キルギス共和国:ハーブ産業が山間部の農家を救う
キルギス北部のアト・バシ地区に住む数千もの人びとと同じく、バクトゥギュル・カルムシャコワと彼女の大家族は不安定な生活を送っています。中国と国境を接するこの地域は、容赦のない山岳地帯の気候のために、農業は危険を伴い、雇用機会もほとんどありません。
天然資源に恵まれていますが、内陸に位置するキルギスは、海外からの送金や支援に大きく依存しているために、外的ショックに脆弱な国でもあります。世界的な食料危機で主食の価格が高騰しているところに、新型コロナウイルスによる規制が貧困に追い打ちをかけました。
バクトゥギュルと彼女の家族は、さらなる困難に直面しました。夫が腰の怪我のため働くことができなくなったのです。政府から支給される生活保護だけでは、7人の子どもたちを養うことはできません。
「私たち夫婦には仕事がないので、主に畑で働いています」と彼女は話します。そこは、これまでジャガイモを栽培してきた小さな畑でした。
国連WFP主導のプロジェクトにより、バクトゥギュルのような女性たちが新たな収入を得る機会がもたらされています。日本、キルギス国内の地方自治体、現地企業の支援により、アト・バシ地区のきれいな水と新鮮な空気を生かして、エッセンシャルオイル用のハーブを栽培しています。
本プロジェクトは、気候変動や環境汚染などの影響で、多くの国でハーブオイルの生産が難しくなっているという国連WFPの調査に基づいて開始されました。これは、アト・バシ地区の農家にとって、製品への高い需要を意味します。
現金支援とハーブ栽培の農業研修
国連WFPは、約1,000人の小規模農家に対してハーブ栽培の農業技術に関する研修を行いました。参加者のほとんどが女性で、バクトゥギュルはそのひとりです。国連WFPから100米ドル相当の奨励金が支給されたほか、高品質のハーブを収穫できるよう、地元の農業関連会社から指導を受けました。
国連WFPキルギス共和国事務所の中井恒二郎代表は、「日本の支援により、国連WFPは政府、企業、農家の革新的な協働プロジェクトを実現し、アト・バシ地区に住む脆弱な人々の収入機会の創出に貢献できています」と述べました。
人口の約15%、100万人以上が深刻な食料不安に陥るキルギスでの本取り組みは、参加者にとって新しい世界を切り開いています。
昨年の一年間で、国連WFPは、同国の25万人以上の脆弱な人びとに支援を届けました。その多くはバクトゥギュルのように仕事を持たず、雇用機会の少ない農村部に住んでいました。
「村には季節労働があります。村の中には、冬に備えて家畜の飼料を準備する人がいれば、羊や牛、馬の世話のために牧草地に移動する人もいます」と、バクティガルが住むアクジャール村のケンジェベック・カチュクンバエフ 自治会長は話します。
「このプロジェクトは私たちの村を救ってくれると信じています」エッセンシャルオイルやドライハーブの小規模産業の立ち上げについて、こう語りました。
新たな目標、新たな市場
国連WFPは、プロジェクトに参加する地元企業に、機器の提供と食品の安全性や加工に関する研修を実施しました。また、地方自治体が建物の改修を支援し、その中に新しい工場が作られています。化粧品、食品、漢方薬、医薬品などの産業用に、最大3,000kg/日のハーブをエッセンシャルオイルや乾燥製品に加工できるようになりました。
バクトゥギュルをはじめとする生産者は、生のハーブ原料を供給しています。
「脆弱な家庭がハーブを栽培し、工場で販売することで副収入を得ることができます」とカチュクンバエフ自治会長は話します。
国連WFPは工場で加工された香りつき石鹸やスティック、キャンドルの現地販売も支援しています。今後、これらの製品を海外で販売する計画もあります。
バクトゥギュルもまた、将来の計画を立てています。彼女はハーブの生産の拡大と、カモミールなどの新しいハーブも加えて多様化させたいと考えています。工場は確実にハーブを買い取ってくれるため、バクトゥギュルは今年、早めの植え付けを行って、花が咲いたらより多く売ることを目指しています。
「私たちはこのプロジェクトを通じて、ハーブ畑を拡大させ、新たな収入源を得て、最終的には自分たちの生活を向上させることを目指しています」とバクトゥギュルは言います。
彼女は自分でビジネスを立ち上げることも考えています。「頑張れば、きっと報われるはずです」