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【日本人職員に聞く】日本が支えるシエラレオネの米作り、そして新型コロナウイルスの影響

, WFP日本_レポート

前編 「内戦、エボラと惨禍を経験したシエラレオネで復興を目指す」はこちらから

シエラレオネは、1991年~2002年には内戦、そして2014~2015年にはエボラ出血熱の流行で多くの人が命を落とすなど、危機に陥った国です。そんな同国で、国連WFPシエラレオネ事務所・副代表を務める津村康博さんに、日本からの支援について、気候変動の影響、そして新型コロナウイルスとの戦いについてなどお話を伺いました。

日本からの支援が西アフリカの農村食料安全保障開発支援のモデルに

西アフリカでは20年前から日本の農林水産省の拠出で小規模農家の食料安全保障支援を行っています。コートジボワール、ブルキナファソ、マリ、セネガル、ギニアビサウ、シエラレオネ、リベリアの7カ国が支援を受け、荒れ地を水田に変え、米の増産と農民の収入向上など持続可能な食料安全保障に役立っています。いくつかの国で過去に支援された農村を訪れましたが、どこも支援終了後も、自分たちの力で米や野菜の生産を続け、余剰分を売って収入にしたり学校に寄付したりしています。このプロジェクトは持続可能な学校給食や母子栄養支援とも相性が良く、西アフリカの農村食料安全保障開発支援の一種のモデルとも言えます。

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JICA技術支援とWFPの食料支援を受けて水田灌漑設備を整備する村人たち ©WFP/Mohamed Sawaneh

「自分たちの力で米を作れるようになった!」

そのような中、人々の自立を支援する水田整備支援のプロジェクトで言われた「日本の援助米はとてもおいしい。そのお米のおかげで、水田を整備する仕事に専念でき、今度は自分たちの力でより多くの米をつくれるようになった。ありがとう!」とという言葉は大変嬉しく、支援活動をしていてよかったと思えた瞬間でもありました。

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日本政府の拠出で実施している給食事業が行われている学校で学校菜園プロジェクトを立ち上げた日本のNGO関係者と © Desmond Jones

最近のアフリカでの気候問題

勤務したアフリカ5カ国すべての国においても気候変動の影響は顕著です。特に西アフリカは降雨パターンの異常による影響が大きく、セネガルやモーリタニア等サヘル地域では干ばつを、シエラレオネにおいてはすさまじい豪雨による土砂崩れや洪水を目の当たりにしました。干ばつや洪水でなくとも「降雨パターンの異常」というのは、雨季の間に降水がまんべんなく降らないことだけでも農作物の発育に大きく影響します。また、土壌の劣化も、生産性に大きな影響を及ぼします。土地が荒れ、作物がとれなくなった農村からは出稼ぎや移民などで人口が流出して、食料生産のさらなる低下、農村の空洞化や都市問題へとつながっていきます。

これに対し、灌漑設備を整備するだけで、少々雨が少なくても、逆に多くても、農地に一定の水量を保ち、土壌の疲弊や肥料が流されてしまうのを防ぐことができ、降水量の異常などの事態にも耐えることができます。

国連WFPは災害発生後にも国連随一の緊急人道支援組織として活動を行っていますが、災害自体が起こらないように、予防や緩和策を支援した方が人々の苦しみも減り、開発も持続します。国連WFPシエラレオネとしても災害予防・緩和にもっと投資していきたいと切に希望しています。

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シエラレオネ北部の学校で給食調理中の様子。© Desmond Jones

シエラレオネにおける新型コロナウイルスの影響

(2020/4/17時点)

シエラレオネでもアフリカの他の国々よりも遅く3月30日に最初の感染者が出て以来、感染者数は増加を続けています。 シエラレオネは2014年から2016年にかけて、エボラ出血熱により多くの人命が失われました。このため、人々も政府も新型コロナウイルスの流行拡散に対する恐怖感がより強いと感じています。シエラレオネの保健医療システムは脆弱で、もし本格的に感染が拡大したらひとたまりもありません。 さらにコロナ直接の被害よりもむしろ、コロナ対応に医療資源が独占されていること、対コロナ措置による国内移動制限や国際物流の低下などの社会経済面での影響がずっと深刻になっています。

現在、国連WFPも他の国連機関と協力して新型コロナウイルスへの対策にコロナ上陸前の準備段階からシエラレオネ政府を支援、感染者が出てからは更に支援を強化しています。新型コロナウイルス予防や検査、隔離に必要な物資の運送・貯蔵のサポートを、助言や事務代行、車両や倉庫の提供などによって行っています。また、感染者を隔離・治療するための医療施設のインフラ強化も支援しています。これはまさしくエボラ支援を行った際に、試行錯誤してやったことをなるべく生かして行っています。

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WFPによる新型コロナウィルス感染者治療施設設置中の様子 © WFP/Khadijah John

テレワークシステムへの支援や追加食料支援

また、世界各地で移動制限やテレワークが推進されていますが、シエラレオネでも大統領官邸をはじめとした政府機関がウィルス感染のリスクを最小限にするためビデオ会議を最大限利用するための支援を国連WFPが率先して行っています。 さらに、保健省栄養局と国連WFPが、「COVID19(新型コロナウイルス肺炎)食料支援・栄養セクター委員会」の合同議長を務め、新型コロナウイルスによる影響をうけた貧しい人々に対する食料・栄養支援の拡大を準備していますが、資金が圧倒的に不足しています。

ロックダウンされても水汲み、食料調達は毎日必要

「ロックダウン」も4月8日から全国で3日間実施されました。今後も感染者が増えるにつれ、政府も長期間のロックダウンを強行したいという動きが出ています。それは純粋に感染拡大を防ぐために人の移動・接触を最小限にするという点では効果的かもしれませんが、多くのアフリカ諸国ではそもそもその日その日の生活が苦しい市民が買いだめをすることも難しく、また水道が不備のため都市でもほぼ毎日水汲みをしなくてはならない人が大勢います(3日間のロックダウンですら水を求めて水汲み場に押し寄せる人が出た次第です)。

感染の危険をできるだけ最小限にして市場への食料供給・アクセスが確保できるような、例えば「スマートロックダウン」のようなものを行うことができないか現地政府関係者にもCOVID19食料支援・栄養セクター委員会を通じて話をしています。しかし状況は日々変化するため、そしてこのようなことは政治的な決断によることが多いためどうなることか最後までわからないのが現状です。

日本の皆様へ

シエラレオネは日本から大変遠いのですが、日本がここ数年国連WFPのシエラレオネでの活動の最大の支援国となっています。

日本も新型コロナウイルスの影響で大変な状況にあることをアフリカからもインターネットを通して承知しています。日本で命を落とされた方々やそのご家族にお悔やみ申し上げるとともに、日々感染の恐れや活動の自粛による社会的・経済的影響を被り大変な生活を送っていらっしゃる方々にも心よりお見舞い申し上げます。

このような日々ですが、世界中でひとりひとりが他者、家族、自分自身を思いやり、自分ができることを粛々とやっていくことがこの世界的災害が収束へと向かうための「戦い」だと思いますし、遠くにいる皆様とも同じ戦いにあるのだという連帯感を感じています。皆様の無事を祈りつつ、できるだけ早く収束した世界でお会いしたいと願っています。

津村康博(つむら・やすひろ) 東京大学卒、上智大学大学院修了。民間企業・団体を経て、1998年より国連WFPに勤務。ローマ本部、日本事務所、コソボ、ケニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、セネガル、モーリタニアと各国を歴任し、2018年8月にシエラレオネ事務所副代表に就任。プログラムの企画、調整、実施に係る各チームの管理、サブオフィス2カ所の監督、他国連機関との連携、政府やNGOとの調整など、業務は多岐にわたる。シエラレオネの住環境は悪くないが、保健衛生面ではリスクも多いので、就寝時は蚊帳を使用したり、偽の薬には気を付けるなど、健康管理には気をつけている。

内戦、エボラ出血熱と苦しんできたシエラレオネの人々が、復興を推し進めていけますよう皆様のご支援をお願い致します。ご寄付はこちら