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【日本人職員に聞く】内戦、エボラと惨禍を経験したシエラレオネで復興を目指す

, WFP日本_レポート

シエラレオネは、西アフリカの北大西洋岸に位置する小国で、1991年~2002年には内戦、そして2014~2015年にはエボラ出血熱の流行で多くの人が命を落とすなど、危機に陥った国です。そんな同国で、国連WFPシエラレオネ事務所・副代表を務める津村康博さんにお話を伺いました。

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日本に一時帰国の際は、現地の状況をドナーに報告するようにしている津村さん。

人口の半分が食料不足

シエラレオネの人間開発指数(HDI)* は189カ国中184位と非常に低く、洪水などの自然災害や気候変動の影響も受けやすい脆弱な国です。 食料安全保障の面でも課題が山積しています。人口の53.4%が食料不足(2019年値)で、この値は2015年の49.8%や2018年の43.7%と比較しても悪化しています。原因としては食料の生産性の低さ、気候変動による自然災害、貯蔵技術等が整っていないことによる収穫後のロス、輸入食料への依存、それによるインフレの影響(通貨暴落による輸入食料の価格高騰)が挙げられます。 *人間開発指数(HDI):保健、教育、所得という人間開発の3つの側面に関して、ある国における平均達成度を測るための簡便な指標。国連開発計画(UNDP)が毎年報告している。

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2017年8月、豪雨により首都フリータウンでは洪水と地滑りで多くの人が亡くなり、家屋も被害を受けました。©WFP/Caroline Thomas

状況改善のための5カ年計画

これに対し国連WFPは様々な支援を行っており、昨年は、5つの柱(緊急、栄養、農業、給食、政府の能力強化)からなる5カか年計画を策定しました。この計画の大本はシエラレオネ政府の開発計画を後押しするということで、2018年の政権交代で新たに着任した大統領が教育に重点を置いていることから、給食支援への強化を念頭に置き、他4つの支援をリンクさせようとしています。

例えば農業を挙げると、農村で作られたものを給食の食材として購入するという取り組みです。この、地元農家から食料を調達して行う給食支援については2030年までの達成を目指しています。また給食事業自体も、将来政府が独自にできるよう能力強化も進めています。

栄養支援も重要です。シエラレオネの人たちはお米が大好きで、政府関係者との会合でもお米がたくさん出たり、コーヒーブレイクにもお米が出てくるほどなのですが、逆に言うとお米以外のものを十分に食べず、栄養が極端に偏りがちです。このような背景があるなか、WFPの農業支援では農家の方々が様々な作物を作れるようにトレーニングしたり、食事の際の栄養の摂取がもっと豊富になるようアドバイスしています。

持続的な支援を目指す

5カ年計画を実行していくにあたり、課題は他にも色々あります。 実はシエラレオネでの活動資金の多くは日本から寄せられており、日本頼みになってしまっているところがあるのです。持続性も考慮し、今後はより多くの国からの支援を得られるようにしたいと考えています。また、支援金の使途期間についても、1年限りというものが多いのですが、一つのコミュニティを開発させるのにも数年単位の期間が必要です。よって、支援者の皆さんには、継続的に長期に渡って支援してもらえればと思っています。 他にも、活動の効率化、無駄の削減、ユニセフやFAOなど他団体との連携など、力を入れていきたいことは多々あります。

内戦の傷跡

シエラレオネに特徴的な課題もあります。 一つ目はやはり20~30年前の内戦です。かつては西アフリカのアテネとも呼ばれ、各地から若者が学びに来るような国でした。しかし内戦により教育がストップし、今まさに国を引っ張っていかなければならない世代の能力が不十分なのです。WFPで栄養士など現地職員を採用しようにも若い世代には条件を満たす人がなかなかおらず、一度は72歳の方を採用したこともありました。

現在はすべての子どもたちが無償教育を受けられますが、生徒数が多く、逆に教師は不足しており1人の先生が100人の生徒を見ているような状態で、課題ではありますが、何とか給食で子どもたちの教育を支えていきたいと考えています。

不均衡の是正を目指す

伝統的な慣習が問題を引き起こすこともあります。シエラレオネでは、「パラマウントチーフ」と呼ばれる昔ながらの土地の有力者や年配の男性たちがコミュニティを治めています。このような場合たいてい、若者や女性が富の配分から除外されてしまっているのです。南部のある村ではパラマウントチーフが住民に知らせずに西欧の企業に水田用の土地を賃貸してしまい、住民はその利益を享受できませんでした。そのために昨年3月には暴動が起こり亡くなった方も出ました。若者の間に不満が高まっており、対処せずにいると平和に影を落とすことにもなりかねません。

そこでWFPでは、水田整備や田植えなどの共同作業がきちんと行われているかのモニタリングを地元の若者にやってもらい基本的な農業技術に関する研修を支援したり、対価を支払うなどの活動を行っています。さらに、国連本部の平和構築基金から資金が出され、副大統領府とUNDPのあっせんで、パラマウントチーフと住民が対話する場が設けられたり、WFPの指導で住民が収入につながるトレーニングを受けたり食料支援や農村インフラ支援を受けられることになりました。

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平和構築基金のサポートにより、女性や若者も支援を受けられます。©WFP/Olivia Acland

宗教に寛容な国

このように、シエラレオネには様々な課題がありますが、希望もたくさんあります。ユニークなのは、宗教に寛容という点です。例えば、大統領はクリスチャンですが、大統領夫人はムスリムです。また、改宗する人も結構いて、私の門番をしてくれている人は以前「ジョン・マイヤー」というクリスチャン系の名前だったのですが、ある時名前を呼んだところ、「自分の名前はモハメド・カマラだ」とムスリム系の名前を言われたのです。聞くと「改宗した」とのこと。宗教に寛容なのは、衝突の火種が少ないということで良いことだと思います。人々もいつもにこやかで温厚です。

他にも、英語が公用語であること、治安が良いことなど、国際的なビジネスもやりやすく、成長が見込めると思います。

過去への逆戻りを回避したい

近年では、エボラも終わり、内戦も昔のことと見なされ、支援者離れが起きてしまっています。しかし、この国では、人口の半分が食料不足なのです。支援を急にやめてしまうと、人々の間に不満が高まり、昔に逆戻りしてしまう可能性もあります。皆様には、日頃のご支援に感謝するとともに、継続的なご協力をお願いできますと幸いです。

津村康博(つむら・やすひろ) 東京大学卒、上智大学大学院修了。民間企業・団体を経て、1998年より国連WFPに勤務。ローマ本部、日本事務所、コソボ、ケニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、セネガル、モーリタニアと各国を歴任し、2018年8月にシエラレオネで事務所副代表に就任。プログラムの企画、調整、実施に係る各チームの管理、サブオフィス2カ所の監督、他国連機関との連携、政府やNGOとの調整など、業務は多岐にわたる。シエラレオネの住環境は悪くないが、保健衛生面ではリスクも多いので、就寝時は蚊帳を使用したり、偽の薬には気を付けるなど、健康管理には気をつけている。

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内戦、エボラ出血熱と苦しんできたシエラレオネの人々が、復興を推し進めていけますよう皆様のご支援をお願い致します。ご寄付はこちら