は上昇しつつあります。しかし、いまだに思春期の女の子は特にあらゆる種類の栄養不良にさらされているのです。彼女たちが食べる食料には、赤ちゃんの急激な成長と母親のまだ完了していない成長の両方を賄う栄養が含まれていなければなりません。妊娠中の貧血は低体重児の出産と妊産婦死亡率を高めますが、思春期の母親は、その貧血のリスクがとても高いのです。

栄養ニーズが高いにも関わらず、思春期の女の子は、しばしば最後に食事をとり、また食べる量も少ないのです。国連WFP事務局長のデイビッド・ビーズリーは、一般的な家庭での食事を思い浮かべてほしいといいます。「家族が食卓についているところを想像してください。父親、赤ちゃんに授乳する母親、学齢期の男の子、そして思春期の女の子。誰のお皿にもっとも多くの食べ物がのっているでしょう?体も大きく肉体労働をしているので、おそらく父親でしょう。次に男の子。そのあとは細い2人。母親と娘でしょう」

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「ブリッジング・ザ・ギャップ」調査では、思春期の子どもが食事およびアイデンティティについて気持ちを伝えるために絵を描きました。調査に参加した多くの未成年の女の子は、家庭内での食事が平等に分けられていないことを表現しました。「これは母がチリを作っているところです。父が一番に食べ、母と私はトルティーヤを作り終わってから食べます」グアテマラのアルタ・ベラパズ(14才)

本来ならば反対である方が理にかなってることが国連WFPの「フィル・ザ・ニュートリエント・ギャップ」(栄養的ギャップを埋める)分析で示されています。少なくとも栄養的な質(つまり一口の食料に含まれる栄養素の量および種類)に関しては、妊娠中または授乳中の思春期の女の子は家庭内において最も多くの栄養価の高い食料を必要としているのです。

そして、栄養価の高い食料である新鮮な果物と野菜および動物性の食品は、栄養価の低いコメなどの主食に比べ値段が高いことが多く、これは結果的に必要なお金に直結します。結論から言うと、思春期の母親は、もっともお金のかかる家族の一員なのです。

文化的および家族内の力関係も関係してきます。国連WFPおよび調査機関のアンスロロジカがケニア、ウガンダ、グアテマラおよびコロンビアにて行った「ブリッジング・ザ・ギャップ」調査の結果によると、未婚の思春期の母親の多くが家族にとって負担であると見なされています。そして1人分の食料しか与えられずに、自分と子どもで分けていることが多いのです。

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バングラデシュのコックスバザールで行われている、非常に弱い立場の人たちに向けた国連WFPによる支援を受けるロヒンギャ難民で4人の子どもを持つアレヤ。写真:WFP/Saikat Mojumder

国連WFPの栄養ディレクターであるローレン・ランディスは栄養および健康ケアを行うにあたって思春期の子どもに支援を届けるのは特に難しいと説明します。「子どもは学校にいて、新生児を抱えた母親は診療所にいるとおおよその見当をつけることができます。しかし、学校をやめてしまった思春期の子どもは家、非正規の職場、庭、農場などに散らばっています。彼らに支援を届けるのは、もう一つの問題なのです」

さらに、人口統計学上の分類が文化、国連または政府によってまちまちであることも事態を困難にしています。場合によっては女の子が赤ちゃんを産むとティーンエイジャーであっても成人女性とみなされます。ランディスは思春期の母親が若者や子ども向けの支援に参加しないケースがあるといいます。彼女たちは自らを子どもと考えていないのです。

ブリッジング・ザ・ギャップ(ギャップを埋める)

「ブリッジング・ザ・ギャップ」の調査により、思春期の子どものニーズが国により大きく異なることが明らかになりました。しかし、その中には共通の要素もあります。「4カ国すべてで思春期の子どもが支援を受けたいと考えていることが分かりました」と調査に携わった国連WFPの栄養士であるリンダ・キースは言います。

「思春期の母親は栄養から健康、家族計画、暴力の予防および教育など複数のサービスを必要としています。しかし、多くは忙しい生活を送っています。6つの異なるサービスを受けるために、6つの方向に引っ張られることは望んでいません。例えば、妊娠中の健康診断は栄養教育と結びつけることができるのではないでしょうか?」

他にも調査結果で明らかになった共通の要素があります。思春期の子どもたちは自分たちを対象とした支援に、設計段階から関わりたいと願ってることがわかりました。「国連やNGOは健康システムを変更する前に女の子たちに、どのような支援を求めているか聞くべきです」とキースは言います。

テリキ医師によると、国連WFPは、より思春期の子どもたちに合わせた支援を行うための施策を取り始めています。「私たちは思春期の子どもの可能性を最大限に高める支援を全力で行います」「最近では、内部データの違いにも目を向け、複数の部門が関わりながら、思春期の子どものための戦略を策定できるよう取り組みを強化しています」

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国連WFPが支援するコロンビアのラ・パラダにあるコミュニティ・キッチンで順番を待つ思春期の母親。ここはベネズエラの人々がコロンビアに入ってくる主要な入国地の1つです。写真:WFP/Deivid Torrado

さらに、キースは弱い立場に置かれた人たちの栄養状態を改善することは、従来の関係者以外にもできると強調します。例えば、コメをビタミンやミネラルで強化すること、またはソーシャルメディアおよび新たなテクノロジーを使って行動変化に影響を与えることによって、民間部門が大きな役割を担うことができると彼女は言います。「私たちはパートナーシップを組んで、思春期の母親に対して何ができるかを考え、栄養が他のニーズから切り離されたものとしてとらえられないようにするべきです」

また、キースは全体的な解決策についても指摘します。ティーンエイジャーが母親になることで発生する栄養不良を予防するもっとも効果的な方法は、妊娠の時期を遅らせることです。「若年層の妊娠を予防するもっとも有効的な対策の1つは、女の子が学校に通い続けるようにすることです」

国連WFPの学校給食支援は、親が子どもを学校に行かせることを促すため、有効です。親が娘たちを学校に行かせる気になるよう、多くの場合、女の子のためには持ち帰り用の配給などの追加の動機付けが用意されます。

テリキ医師によると思春期の女の子に投資することは飛躍的な効果をもたらします。「未成年の女の子の栄養状態を改善することは3段階の向上なのです。まずは、まだ成長中である本人の生活を向上させ、次には妊娠をしたとき、その後は必要な栄養を適切な時期に得ることができた子どもの人生を良くします。これが栄養への1米ドルの投資に対して16米ドルのリターンがある理由です。もしこれが株式市場だったなら、投資家が群がってくるでしょう」