優しさあふれるペルーのお鍋:国連WFPが遠隔地で温かい食事を支援
ほとんどの観光客は、リマに到着するとすぐに南へ向かい、神秘的なナスカの地上絵やアンデス山脈のインカ遺跡、鮮やかな色のポンポンをつけたふわふわのアルパカを探しに行きます。でも、私たちは違います。
早朝に霧の中に見える太平洋から打ち寄せる波に背を向けて、リマのパン屋やセビチェリア(ペルー料理のセビチェを提供するレストラン)のある大通りを離れ、サン・フアン・デ・ルリガンチョ地区の荒涼とした砂地のセロ(小丘)を北上していきます。
ペルーで最も人口の多いこの地区には、新型コロナウイルスの流行時にWFP国連世界食糧計画(国連WFP)が始めた「オヤス・コムネス(みんなの鍋)」プロジェクトのキッチンがいくつかあります。当時、この遠隔の地では、人びとは働くことも、食料を手に入れることもできませんでした。
当初、国連WFPWFPは弱い立場に置かれたな家族に食料キットを配布することで政府を支援しました。しかし、もっとできることがあることが明らかになりました。このような状況では、国連WFPが得意とする輸送が重要な役割を果たします。そこで国連WFPは、パートナー機関から寄付されたジャガイモ、セロリ、イチゴ、タマネギ、ブドウなど、本来なら廃棄されてしまう規格外の生鮮食品を、オヤス・コムネスを利用する困っている人たちに運ぶ橋渡しをしました。
米国などの支援を受けて、この国連WFPのプロジェクトは現在、非営利団体カリタス、ペルー銀行、地元農家など16のパートナー機関に支えられています。今後、さらに4つのパートナーシップを締結する予定です。
国連WFPとそのパートナー機関は、リマ市内だけでも2,000のオヤス・コムネスに規格外の生鮮食品を提供し、これまでに数十万人の人びとに届けています。
規格外食品は、幅広い分野の生産者から提供されています。ペルー南部のイカで広大な550ヘクタールのブドウ園を営む農業会社からは、収穫されたブドウの中から、完全とは言えないものや「日焼けした」ものが提供されます。またリマ近郊のパチャカマク渓谷でセロリを栽培しているアヤクーチョ出身の農家、フアナさんなどの個人農家も含まれます。規格外といっても、傷んだりしているわけではありません。規格外食品の安全性と品質は、収穫、洗浄、保管、輸送に至るサプライチェーンにおいて、国連WFPが供給者や農家と結ぶすべての契約の主要な要素となっています。
私たちを乗せた小さな車は、砂や石の上で怒ったように車輪を回転させながら、砂地の急な道やきついカーブを必死で登っていきます。決して優雅な到着ではありません。ペルーの友人たちは11月でも春だと言いますが、私たちは寒さに耐えながら車を降り、同じように冷え切った厨房へと向かうと、このオヤス・コムネスの料理人、ジュディス・エルナンデスさんが野菜を切っていました。
現在、彼女はベネズエラ人難民を含む約84人のために料理を作っています。1食2ソル(0.50米ドル)で販売する予定です。彼女は、支援された規格外の食品でメニューを組みますが、いつかペルーのミント、ワカタイ(シオザキソウ)を手に入れたいと夢見ています。
11歳の双子の母親であるジュディスさんは、将来のことを考えるのは大変だと言いますが、地域社会の役に立てることはとても嬉しいと言います。「もし私たちがこれをやめてしまったら、多くの人びとは本当に食べるものがなくなってしまうのです」と彼女は言います。
栄養不良との闘い、絆の構築
新型コロナウイルスの世界的流行のピーク時には、ペルーの人口の12%が深刻な食料不足に陥るという前例のない事態が発生しました。またペルーでは、発育不良、貧血、肥満という栄養不良の三重苦に直面しており、炭水化物が多く、加工食品が多い食生活に、新鮮で栄養価の高い食品を導入することが重要だったのです。
国連WFPは、栄養指導とともに、調理器具、冷蔵庫、食品容器などのキッチンキットを各オヤス・コムネスに提供し、食品の安全性や衛生に関する研修も行っています。また、特に5歳以下の子どもや妊娠中・授乳中の女性がいる家庭を対象に、健康的な生活習慣を促進するためのガイダンスも行っています。これらの取り組みはすべて、プロジェクトをより持続可能なものにすることを目的としています。
首都の中心都市ビージャ・マリア・デル・トリウンフォ地区にある別のキッチンを訪ねる車中では、鮮やかな緑や青、黄色に塗られた小さな仮設住宅や、切り立った崖の端にしがみついているような家が目に入ってきます。ここに住む多くの人々にとって、セロ(丘)は神とつながっている、神聖な場所なのです。
キッチンのスカイブルーのペンキは剥がれかかっていますが、中はストーブの暖かさに包まれています。巨大なバケツには、刻んだ赤タマネギが準備されています。小さな窓のそばでは、熱い油で手際よく鶏肉を揚げる女性がいます。彼女ともう一人の女性で96人分の料理を作っています。ここでは皆が、規格外食料に全面的に頼っているのです。
彼女たちは忙しそうで、もうお昼時でしたから、私たちは長居はしませんでした。
オヤス・コムネス・プロジェクトの未来は明るいようです。より多くのパートナーと資金を得ることで、国連WFPはペルー全土の都市や遠隔地で、安全で栄養のある食料を必要とするより多くの人びとに手を差し伸べることを望んでいます。また、ここリマで、食料の確保、食の安全、栄養に焦点を当てたオヤス・コムネスの運営を強化することも目指しています。
食は生きるための手段であることは明らかです。しかし、オヤス・コムネス・プロジェクトでは、食は人と人を結びつけ、つながりを築く強力なツールでもあるのです。リマに立ち込める霧や海岸に打ち寄せる太平洋の波のように、コミュニティと食の絆はこれからも続いていくのです。
国連WFPはオヤス・コムネス・プロジェクトを通じて、2021年7月から2022年7月にかけて、約25万人に8,000トン以上の食料とキッチン用品などの非食料品を配給しました。米国国際開発庁の人道支援局からのこれまでの500万米ドル以上の支援により、その範囲を拡大・強化する予定です。