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希望を抱いて:ある母親の感情の遍歴―シリア

, WFP日本_レポート

配偶者の死で精神的なダメージを受けたシリア人女性が、国連WFPの支援を受ける工場で働くことによって人生を再スタートし、子どもを養っていく力を得ました

マラワ・アワド

私たちは紛争を事実に基づいて考えがちです。シリアの内戦で死亡した人の数、8年以上の荒廃によりシリアの全人口の4分の3が極度の貧困状態で生活しているという状況、600万人が国内で避難生活を送っていることなどの事実です。

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ディマ・フセインの輝く笑顔には、恐怖と喪失から自信への感情の遍歴が内包されています。写真:WFP/ Marwa Awad

しかし時折、紛争とは人々の人生を形作る感情の遍歴でもあることを思い出させてくれる人に出会うことがあります。20代で夫を亡くし子どもを育てているディマ・フセインは、ここ数年の間に、つづれ織りのように複雑な感情の変化を経験しました。その変化とは恐怖と喪失、嘆きと否定、決意から最後には自信と信頼です。

私は地元の工場でディマに出会いました。その工場では国連WFPの学校給食支援の一環として作り立ての食事が用意されています。

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ディマは国連WFPによる学校給食支援のためのラップサンドイッチを巻き、新鮮なおやつを包みます。写真:WFP/Marwa Awad

製造ラインの一端に立つディマは、きびきびとラップサンドを巻き、食料を手作業で袋詰めにしていました。彼女の手早く機械的な動きから目的意識が感じられたため、声をかけてみることにしました。そこで、ディマが昔から自信に満ち決然としていたわけではなかったことを知ったのです。

シリアで内戦が始まったとき、ディマはアレッポの南東部にあるザブディーヤに住んでいました。内戦の初期段階では、激しい戦闘が繰り広げられている街中に出ることが恐ろしく、彼女と家族は住んでいた建物に閉じこもっていました。

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アレッポ市内でがれきの間を歩く男性。写真:WFP/Marwa Awad
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廃墟となった近所の幼稚園。写真:WFP/Marwa Awad

「私たちはかろうじて生活していました」とディマは言います。彼女の夫はディマと3人の子どもたちが命を落とすことを恐れ、何があっても建物からでないようにと懇願しました。「ある晩、夫は自分に何があろうとも、たとえ道端で死んでいるのを見かけようとも、絶対に出てきてはいけないと言ったのです」その次の日、危険を冒して市場に買い物に出かけたディマの夫は帰り道で殺されてしまいました。

ディマは夫の死で大きな喪失感を覚えました。目に涙を溜めたディマは「心が焼け焦げてしまったようでした。夫は思いやりのある優しい人でした」と言いました。

内戦はすべてのシリア人の生活に影響を及ぼしています。しかし、女性は生き延びるために、より大きな重荷を背負っているのです。多くが配偶者を失い、大家族の稼ぎ手となりました。失業率が50%のなか、女性が仕事を見つけるのは困難です。特に働いた経験がなく、夫に生活を頼っていた女性にとっては難しいのです。

ディマはザブディーヤの家を捨てて、アレッポ内のより安全な場所を探して移り住まざるを得なかったときにも喪失感を覚えました。子どもを養うために近所の人の施しに頼らざるを得なかったのです。来る日も来る日も人々の同情の的になることで次第に落ち着きを失い不安定になりました。

「初めのうちは、近所の人が私の子どもを孤児と呼んでいるのを聞くたびに自分が哀れに思えました」とディマは言います。シリアでは伝統的に男性が主な稼ぎ手であるため、父親を亡くした子どもは孤児とみなされるのです。

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アレッポでディマの同僚たちが出来たての食事を用意しています。写真:WFP/Marwa Awad
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シリアでは世帯主の3分の1が女性となりました。写真:WFP/Marwa Awad

「他人の同情のおかげで食事を食べていると思うと口に苦いものが残りました。自分も子どもも施しを必要とする状態から抜け出そうと決心しました」

ディマの決意は仕事を探すことにつながりました。そして夫を失った52人の女性が、安定した収入を得ているサンドイッチ工場で仕事を見つけたのです。

初めて手にした77,000シリア・ポンド(約180米ドル)の給与でディマは子どもたちが遊ぶためのサッカーボールと学校用の文房具を買いました。「自分自身と子どもの面倒を見られるという自信を得ることができました。もう施しに頼っていないということで尊厳を取り戻すことができました」

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アレッポで学校に歩いていく子どもたち。国連WFPはアレッポで15,000人の子どもたちに新鮮なおやつを提供しています。写真:WFP/Marwa Awad

最近、子どもたちに必要なものを買い与えることができてディマの自信は増しています。苦労して稼いだお金で子どもたちのために食料、学用品やおもちゃを買っています。

「初めての給与には大きな意味がありました。子どもたちにサッカーボールを買いました」と嬉しそうに言います。「自分のお金を手に入れたことで、母であり世帯主であることに誇りを持つことができました」

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アレッポの学校で栄養の知識を高める活動をする国連WFP職員。写真:WFP/Marwa Awad
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休み時間に作り立ての食事を食べる女の子。写真:WFP/Marwa Awad

国連WFPとパートナーたちはシリアにいる弱い立場の300万人以上の人々への緊急支援を続けています。その一方で、シリアの人々が生活を立て直すための生計開発プログラムも行っており、ディマのようなシリア人女性に役立っています。これらのプログラムでは、今まで女性の居場所がなかった、経済、労働市場、世帯主の立場に、突然放り込まれてしまった女性たちを支援してきました。

シリア・ポンドの通貨価値が2011年時点のたった10分の1になっている今では、家計収入の80%が食料に使われています。引き続き基本的ニーズである食事、水、住まいを海外からの支援に頼っているものの、人々が再度コミュニティ内の生産性の高いメンバーになるためには緊急支援以上のものが必要です。

「人々の施しではなく、自分の給与で子どもたちを食べさせていくことができるようになり、食事が甘く感じられます」