新型コロナウイルスと飢餓―国連WFP、過去最多の人々を支援へ―
目に見えない"新たな敵"は、地球温暖化と紛争が続くラテンアメリカ地域に更なる混乱をもたらしています。
新たに発表された数値は「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす脅威と暗い未来を突き付けてきた」と国連WFPの緊急対策部門ディレクターのマーゴット・ヴァン・デール・ヴェルデンは不安を口にします。
昨年国連WFPが世界中で支援した人の数・9700万人を超え、過去最多となる1億3800万人へ年内中の食料支援を行うため、国連WFPは49億米ドルの確保が緊急課題としています。
「我々の支援を求める政府の声も増えています。」
国連WFPは、感染拡大当初に出した新型コロナウイルスにより食料不足に陥る人数の推計値を修正し、可能な限りリアルタイムで監視・分析する体制を整えました。
また、食料不足で苦しむ人々が、パンデミック前より82%増の2億7000万人に上る恐れがあると国連WFPは新たに予測しています。
現在の支援活動を継続させる事が第一としつつ、「新型コロナウイルスにより更なる食料支援を人々は必要としており、早期に支援を行う事で、多くの家庭が困窮する事態を防ぐ事が出来る」と、ヴァン・デール・ヴェルデンは述べます。
「感染のピークがまだ先にあることを恐れています。今は氷山の一角に過ぎず、少し気を緩めただけでこの先取り返しのつかない事態にもなりかねません。」とヴァン・デール・ヴェルデンは警鐘を鳴らします。
世界中で感染率が上がっている中、食料備蓄が底を尽く地域が多くあります。ハリケーン等の気候変動、西アフリカ地域のバッタの蝗害、紛争や衝突により、農作物の収穫が影響を受け、飢餓問題に追い打ちをかける事態となっています。
ヴァン・デール・ヴェルデンは、「ラテンアメリカ地域は、気候変動や経済の混乱、紛争や移民の問題などで既に脆弱な状況に置かれています。そのうえ新型コロナウイルスが重なることで更なる状況悪化は避けられない」と不安視しています。
また、「貧弱な医療体制、格差問題、小作農の難しさ、暴力発生率の高さ等の理由により、新型コロナウイルス感染の中心地はヨーロッパからラテンアメリカ地域に移るであろう」というロンドン大学のジェニー・ピアース教授の言葉通りの形となったと認めます。
事実、ラテンアメリカ地域は食料支援を必要とする人々の数が三倍に増えました。ボリビア西部、エル・アルト出身のジュアン・カルロス・カサスさんもその一人です。彼は腎臓に疾患があり、15年前から週3回の透析を受けていましたが、ロックダウンの影響を直に受けました。
「食料配給も限られており、患者向けの特別食も手に入りにくい状況です」とカサスさんは訴えます。「仕事があった私たちや家族も働けない状況です。」
食料不足の人々が、西、中央アフリカ地域で135%増、南アフリカ地域で90%増と、飢餓人口はアフリカでも急増しています。年末には、ジンバブエの都市部だけでも220万人から330万人(国人口の45%)に増えると予測されています。
ジンバブエはベネズエラに次ぐ高さのインフレ状態にあり、物価が年始に比べ122%、昨年3月に比べ800%上昇しました。
4児の母のマイデイさんは、首都のハラレに住んでおり、国連WFPの54米ドルの現金支援を受けながら、ロックダウン中の生活をしのいでいます。
「外出して食料や薪、生活用品を自分たちで手に入れないといけません。感染に無頓着に見えるかもしれませんが、非常に恐れています。ただ、それしか方法がありません。」
ヴァン・デール・ヴェルデンは言います:「複雑な環境におかれ、未発達のインフラ等、脆弱な状況にある地域では、大規模な感染予防策を実施するのは不可能に近いです。中央アフリカや南スーダン、イエメンなどの国々では予断を許さない状況です。」
国連WFPは「新たな飢餓の危機に直面」しているとし、現金支援規模の拡大や、都市部への支援強化など、特別な支援が必要との声明を発表しました。そして「半分以上の支援策に現金や食料引換券の仕様を組み込み、都市部の人々が食料を入手出来るようにすることで、景気刺激策も講じる」としています。
国連WFPのビーズリー事務局長は「ワクチンが開発されるまでは、食料が最善のワクチンとなる」と述べます。
そして「食料不足により、社会的不安や抗議活動の拡大、移住者の増加、紛争状態の悪化、栄養不足などが、飢餓とは無縁だった地域でも増える可能性がある」とビーズリー事務局長は考えています。
「新型コロナウイルスや移動制限を含む様々な問題により、ナイジェリア北東部や南スーダン、イエメンなどの地域では、飢きんに陥る恐れすらあります」とヴァン・デール・ヴェルデンは付け加えます。
そして「脆弱な状況にいる人々へ早急に支援を行うことで、人々が悲観的になり、身の回りの物を手放すといった考えになって欲しくありません」との思いを語り、「元の生活に戻る余裕を取り戻すのを手助けしなければ、食料不足に陥る人々が更に増え、取り返しのつかない事態になります。一刻の猶予もないのです」と気を引き締めました。