食べ物、薬、医療…何もかも足りない
ベネズエラの避難民、隣国コロンビアへ大流出
中南米のベネズエラで食料や医薬品の不足が深刻化し、隣国コロンビアへと逃れる人が急増しています。今年2月、コロンビア国境の街を訪れた国連WFPのデイビッド・ビーズリー事務局長に対し、人々は口々に窮状を訴えました。
「とにかく飢えて、飢えて、飢えていたのです。だから国を離れたのです」。
コロンビア国境近くの街、ククタの一時避難所で、ベネズエラから避難してきた中年女性は手を握りしめ、何度も「飢え」という言葉を繰り返しました。
小さな子どもを抱いた母親は、ベネズエラで娘が栄養不良から肺炎にかかり、入院した経験を話しました。満足に食料も医薬品もない中、病院では1週間で10人もの子どもが亡くなったといいます。5キロしかなかった娘の体重は、コロンビアへ来てから11キロに増えました。
人々は次から次へと、母国には薬や食事が足りないと訴えました。彼らによると状況が悪化し始めたのは1年ほど前から。ハイパーインフレの中、食べ物があっても買える金額ではなくなってしまいました。ある女性は、家庭の多くが学費を支払えず、子どもたちは登校できないため給食も食べられないと話しました。
男性の1人が、話をまとめました。「私たちが逃げてきたのは、ベネズエラに何もなくなってしまったからです」
1日に4万3000人を超えるベネズエラ人が、両国間を結ぶ橋を行き来しています。この橋は、両国間に7カ所設けられている合法的な出入国ゲートの1つですが、このほか110もの非合法な越境地点があると言われています。
橋を渡る人々は薬と食べ物、そしてそれらを買うお金を求めています。中にはベネズエラに帰らずコロンビアに留まる人や、エクアドルやペルーなどへさらに移っていく人もいます。国境では何台ものバスが避難民を待ち受け、移住を勧誘する業者がたむろしています。しかし、人々は生活基盤のない国へ移住することによって、武装勢力への加入など、様々な違法行為に手を染めるリスクを抱えることになるのです。
妻と一緒に、ベビーカーを押して橋を渡っていた男性は、息子に粉ミルクを買いたいと話しました。ベネズエラにもミルクはありますが、値段が高すぎて国外でしか買えないといいます。「社会保障プログラムを通じてすら、ミルクは手に入らない」と嘆きました。
ベビーカーに2人の子どもを乗せ、さらに歩ける子ども2人を連れた女性もいました。経済が悪化して家政婦の仕事がなくなったので、ククタで菓子を売って、いくばくかの食べ物を得ています。
別の男性はコロンビアで仕事を終え、ベネズエラに帰る途中でした。しかし給料は必要な額に届かなかったそうです。彼は1カ月に1,2回ほど国境を越えており、この時は植物油と小麦、トウモロコシの粉と米を持ち帰りました。トウモロコシはベネズエラの主食ですが、1袋の値段が1週間分の収入に匹敵します。
生きのびるため売春、物乞いも
2017年以降、政情不安に伴う食料・医薬品および医療体制の不足から、160万人のベネズエラ人が国外に逃れました。今や同国は、人口流出が最も深刻な国の一つです。
コロンビア移民局によると、2018年2月までに100万人以上のベネズエラ人が国境を越え、66万人がコロンビアに留まっています。移民の82%は生活に必要な物資が不足しています。食料や水、医薬品が満足に手に入らないことで、子どもや母親の栄養状態も悪化しています。
また移民のうち19%は、生きのびるため子どもを働かせるほか、物乞いや売春をせざるを得ない状況に追い込まれています。
移民37万人へ緊急支援
国連WFPのビーズリー事務総長は、国際社会に支援を訴えました。
「移民の規模は今後、数十万人から100万人に膨らむ恐れがある。今が事態の悪化を未然に防げるかどうかの分かれ目だ。大規模な移民流入は、受け入れ国コロンビアの安定をも揺るがしかねない」
コロンビア政府と国民は、ベネズエラからの移民に対して寛大な姿勢を示しています。しかし1国での対応は難しく、同国政府は国連に支援を要請しました。これを受けて国連WFPは他の国連機関と連携し、統合的な対策を取ることを決めました。
国連WFPは2018年5月時点で、特に貧困に陥っている移民35万人への緊急食料支援を始動させるため、4,600万米ドルの資金を必要としています。