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ロシアの輸入と送金に頼るキルギスの人々が苦境に。日本からできることは?

国連WFPは中央アジアのキルギス共和国で、学校給食支援や農村地域の貧困層への自立支援などを行ってきました。しかし、ロシアの輸入と送金に頼ってきたキルギスの人々は今苦境に立たされています。

国連WFPキルギス共和国事務所代表の中井恒二郎さんは「戦争が始まってから貧困層が拡大し、支援の必要性はむしろ高まっています」と訴えます。

日本人にとってなじみの薄いキルギスとはどんな国か、そしてそこで何が起きているかを中井さんに聞きました。

天空の国キルギス。日本人とは「もともと同じ民族」?

キルギス共和国は人口約670万人の小国で、東西にのびる山脈の北側には主に遊牧民系の人びとが、南側には主に農耕系の人びとが住んでいます。

国内にはロシア系やヨーロッパ系、モンゴル系、トルコ系などさまざまな民族が暮らしており「男女とも背が高く、すらっとした人が多い印象です」(中井さん)

旧ソ連国でロシアとの関係が深く、国内ではトルコ語に近いキルギス語と、ロシア語が主に話されています。

国土の40%が標高3,000メートルを超える山国です(左から3人目が中井恒二郎さん)。Photo: WFP
国土の40%が標高3,000メートルを超える山国です(左から3人目が中井恒二郎さん)。Photo: WFP

キルギスには、「キルギス人と日本人はもともと同じ民族だが、肉好きがキルギスに残り、魚好きが日本へたどり着いた」という有名な逸話があるといいます。

それほど両国の人は見た目が似ていて、中井さんもよくキルギス語で話しかけられるそう。そのためかキルギス人は日本人にとても親近感を持っており、政府高官の中にも日本での留学や滞在を経験している人がたくさんいるとのことです。

「私たちはキルギスにあまりなじみがないですが、こちらの人は驚くほど、日本のことをよく知っています。顔も似ていますが、性格も穏やかで控えめな人が多く、日本人から見ても親しみやすい国民性だと感じます」

国民自ら「肉好き」を自称する通り、食卓に上るのはラグマンという肉焼きうどんや肉の炊き込みご飯、シュシャリク(羊や牛の焼肉)など肉料理が中心。ただ中井さんによると「キュウリやトマト、レタスなどのシンプルなサラダも絶品」だそうです。またキルギス産の「白いはちみつ」は世界的に有名で、日本でも小売店などで販売されています。

 

貧困率が20年前の水準に逆戻り

キルギスで今、大きな問題となっているのが経済格差です。首都ビシュケクでは、富裕層が日本製の高級車に乗る一方で、農村部の貧困層は十分な食べ物を買うこともできずにいます。ウクライナ戦争も、格差拡大に拍車を掛けました。

キルギスの経済はロシアへの依存度が高く、GDP(国内総生産)の30%以上を、主にロシアからの海外送金が占めています。戦争に伴い送金が減った上、海外で働く労働者の1割が、仕事を失って帰国せざるを得ないと予測されています。

また主食と燃料の大半を、ロシアとカザフスタンからの輸入に頼っているため、世界的な価格高騰の影響を受けやすい国でもあります。2020年初頭からの2年ほどで、小麦価格は7割、燃料価格は6割上昇。砂糖に至っては2.3倍に跳ね上がりました。

送金の減少や食料の値上がり、さらに現地通貨の下落などが、貧困家庭を直撃しています。「貧困層は従来から、所得に占める食材費の割合が65%に上っていました。そこへ食品の値上がりや収入減が起きたため、他の支出を抑えて食費を増やすか、栄養価の低い安価な食べ物に変えるかの選択を迫られています」(中井さん)

キルギスは経済成長によって、2000年に約40%だった貧困率を19年には20%まで引き下げることに成功しました。しかしコロナ禍と戦争で、22年末にはこの数字が38%に上昇すると予測されています。「20年間積み上げた開発の成果が、たった3年間で失われてしまうのです」と、中井さんは嘆きます。

中井さんの周囲には、戦争の影響を直接受けている人もいます。国連WFP地方事務所のウクライナ人職員は、ドネツク近郊から家族をキルギスへ避難させ、「将来を考えると、子どもにはロシア語だけでなく英語も勉強させたい」と話しているそうです。

 

給食からスープが消えた 来年の活動のめど立たず

貧困層の生活が苦しくなっているにもかかわらず、国連WFPが支援できる人びとの数は減少しています。

国連WFPは2013年から、キルギス政府と一体となって学校給食で豆や肉、野菜の入ったスープを提供してきました。政府の予算で賄えない分は、PTAや地元住民から具材になる野菜や肉を拠出してもらったり、食材費を融通してもらったりして、約6割の学校が栄養価の高い給食を実施できるまでになっていました。しかしウクライナ戦争以来、PTAやコミュニティに給食をサポートする余力がなくなり、お茶とパンだけしか提供できなくなった学校もあるそうです。

 また国連WFPは農村部で、かんがい施設や上下水道などのインフラ整備を通じて、住民の生計の向上をサポートしてきました。乾燥果物の加工施設や、香水用のハーブオイルなどの工房を設け、加工品を販売することで収入を増やす取り組みも続けています。こうした製品の品質を高め、将来的には日本への輸出も目指しています。

キルギス政府と協力して、貧困家庭の人びとに職業訓練を受けてもらった上で、開業資金を提供し、貧困から脱するためのプロジェクトも、つい最近始まったばかりです。さらにコロナ禍では、都市部の貧困層や障害者、高齢者への短期的な現金給付も行いました。

しかしキルギスでの支援規模は2022年、前年より10万人少ない30万人に留まる見通しです。中井さんら職員は財源を多角化するため、さまざまな国への働きかけを行っており、これまでにスイスや緑の気候基金から資金を得ることができました。それでも、来年以降の活動については不透明な情勢です。

 

食料支援が平和につながる 地道な成長をお手伝い

キルギスは経済情勢の悪化に加え、密接な関係にあるロシアが戦争を始めたことで、政治・外交の安定も大きく揺らいでいます。国内には閉塞感が漂い、民族主義が台頭する兆しもあるといいます。中井さんは「キルギスの人びとには、政治活動による急激な変化を追い求めるのではなく、地道な経済活動を通じて安定した生活を築いてほしい。国連WFPも、国内に平和と安定をもたらすお手伝いを続けたいのです」と訴えます。

キルギスは、人口の半分が25歳以下という若い国です。子どもたちへの学校給食支援や若者への職業訓練は、国家の将来に必要な人材を育てることにもつながります。

あまり知られていませんが、日本はキルギスにとって、ロシア、スイス、韓国に続く第4位の支援国に当たります。中井さんは事務所代表として、次のように述べました。

「キルギスは小国であるがゆえに、国連WFPは一つひとつの支援を通じて、国民の生活改善に大きなインパクトを与えることが可能です。キルギスの人びとにとって親しみ深い、日本のご支援で活動を続けられれば、こんなにありがたいことはありません」

国連WFPの支援を受けているパン工房にて関係者と。Photo: WFP
国連WFPの支援を受けているパン工房にて関係者と。Photo: WFP

 キルギスは、国土の40%が標高3,000メートルを超えるため「天空の国」とも呼ばれ、豊かな自然と観光資源に恵まれた国でもあります。中井さんは「日本の人も現地の自然や食事、文化を知るほど、この国を好きになってもらえるはず。まずは名産品の白いはちみつを味わっていただき、機会があればぜひ、キルギスを訪れてみてください」と、話しました。

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